キャデラック XT5クロスオーバー試乗|ドイツ車とは明確に異なる、アメリカン高級車ブランドの個性を堪能(1/2)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:和田 清志・茂呂 幸正
アメリカを代表する高級車ブランド“キャデラック”
アメリカを代表する高級車ブランド”キャデラック”の中でも、特に注目したいモデルが、SUVの「キャデラック XT5クロスオーバー」だ。SUVの本場ともいえるアメリカで鍛え上げられた真の実力とは。
試乗レポートを届けてくれたのは、キャデラックなどアメリカ車の歴史にも精通する自動車評論家、渡辺 陽一郎さんだ。その成り立ちから走りの性能に至るまで、XT5クロスオーバーの詳細について徹底的に評価する。
ドイツ3大ブランドやレクサスとは異なる個性、キャデラックの魅力とは
最近の自動車メーカーはブランドを重視するようになった。ユーザーのニーズも多様化して、単純に開発と製造を行うだけではユーザーに魅力が伝わりにくい。またトヨタが上級のレクサスを設けたような場合、少なくとも日本では、トヨタとの違いやブランドの訴求が不可欠になる。
ブランド性が特に重視されるのは、価格の高い高級車だ。安全面を含めた機能や実用性のほかに付加価値も求められるから、ブランドとして訴求せねばならない。
例えばレクサスであれば、コンパクトなCT200hからLサイズのLSまで、すべてに共通した持ち味があり、それがブランドを形成する。
最も分かりやすいのはドイツ車だろう。メルセデス・ベンツは、走行安定性が優れ、内外装や乗り心地を快適に仕上げた。いわば総合バランス型だ。BMWは安定性を確保しながら、少し機敏でスポーティな運転感覚を持ち味にしている。アウディはBMWの対極で、リラックスできる雰囲気を味わえる。この3ブランドが分かりやすく共存することで、相乗効果も生じてドイツの3ブランドは人気を高めた。
これに比べるとレクサスは、ブランドが完成されていない。以前はアウディ風だったがインパクトが弱く、今は少し派手なデザインと、やや過剰ともいえる機敏な運転感覚を重視するようになってきた。少し子供っぽさもあるが、これは仕方ない。メルセデス・ベンツ/BMW/アウディの3ブランドがあれば、プレミアムカーに向けた大半のニーズがカバーされるからだ。
レクサスは、このドイツ3ブランドの古くから確立されている「縄張」を避けてブランド構築をせねばならず、やや子供っぽくアクの強い方向へ振るしかないのだろう。
逆に昔のローバーのように、思い切り穏やかに、紳士的な上品さで仕上げる手もあるとは思うが、好調な売れ行きは望み難い。このレクサスと同じような難しさを抱えるのが、アメリカを代表する高級車ブランド「キャデラック」だ。
キャデラックにとって1974年から1997年は“失われた世代”だった
豊かなアメリカを象徴する高級車だったが、1973年のオイルショックで状況は一変
日本でキャデラックの輸入業務を行うゼネラルモーターズ・ジャパンの説明によると「1974年から1997年は失われた世代だった。ノーススターエンジンなども開発されたが、全般的に積極性が乏しかった」と振り返る。
1970年代前半までのキャデラックは、大柄なボディにV型8気筒の大排気量エンジンを搭載して(第二次世界大戦前にはV型16気筒もあった)、内外装はクロームメッキのパーツをタップリと使っていた。まさに豊かなアメリカを象徴する高級車だったが、1973年のオイルショックで状況は一変する。
1975年に初代「キャデラック セビル」が発売され、このクルマは日本国内でも「ブロアム」や「フリートウッド」に比べると明らかに小市民的で、キャデラックの凋落を感じさせた。
この時から、欧州車をターゲットに開発された5代目キャデラック セビル(発売は1998年)、初代「キャデラック エスカレード」(1999年)がデビューする頃までを「失われた世代」としているわけだ。
言い換えれば1998年頃からキャデラックは新時代を迎え、車種構成はユーザーニーズに合わせてSUVに力を入れるようになった。
ゼネラルモーターズ・ジャパンによれば「セダンも路線が大幅に変わり、居住性よりもスポーティな運転感覚を重視する。背景には高齢化するユーザーの若返りと、欧州での販売もあった」という。
キャデラック再生の20年を経て最新モデルはどう進化を遂げたのか
果たしてこの20年間で、キャデラックはどのようなブランドを確立させたのか。
今は日本のレクサスも新型のLSやLCが発売され、新しい世代に入っている。ドイツのプレミアム3ブランドではなく、キャデラックを選ぶ価値はどこにあるのか。
2017年10月に販売を開始した「キャデラック XT5クロスオーバー」の上級グレード”プラチナム”(754万9200円消費税込み)を改めて試乗した。
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