フランス・ミシュランの高級車タイヤ、静かさの鍵は群馬にあった!? 日本研究所に極秘潜入!
- 筆者: 岡本 幸一郎
- カメラマン:日本ミシュランタイヤ株式会社
日本の開発拠点である群馬県のミシュラン太田サイトに潜入
ミシュランがフランスの大手タイヤメーカーであることは周知のとおりだが、向こうで開発したタイヤを単に日本に輸入して販売しているわけではない。かつてはそうだったのだが、早くから日本で研究開発を行なう重要性を認識していたミシュランは、それを実践し、現代では非常に重要な開発拠点を日本においている。
そのことは冬用タイヤについても何度かお伝えしてきたとおりで、あまり知られていないようだが、実は同じように静粛性についても日本主導で行なっている。
今回は、件の日本の開発拠点である群馬県のミシュラン太田サイトを訪ね、静粛性向上に向けた技術開発について学び、施設を見学するという機会を得た。太田サイトのことはたびたび耳にしていたものの、筆者も来るのは初めてだ。
音に敏感な日本人が開発する世界基準のプレミアムコンフォートタイヤ
現在、ミシュランは世界の3つの開発拠点を置いており、それぞれの従業員の規模は、フランスが約3000人、北米サウスカロライナが約900人、日本が約300人となっている。
一見すると日本が手薄なように見受けられるが、まったくそんなことはない。フランスやアメリカでは多くの分野のタイヤを手がけるのに対し、日本は乗用車用タイヤに特化しており、研究開発の密度は高い。
かつて日本でもミシュランを使う人が徐々に増え始めた頃、走行性能に優れるが、音に敏感な人の多い日本のユーザーから、音が気になるという声が少なからず聞かれたという。それを受けて1990年代に低騒音パターンを持つ製品を日本の主導で開発した経緯があり、そこからアジア戦略商品の開発にあたって日本の研究開発部門による先行開発プロジェクトが始動し、のちにミシュラングループ全体を担うノイズ性能研究チームも設立された。
そして次なるステップとして、トップエンドラグジュアリーカーへの純正装着を目指し、日本研究開発センターの主導で先行開発した「プライマシーLC」を2009年に送り出す。さらに、世界基準のプレミアムコンフォートタイヤを実現するため、欧州と協働して開発した「プライマシー3」を2013年に発売。2018年にはその進化版となる「プライマシー4」を発売した。
最適な数値解析ツールを調達し、タイヤ騒音の解析を行う
静粛性において、ミシュランでは車外騒音を環境性能と位置付けており、ロードノイズ、パターンノイズ、ハーシュネスなどは車内の快適性に直結する。タイヤの諸性能の間に背反関係が存在するのはご存知のことだろうが、むろんタイヤの性格に応じて、それらを高次元でバランスさせることが求められる。
「ミシュラン・トータル・パフォーマンス」すなわち総合的に優れるものを謳うミシュランでは、それを念頭に新しい技術開発にいそしんでおり、静粛性にもまさしくそれが当てはまる。
音というのは、刺激によって発生し振動によって伝播するもの。タイヤの騒音発生メカニズムの要因として、加振系、伝達系、伝播系という大きく分けて3つがあり、その各要素を正しく再現することが技術開発には不可欠だ。ミシュランでは最適な数値解析ツールを内製で調達し、タイヤ騒音の詳細な機構解明に努めている。
世界トップレベルの静粛性を求める日本人だから、あえて日本で研究開発を行う
今回見学した、台上試験を行なうための半無響音室では、回転させるタイヤの横に21個ものマイクが配置されており、別室よりパソコンで遠隔操作可能して、さまざまな条件で回転させたときにどのように音が発生するかを、詳細かつ正確に把握することができるようになっている。これにより周波数に対応した最適な技術開発が可能になるわけだ。
静粛性に関する開発研究の拠点をあえて日本にしたのは、世界でもっとも高いレベルの静粛性が要求される市場であるからにほかならない。日本のユーザーが求める静粛性を達成したタイヤは世界でも通用する。それを最適な形で実現する上で、より近い位置に拠点を置くことには大きな意味があると開発関係者は述べる。
筆者もこれまでさまざまなミシュラン製品を試す機会に恵まれて、その性能の高さと万能ぶりには感心することが多々あったが、静粛性に関してもいかに力を入れているか、そのためにいかに太田サイトが大きな役割をはたしているのか、今回よくわかった。
[TEXT:岡本幸一郎/PHOTO:日本ミシュランタイヤ株式会社]
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