トヨタ センチュリー新旧比較|日本を代表する最高級セダンの進化を探る
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:小林岳夫/茂呂幸正/トヨタ自動車
かつては自動車メーカーのステイタスだった特別な高級セダン
トヨタ センチュリーは、日本車で唯一、後席の居住性を重視して開発されたクルマだ。主な顧客は法人で、重役が移動する時の社用車などに使われる。
日産 シーマも今はフーガハイブリッドのロング版になり、同様の需要があるが、以前は一般オーナーの運転する高級セダンだった。センチュリーと同じ位置付けになる日産 プレジデントが廃止され、シーマがこの役割を受け継いだ。
過去を振り返れば、各メーカーとも法人向けの高級セダンを用意していた。三菱にはデボネアがあり、マツダはGMホールデンプレミアのボディに13B型ロータリーエンジンを搭載して、ロードペーサーを造った。法人向け高級セダンを用意することはメーカーにとって一種のステイタスだったが、海外市場を重視する今では、このような思い入れも薄れた。
新型センチュリーはまだ「特別なクルマ」なのか?
それでもトヨタだけはセンチュリーを造り続け、2018年6月にフルモデルチェンジを受けた。生産台数の少ない特殊な車種だから、初代モデルの発売は1967年、2代目の先代型は1997年、3代目の新型が2018年になる。
21年ぶりのフルモデルチェンジだから、スズキジムニーに似ている。当然ながら、エンジンからプラットフォームまですべて刷新された。
従来型はセンチュリー専用に開発された機能が多く、先代型のV型12気筒5リッターエンジンは、ほかの車種には搭載されていない。
しかし新型は、V型8気筒5リッターのハイブリッドシステムを搭載するが、プラットフォームも含めて先代レクサスLS600hからの流用だ。
駆動方式は後輪駆動になる。先代レクサス LS600hは、高い動力性能を路面へ的確に伝えるためにフルタイム4WDを採用したから、新型センチュリーは機能を下げたとも受け取られる。少なくともセンチュリー専用のV型12気筒を搭載した先代型に比べると「特別なクルマ」という印象は薄れた。
そこで新型センチュリーを先代型と比べることにした。
トヨタ センチュリー|ボディスタイル/サイズ/視界/取りまわし性比較
外観は、初代/2代目/新型で共通性を持たせている。伝統が重視される最高級セダンだから当然だろう。塗装も入念に行われ、鏡のような光沢を醸し出す。
新型のタイヤサイズは18インチ(225/55R18)を装着する。先代型の16インチ(225/60R16)に比べると、ホイールサイズが2インチ拡大された。
この違いが外観に与える影響は小さくない。先代型はタイヤ側面に厚みがあり、視覚的にも空気の充填量の多いゆったりした乗り心地を連想させた。高級車らしい重厚感も伴ったが、18インチの新型では落ち着いた雰囲気が薄れている。
今ではロールスロイスのファントムまで21インチタイヤを履くほどだから、もはや16インチはあり得ないのだろうが、インチアップすると上質で穏やかな見栄えの良さは薄れてしまう。17インチのバランスが良く、もう少し太くすると良いと思われる。
新型のボディサイズは、全長が5335mm、全幅は1930mm、全高は1505mmになる。全長と全幅は大柄で、現行レクサス LSと同程度だ。全高は1500mmを上まわり、日本車のセダンでは最も背が高い。
先代型は5270mm・1890mm・1475mmだったから、新型は少し大きい。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は先代型が3025mm、新型は3090mmに伸びたから、最小回転半径も異なる。新型は5.9mで、5.7mの先代型に比べると大回りになった。
ボディスタイルが水平基調だから、視界はLサイズセダンの中で優れた部類に入る。周囲が見やすいとはいえないが、新旧モデルともに斜め後方の視界も悪くない。
●進化度数:1点
トヨタ センチュリー|内装のデザイン/質感/操作性/視認性比較
高級セダンだからインパネ周辺も上質だが、基本的に職業ドライバーが運転するクルマだから、新旧モデルともに見栄えの上質感よりも機能が優先される。インパネは水平基調のデザインで、視認性と操作性は良好だ。
メッキパーツの使用箇所も少なく、運転に専念できる。ステッチが入るあたりは、今の流行を反映させた。新旧比較で大きな差はない。
●進化度数:1点
トヨタ センチュリー|前後席の居住性比較
センチュリーは新旧モデルともに日本のセダンでは最大級の室内空間を備える。
シートの座り心地は、21年の隔たりがあるから、先代型に比べると新型が優れる。前席の背もたれは、先代型では肩まわりのサポート性がいまひとつだったが、新型はしっかりと支える。大腿部のサポートも良くなった。
ただし職業ドライバーが扱うクルマらしく、新型でも感覚的な座り心地は、先代型から乗り替えて違和感が生じないように配慮されている。今の日本車の前席は、着座姿勢を安定させるために体の沈み込みを抑えるが、センチュリーは新型も少し柔らかい。乗員の体が沈んだところで支えるタイプだ。
後席は新旧モデルともに座り心地を柔軟に仕上げた。座ると体の沈み込方が大きめだ。これもセンチュリーの伝統で、やや硬めに感じるメルセデス・ベンツ Sクラスなどとは対照的になる。
その上で新旧モデルを比べると、新型は肩まわりから大腿部まで一層確実に支える。特に腰まわりのサポート性が向上した。
新型で注意したいのは着座位置だ。先代型に比べて全高が30mm高く、床と座面の間隔も広がった印象を受ける。少し高い位置に座るので、小柄な同乗者は大腿部を押された感覚になるかも知れない。
その代わり乗降時には腰の移動量が少なく、乗降性は新型が優れている。サイドシル(ドアを開いた時に見える敷居の部分)と床面の段差も小さく抑えられ、乗降時の足の取りまわし性が良い。
後席はさらに拡大し快適性も進化
新型はホイールベースが65mm伸びたので、後席の足元空間も広がった。先代型は身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ3つ分だが、新型では3つ半に増えている。新型の足元空間は、セダンでは最大級だ。頭上の空間は先代型とほぼ同じだが、握りコブシ1つ分は確保される。
後席のシートアレンジは、先代型も電動リクライニングを可能にしたが、新型ではシートバックの上側を起こすなど、さらに細かな調節が行える。
オットマンも変更された。先代型は助手席の背もたれの中央が後方へ反転する造りで、オットマンを使用すると助手席に座れなかった。ドライバーの脇に足を投げ出す行儀の悪さも気になったが新型では助手席の背面に装着された別体のオットマンが張り出す。
左側のシートにはリフレッシュ機能(マッサージ機能)も内蔵され、新型では複数の作動パターンを選べて快適性を高めた。
●進化度数:7点
トヨタ センチュリー|動力性能比較
先代型のV型12気筒5リッターエンジンは、最高出力が280馬力(5200回転)、最大トルクは49kg-m(4000回転)と控え目だったが、ノイズはきわめて小さく回転感覚も滑らかだった。3500回転付近から加速感が少し活発になる性格も併せ持つ。
新型はV型8気筒だが、モーターを併用するハイブリッドで、ノイズをさらに小さく抑え込んだ。もっとも静かなために、モーター駆動のみで発進した後でエンジンが始動すると、それが分かってしまう。高回転域まで回して走るクルマではないが、先代レクサス LS600hと同じハイブリッドシステムだから、吹き上がりは良い。動力性能は新型が上まわる。
新型を試乗中に注意したのは停車する時で、止まる寸前にブレーキ踏力をデリケートに緩めないと、前後にカクンと揺すられやすい。これは慣れの話で、職業ドライバーにとっては欠点にもならないだろう。
設計時期が大幅に異なるから、新型の方が良くできているのは当然だが、先代型にはV型12気筒という特別なメカニズムがあった。電子制御機能や燃料ポンプは左右6気筒ごとに別々に構成され、2つの6気筒エンジンを合体させた構造だった。そのためにエンジンのトラブルが生じても、片側6気筒で走行を続けられ、先代型のV型12気筒には特別な価値があった。
●進化度数:4点
トヨタ センチュリー|走行安定性比較
新旧センチュリーを乗り比べて、新型が最も大きく進化したと感じさせるのが操舵感と走行安定性だ。先代型の操舵感は、まさに20年前のLサイズセダンで、今のクルマに比べると正確性が低かった。ハンドルを切り始めた時の車両の動きが曖昧で、路面の状態も分かりにくい。熟練された職業ドライバーが時速100km以下で走らせるなら問題ないが、危険回避時の安全性も考えると、もう少し車両からの情報伝達が欲しいと感じた。
そこを新型は大幅に改善している。先代型から新型に乗り替えた時に違和感が生じないよう、ハンドルを切り込む時の反応は鈍めだが、路面の状態はそれなりに分かりやすい。車両の向きが変わりにくい性格ではあるが、走行安定性に支障はない。
またハンドルを切り込んだ時の車両の反応も、先代型に比べると唐突感が薄れた。峠道で前輪に荷重を移動させた上でハンドルを切り込むと、車両を内側へ向けやすい。こういう走り方は、本来の使い方から大きくはずれるが、安定性の高さを裏付ける。
ドライブモードセレクトも装着され、ノーマル/エコ/スポーツS/スポーツS+の4モードを備える。センチュリーに「スポーツ」という名称も面白いが、スポーツS+を選ぶとエアサスペンションのセッティングが硬めになる。低速域では床面の振動が若干気になるからノーマルモードが適するが、路面状態が優れた高速道路でスポーツS+を選ぶと、快適性を妨げずに安定性を高められる。
進化度数:9点
トヨタ センチュリー|乗り心地とノイズ比較
乗り心地と車内の静かさは、先代型も高い水準にあった。新型はそこをさらに引き上げられており、ノーマルモードで走ると特に後席の乗り心地は極上だ。路面から伝わるショックを吸収しながら、フワフワした余分な動きを抑えた。
大きな段差を乗り越えた時の突き上げ感もほぼ完全に吸収され、例えば歩道から車道に乗り入れるような大きな上下動が伴う段差でも、新型は快適性を保ち、先代型からさらに進歩している。
ただし新型の18インチタイヤを17インチに変更すると、乗り心地が一層マイルドになって快適性を高めるように感じた。
静粛性も優れ、方向指示機のカチカチする音が耳障りに感じるほどだ。新型はV型8気筒ながらもハイブリッドだから、モーターのみの走行も行われ、アクセルペダルを深く踏み込んだ時を除くとV型12気筒の先代型よりもさらに静かだ。
進化度数:5点
トヨタ センチュリー|安全&快適装備比較
先代型には緊急自動ブレーキが装着されなかったが、新型はかなり充実させた。トヨタセーフティセンスが備わり、センサーにはミリ波レーダーと単眼カメラを使用。歩行者も検知して、衝突の危険が迫ると警報を発したり緊急自動ブレーキを作動させ、さらに、後方の並走車両を検知して知らせる機能も採用した。
現時点ではアルファード&ヴェルファイアなどと違って自転車を検知できず、歩行者の夜間対応も含めて進化の余地を残すが、それでも先代型に比べれば衝突回避性能は格段に向上した。
エアバッグは、運転席のニーエアバッグ、前後席のサイドエアバッグなどが標準装備され、先代型にはなかった前後席のカーテンエアバッグも加えられた。
進化度数:10点
トヨタ センチュリー|燃費性能&エコカー減税比較
V型12気筒の5リッターエンジンを搭載する先代型のJC08モード燃費は7.6km/Lだったが、新型はV型8気筒5リッターでもハイブリッドだから13.6km/Lに達する。先代型から新型に乗り替えると、数値上は燃料代を40%少々節約できる。
また新型は2020年度燃費基準プラス20%に該当するため、エコカー減税の対象に含まれる。購入時に納める自動車取得税を60%、同重量税を75%軽減することが可能だ。
進化度数:9点
トヨタ センチュリー|グレード構成&価格設定比較
新旧モデルともに、グレードは基本的に1種類だ。先代型にはATレバーをハンドルの部分に装着するコラム式ATが用意されたが、新型ではこれが省かれてフロアシフトになる。
問題は価格で、先代型の最終型は1253万8286円だったが、新型は700万円以上も値上げされ1960万円に達する。
新型はハイブリッドになって安全装備も大幅に充実したが、先代型もセンチュリー専用のV型12気筒エンジンを搭載した。このエンジンは約20年間にわたり製造されたが、生産総数はセンチュリーと同じく約1万台にとどまり、トヨタプリウスの1か月の販売台数よりも少し多い程度だ。
新型センチュリーが先代レクサスLS600hをベースにコストを抑えたことも考えると、700万円の値上げ(比率に換算すると新型の価格は先代型の1.8倍)は高すぎる。
開発者によると、新型センチュリーの高価格は製造コストだけでなく、生産規模によるところが大きい。先代型を発売した時は1ヶ月の販売目標を200台に設定したが、新型は50台だ。センチュリーは国内専売だから1か月に50台では生産効果が悪く、販売規模の小ささが価格を押し上げた。
これはユーザーとは関係のないメーカーの事情だから、新型センチュリーは先代型よりも単純に割高なクルマになったと判断される。
進化度数:1点
トヨタ センチュリー|旧型と比べて分かった新型の総合評価
新型センチュリーは、今の日本で手に入る後席の最も快適なクルマだ。安全装備も進化したので、安心感も高まり選ぶ価値を向上させた。
ただし特別なV型12気筒エンジンが廃止されて、先代レクサス LS600hと同じV型8気筒のハイブリッドが搭載されたりすると、クルマ好きとしては寂しい。18インチタイヤを履いた外観も、流行に迎合した印象を受ける。
もっともセンチュリーの購買層にとって、これはどうでも良い話だろう。VIPが安全かつ快適に移動できて、同乗させる接客相手に対する失礼も一切なく、十分なもてなしができれば目的は達成されるからだ。1960万円の価格が許容されるなら、高い満足感が得られる。
進化度数:3点
[筆者:渡辺陽一郎/撮影:小林岳夫/茂呂幸正/トヨタ自動車]
トヨタ センチュリー新旧主要スペック比較
トヨタ センチュリー新旧主要スペック比較 | ||
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| 新型センチュリー(2018年式) | 旧型センチュリー(2013年式) |
駆動方式 | 2WD(FR) | 2WD(FR) |
トランスミッション | 電気式無段階変速機 | 6速AT |
全長 | 5335mm | 5270mm |
全幅(車幅) | 1930mm | 1890mm |
全高(車高) | 1505mm | 1475mm |
ホイールベース | 3090mm | 3025mm |
最小回転半径 | 5.9m | 5.7m |
乗車定員 | 5人 | 5人 |
車両重量(車重) | 2370kg | 2070kg |
エンジン | V型8気筒+モーター | V型12気筒 DOHC |
排気量 | 4968cc | 4996cc |
エンジン最高出力 | 280kW(381PS)/6200rpm | 206kW(280PS)/5200rpm |
エンジン最大トルク | 510N・m(52.0kgf・m)/4000rpm | 460N・m(46.9kgf・m)/4000rpm |
モーター最高出力 | 165kW(224PS) | ー |
モーター最大トルク | 300N・m(30.6kgf・m) | ー |
JC08モード燃費 | 13.6km/L | 7.6km/L |
使用燃料 | 無鉛プレミアムガソリン | 無鉛プレミアムガソリン |
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