スバルがディーラーメカニックを過酷な世界のレースに派遣する理由 ~NBR24hレース 10度目の挑戦~
- 筆者: 山本 シンヤ
- カメラマン:SUBARU
スバルとニュルブルクリンクとの関係は1989年から
スバルとニュルブルクリンクとの関係は1989年の初代レガシィ(欧州向け)の開発テストがスタートだった。現・STIテクニカルアドバイザーの辰己英治氏は「ここを開発の場として使わないと、欧州で“走りを語れる”クルマにならないだろうなと感じた」と当時を振り返る。その後、1992年に登場したインプレッサWRX(GC9)から開発の場として本格的に活用、歴代モデルは性能確認の指標としてタイムアタックが実施された。
更に2005年にスバルのセミワークス的存在のプローバがインプレッサWRX STIでニュル24時間参戦する際のサポートを経て、2008年はスバル/STIのジョイント、2009年からSTIワークスとして参戦を開始。2011/2012年、2015/2016年と2リッターまでのターボエンジン搭載車で争われるSP3Tクラスで2連覇を達成している。
スバルが掲げる「安心と愉しさ」の本質は“走り”
そして、10回目の参戦となる2017年は3連覇の期待が掛かっていたが、予選はライバルのアウディ/レクサスのパフォーマンスアップにより3位スタート。決勝は例年よりも高い気温と路面温度が原因の熱問題によるラップタイムの伸び悩み、他車との接触、そしてゴールまで残り3時間を迎えた所でエンジンルームからの出火でリタイヤと、非常に残酷な幕切れとなってしまった。しかし、STIのニュル24時間の挑戦は“勝ち負け”以外にも様々な役目を担っている。
その一つが“量産車技術”の証明である。現在スバルは「安心と愉しさ」をキーワードに掲げているが、その本質は“走り”にある。「走りを極めると安全になる」と言われるように、ドライバーが意のままに操ることで事故を回避する。そのためにはステアリングを切った時にクルマは遅れなく反応しなければいけない。そう、受け身ではなく攻めの安全を極めるためには、より過酷なステージ…つまりモータースポーツで積み上げたクルマ作りが重要となってくる。
チーム監督の菅谷重雄氏は「STIのモータースポーツ活動は量産ベースにこだわっているのはそこです。もちろん勝ち負けも重要ですが、我々はモータースポーツで語れる『安全と愉しさ』があると考えています。もちろんニュルのマシンはレース用に改造しているので全く同じではありませんが、レースカーもコンプリートカー(量産)も同じエンジニアが担当していることに意味があります。
かつてWRC参戦していた時、量産チームとモータースポーツプロ集団のエンジニアを行き来させて技術的なコミュニケーションをしたことがありますが、結果として目指している理想は同じだと解りました。そういう意味ではこの挑戦はコアな技術と言うよりも、STIの考える『クルマのあり方』や『モノ作りに対する想い』をユーザーに伝える手段の一つだと思っています」と語る。
更に辰己氏は「量産技術で戦うと言う考えは参戦当初から変わっていませんが、そこに“速さ”をより求めていくと量産と違うアイテムも必要になります。ただ、速さのために何でもやる…ではなく、STIのエンジニアが把握して自ら設計しているアイテムですので、それも量産技術という思想です。年々マシンは速くなっていますが、誰でも普通に乗れます。それくらい安定しないとニュルを安心して速くは走れませんから」と付け加える。
スバル独自の“人材育成”、ディーラーから357人が世界の舞台へ
もう一つの役目は“人材育成”である。スバルはWRCに参戦した頃からマシンサポートのために全国のスバルディーラーから厳選された「ディーラーメカニック(通称デメカ)」を派遣している。WRCには1990年のサファリラリーから2003年のオーストリアラリーまで311人、そしてニュル24時間には2008年から今年の6人を含め46人、計357人が世界の舞台で活躍してきた。
ただ、この舞台には誰でも立てるわけではない。「年齢は35歳位」、「メカニック経験10年程度」、「スバルのメカニック資格S/1級」の応募資格を持つメカニックの中から各特約店が1名を推薦。更に作業用映像や作業の注意点、自己PRを撮影した動画を元に選考が行なわれる。そんな狭き門を潜りぬけた精鋭が今年の6人だ。
●横井洋平さん(北海道スバル)
●原良多さん(福島スバル)
●佐々木一星さん(静岡スバル)
●内藤文さん(岐阜スバル)
●宇都宮正紀さん(京都スバル)
●村居孝政さん(大阪スバル)
中には過去に応募したものの何回かの落選を経験し、今回合格した人もいる。その中の一人、静岡スバルの佐々木一星さんに話を聞いてみた。余談だが、彼は筆者が数年前にスバル車を所有していた頃に整備を担当してもらった事もあるメカニックだ。
「実は2016年にも応募したのですが落選、今年2回目の挑戦で合格しました。静岡スバルとしては初となるニュル24時間のメカニックになります。静岡スバルのフェイスブックページにも掲載されているので、お客さまにも話題にしていただいています」。
現地でのテキパキとした作業やチームワークを見ると、他のプロチームのそれとほとんど変わらない。事前に何度もトレーニングを行なっていたように感じるが、全員が集まったのは3月のシェイクダウン以来だそうだ。
「もちろん、自分が出来る事を精いっぱいやってチームに貢献できるように頑張るだけですが、チームワークに関しては日々の業務でも必要な事で普段から鍛えられています。それはどのディーラーでも一緒なので、各拠点のメカニックが集まっても全く問題ありません。作業も時間内に『素早く/正確/確実』に行ない安全に走らせる事に関しては、普段の作業もピット作業も想いは一緒です。マシン自体は量産車よりも作業しやすい工夫がしてあるのが興味深かったですね」。
レースメカニック以上の動きに驚きの声も!
実際の作業はピット時のタイヤ交換やブレーキ交換、更には突発的な作業のサポートなどまで担当。特にレース途中のブレーキ交換は他のレースメカニック以上の動きに、近くにいたメディアから驚きの声が出たほど。また、他車との接触でドアの開閉がうまくできなくなる事態となった際も、冷静かつ確実に作業をしていた姿は、長年チームを組んできたかのような印象すら受けた。そう、確実にスキルとメンタルが鍛えられている。
レースはリタイヤと残念な結果となったが、佐々木さんは「悔しかったと言うのが素直な感想です。しかし、ニュル24時間のメカニックに選ばれたことがゴールではなく、まだまだ自分を伸ばせる部分があると痛感したので、今後も自分自身を磨いて色々な事に挑戦したいです。また、この経験を若いメカニックに伝えることで、彼らがニュルを目指し技術も知識を身につけてくれる流れが出来るといいですね。それがディーラーメカニック全体のスキルアップに繋がり、更にお客さまに安心してもらえると思っています」と。
レースは結果が注目されがちだが、STIのニュル24時間の挑戦は、今回ライバルであったTOYOTAGAZOORacingと同じように「クルマを鍛える」、「人を鍛える」事に役だっている。最後に辰己氏はこう語ってくれた。
「この挑戦はレースチームではなく量産も担当するエンジニア、そして普段はお客さまのクルマ扱うディーラーメカニックがやることに意味があります。もちろん、レースなので不運もありますが、『勝てる能力を常に持っている』と言うレベルになりたい。そして、それを維持する技術力を見せ続ける必要があります。今回で10回目のニュル挑戦ですが、私にとっては単なる“通過点”に過ぎません。ここで終わりでありません、いや、やり続けないといけないと思っています」。
皆の気持ちは次に向けて動き始めている。
[Text:山本シンヤ]
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