THE NEXTALK ~次の世界へ~ トヨタ自動車 田中義和 チーフエンジニアインタビュー(3/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤靖彦
【田中義和】技術開発の面で、プリウスのハイブリッドシステムに、充電機能を加える必要がまずあります。しかし、そうした電気に関わる技術は、1990年代のRAV4EVや、シティコミューターEVのe-comなど、プリウスの前に行っていた電気自動車の経験が活きてきます。また、バッテリーに溜めた電気を、インバータを通じてモーター駆動に使うとか、減速のときの回生(モーターを発電機として機能させ、発電し、同時に減速力としても活用する機能:筆者注)は、ハイブリッドカーのプリウスでもやってきていることなので、実は、ハイブリッドカーと電気自動車はそれほどかけ離れた存在ではありません。ハイブリッドカーからエンジンを外せば電気自動車になる、そんな感じです。
そして電気自動車にまつわるような電気系を開発できる技術者も居ます。そのうえで、いよいよ市販するとなると、単に実証実験車を数台作るのとは違う難しさがあります。数百台という規模から、何千台何万台と生産する際には、品質を保つための生産方法を構築しなければなりません。数が少ないうちは、一台一台丁寧に面倒を見ながら作れますが、大量生産となれば、生産ラインの中でその品質を保たなければなりません。
次に、買って戴いたあと、中古車になってもどれだけの価値を残すことができるかまで検討します。バッテリーはどれほど劣化するのかとか、ある程度劣化してもハイブリッドカーとしてお客様に満足していただける性能を保持することができるのかなど。
そうした議論を経ないと、単に試作車とか実証実験車でプラグインハイブリッドカーの性能は達成できても、量産し販売していいと言う許可が会社からおりないのです。
さらに、日米欧で600台を使ったリース車による実証実験が、商品性をあげるのに大いに役立ったと田中和義は語る。
【田中義和】お陰様で、その600台のリース車の段階でも、試乗をしていただいたジャーナリストの方々などから、「もうこれで売っていいんじゃないの」という高い評価を戴きました。また社内でも、一刻も早く市販したほうがいいのではないかという意見もありました。
しかし、実際に使ってみると、細かい点で改善の要望が出ました。たとえば、バッテリーの容量を増やしたことによって、荷室の床がわずかでしたが高くなっていました。あるいは、充電用のケーブルが重い、充電口が夜間に暗くて見にくい、充電口のふたが二重になっているので使いにくい、充電のインジケータが遠くて見えにくい…など、当初から開発する我々が想定し、市販の際には改良しなければと思っていたこともありますし、思ってもみなかった改善要求もありました。
とくに充電は毎日のことですから、少しでも不便な点があると嫌になってしまいます。 それから、豊田市にお住まいの方に25台を貸出した際には、充電によって家のヒューズが飛ぶということが、1/3で起きました。12月の受注開始直前の6~8月の出来事でしたので、急いで改善を織り込む慌ただしい作業になりましたけれども、それは苦労と言うより、トヨタでは改善が当たり前であり、社のDNAといえます。
他にも、価格をいかに抑えるかなど、市販へ向けた苦労をあげればきりがない。320万円からという価格設定については、安値を印象付ける廉価版を設けることをせず、前席に設けたシートヒーターなど基本装備は、グレードの違いと関係なく標準装備として優れた商品性を維持した。
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