MTとAT、どっちが優れている? “モータージャーナリスト”に聞いてみた【前編】
- 筆者: 山田 弘樹
ATとMT、優れているのはどちらなのだろうか?
オートマチックトランスミッションとマニュアルトランスミッション。一体どっちが優れているの? というのは、常に議論される話題だ。
燃費性能に限って言えば、既に現代の技術レベルではオートマチックトランスミッションの方が、マニュアルトランスミッションよりも優れたものとなっている。
もちろん本当にうまく運転すればMTの方が燃費を稼げる場合は多い。しかし日本においてはMTそのものの比率が少なくなっており、燃費でMT対ATの燃費性能を競う土壌がもう既にないと言える。
さらにATはエンジンマッピングやギアを選択するコンピューターの制御が著しく発達したことによって、かつてはクラッチレスの単なる贅沢品であったATも、オートマチックモードやエコモードで走れば、状況に応じた最適なギアを選択し、一番燃費効率のよいところでクルマを走らせるようになった。
MTは6速がベター、それ以上はぶっちゃけ面倒
かつては3速やオーバードライブ式4速だったギアも、通常で5速、多いものでは9速まで増え、そのギア比が低速時から高速巡航までのレンジを最適にカバーする。
そして変速スピードも、非常に速くなった。これによってアクセルの踏み込みすぎが減り、当然燃費性能も向上した。
そして日本では無段階変速機構を持つCVTが独自に発達した。これがエンジンのトルクバンドを巧みに維持し、効率的にクルマを走らせる。
対してマニュアルトランスミッションは、5速ギアこそ古くなりつつあるが、せいぜい6速がスタンダード。ポルシェ911などでは7速ギアもあるが、ここまでギア数が増えると、これを適切に操作するのは、正直かなり面倒だ。
MTかAT…結局は好みの問題?
ではクルマをよりスポーティに走らせたいなら、ATとMTではどちらが優れているのか?
これはずばり言うと、「好みの問題」だ。
「速さ」と「正確さ」で言うなら、燃費と同じく既にATの方が優れている。
フォルクスワーゲングループが先鞭を付けたDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)は、常に次のギアをスタンバイし、パドルを押した時点で瞬時にクラッチをつなげる。その速さはドライバーがクラッチを切り、シフトノブを次のゲートに入れ、クラッチをつなぐより遥かに早い。
DCTのデメリットとしては、3軸式の構造(1/3/5/7速といった奇数側シャフトと、2/4/6速の偶数シャフト、そしてカウンターシャフトの3つ)を取るために幅が必要となり、部品点数の増加で重量もかさむ。
部品点数が増えればコストはかさばり、MTはもちろんトルコンATよりもイニシャルコストやメンテナンスコストが高くなる。
DCTは、ある“違和感”をなくすために生まれた?
日本のように低速走行でのストップ&ゴーが多い環境では、クラッチ制御が難しいのだろう。最新式のDCTではクリープするようにもなったが、まだトルコン式ATの方がスムーズに発進できるという声もある。結局DCTはクラッチを自動で制御するトランスミッションであるため、駐車場や上り坂などでは半クラッチを使わざるを得ず、これによって機構が熱を持ちやすい。
かつてはフィアットグループが、アルファ・ロメオにマニエッティ・マレリ製の「セレ・スピード」を発表したが、これは短命だった。
セレ・スピードはDCTとは違い、シングルクラッチを電子制御で断続させるATだ。MTをベースに小改良を施すことで製作が可能なためコスト的にも有利だと期待されたが、その制御に違和感があった。特にシフトアップ時はこれが顕著だ。
ドライバーが求める変速スピードに対して制御側はクラッチを労る必要があり、その時間差によって「加速G抜け」が起こるのだ。それはまさに、他人がクラッチを踏んでいるような感覚。しかしスポーツモードなどでクラッチのミートスピードを早めれば、ショックが大きくなってしまう。
つまりこの違和感をなくすために生まれたのがDCTだと言える。
ここ数年の各メーカーのテーマはトルコンを取るか、DCTを取るかだった?
ちなみにスーパーGTを走るFIA-GT3車両などは、シングルクラッチ式のATを採用している。レーシングカーは速く走ることが命であり、クラッチのつながりにドライバビリティが求められないからだ。
またトルコンATも最近は、その制御プログラミングの発達によって変速スピードが格段に速くなった。そしてトルクコンバーターをロックする「ロックアップ機構」が採用されるようになったおかげで、よりダイレクトな変速フィールが得られるようになった。
ただ変速における性能は、上下のギアを常にスタンバイするDCTの方が速い。これを普段トルコンとして使える使い勝手の良さや、耐久性の高さと相殺することで、どちらを取るか? ということがここ数年における自動車メーカーのテーマだったと思う。
ちなみにメルセデス・ベンツはそのほとんどをスポーツタイプのATとしているが、レーシングモデルのベースとなる「AMG GT」ではDCTを採用している。
またBMWはM2、M3、M4といったMモデルにはDCTを投じている。当然ポルシェもボクスターやケイマン、911といったモデルはポルシェ式のDCTである「PDK」だ。
話題の新型スープラが選んだのは“トルクコンバーター”
対してレクサス(トヨタ)は、IS Fから始まる高出力モデルに対してスポーツATを選んでいる。
また新型スープラはBMWのリソースだが、今後さらなる高出力モデルが登場したとしても、そのトランスミッションにDCTを使うことはないだろうという主旨を、チーフエンジニアである多田哲哉氏は述べていた。
彼らはトルクコンバーター式ATに未来を見いだしており、これを開発・研究するつもりなのだろう。
年々速くなって行くプレミアムスポーツカーの操作に対しても、2ペダルATは有効だ。まずクラッチ操作やギア操作にジャマされず、ハンドリングとブレーキングに集中できる。シフトダウン時にオーバーレブをして、高価なエンジンを壊す心配がなくなったのは本当によいことである。
そして必要とあらば、左足ブレーキを使って挙動をコントロールできる。未だこの操作に対しては各社の意見が分かれるところで、ブレーキとアクセルを同時に踏むととエンジン出力を絞るメーカーも中にはある。
またペダル配置も右足ブレーキ用になっているものほとんどだから、お世辞にもその操作性がよいとは言えない。第一フットレストで左足を踏ん張れないため、体をシートベルトできちんと固定していないといけないから、これはサーキットでのレーシングテクニックというのが現状。だが、サーキットのような場面で走らせればむしろドライビングの幅は、MTよりもATの方が広まるとも言えるのである。
今、最も高性能なトランスミッションは…
つまり現状では、速さを基軸としたスポーツ性能で一番よいトランスミッションはDCTだと言える。そしてここに、レスポンスは少し落ちてもコストや耐久性、重量軽減という面でバランスし追従するのが、スポーティなトルコンATだと言える。
次回の後編では、MTの「楽しさ」や「コスト」、そして存在意義について語ろうと思う。クルマ好きだけでなく、これから免許の取得を考えている方や、マニュアル車の購入を考えている方にも是非ご覧いただきたい。
[筆者:山田 弘樹]
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