なぜスバル サンバーはスバリストに”農道のポルシェ”と呼ばれるのか?

  • 筆者: 小鮒 康一
  • カメラマン:オートックワン編集部/株式会社SUBARU

RRレイアウトと4輪独立サスが強烈な個性を放つ

日本独自の規格である軽自動車。その限られた範囲に中で創り上げられたクルマたちは不思議な魅力があり、根強いファンが多く存在している。その中でも特に個性を放っていたのが、スバルが生産していた頃のサンバーではないだろうか?

サンバーが登場したのは、今から60年近く前の1961年のこと。その当時から一貫して変わらなかったのが、リアエンジンのレイアウトと4輪独立サスペンションを採用していたことだった。これは1958年に登場したスバル・360のコンポーネントを流用したというのが大きな理由のひとつだが(チーフエンジニアもスバル360の開発者である百瀬晋六氏だった)、その結果、空荷状態でもしっかりとトラクションがかかり、4輪独立サスペンションのおかげで荷痛み防止にも優れた効果を発揮していた。

また、同時期の軽バン/軽トラックは独立したボンネットを持ったものがほとんどであったが、リアエンジンレイアウトのサンバーはいち早くキャブオーバースタイルを採用しており、軽規格という限られたサイズの中で他車よりも広い荷室寸法を採ることができたというのもの特徴のひとつだった。

>>スバリスト垂涎のWRブルーモデルも! 歴代サンバーを画像で見る!

「農道のポルシェ」「スバル」と言えども、サンバーは水平対向エンジンではない

3代目サンバー時代の1980年には、軽バン/軽トラックとしては他車も含めて初となる四輪駆動モデルが追加されているのもスバルらしいポイント。今では当たり前の4輪駆動の軽バン/軽トラも先陣を切ったのはサンバーだったのである。

軽自動車の規格が変更された1990年には4代目へとフルモデルチェンジ。このタイミングでエンジンが2気筒の550ccから4気筒の660ccへと変更され、過給機搭載モデル(スーパーチャージャー仕様)も用意された。以降、スバルでの生産が終了するまで4気筒エンジンとスーパーチャージャー仕様もサンバーのアイデンティティのひとつとなっている。

ちなみに「農道のポルシェ」と「スバル」というキーワードから、水平対向エンジンを搭載していると勘違いする人もいるかもしれないが、直列エンジンなので悪しからず。

レトロなデザインの「クラシック」が追加設定

1993年には5代目サンバーをベースにレトロ調の外観を纏った「クラシック」が追加設定。これは元々1992年に開園した長崎県佐世保市にあるテーマパーク、ハウステンボス向けに作られた特別仕様車だったが、翌年開催された第30回東京モーターショーに参考出品したところあまりの反響の大きさに急遽市販が決まったというものだった。

これをきっかけにしばらくさまざまな車種やメーカーからクラシック調の軽自動車が誕生したのは言うまでもない。

2012年よりダイハツ ハイゼットのOEM供給を受ける

そして2012年に6代目のサンバーが終了。

これによりスバル自社生産のサンバーの歴史にひとまず終止符が打たれることとなり、現在のサンバーはダイハツ ハイゼットのOEMとなっている。

実は特別なパーツで”チューン”されている赤帽仕様

サンバーには前述の「クラシック」の他にもスペシャルなモデルが多いのも特徴の一つ。例えば、農業協同組合専売モデルとして有名な「JAサンバー(営農サンバー)」や、軽貨物運送業を営む個人事業主で組織される協同組合である赤帽の組合員向けに販売される「赤帽サンバー」が有名どころだろう。

それぞれのユーザーに特化した装備が追加、もしくは標準装備となっており、JAサンバートラックで言えばフル積載にも耐えられるようにリアリーフスプリングの枚数が増えていたり、アオリや鳥居の形状が変更されたりしているし、赤帽サンバーに至ってはバルブ、ピストン、コンロッド、クランクシャフト、ベアリング等内部パーツの殆どが専用パーツに置き換えられ、20万キロは大掛かりなオーバーホールなしで走りきれるように耐久性が大幅にアップされていた。

残念ながら赤帽サンバーの専用エンジンパーツはOEM版となった時点で設定されなくなってしまったが、現行サンバーでもJA、赤帽ともに専用のカタログが用意され現役で販売されている。

スバリスト垂涎! WRブルーのサンバーが有終の美を飾る

そしてサンバーの特別仕様車でもひと際異彩を放っているのが2011年にサンバー発売50周年記念特別仕様車として発売されたWRブルーリミテッドだろう。

スバル製サンバーのラストを飾ったこの特別仕様車は、スバルのワークスカラーであるWRブルーマイカをボディにまとい、イエローのステッチの入った専用シートなどを備えたスペシャルモデル。

エンジンなど動力部分はベース車と変わるところはないが、1000台限定という希少さから、すでに中古車市場では価格が高騰。執筆時点で新車価格よりも40万円も高い価格が付けられたものも存在していた。

サンバーの生産ラインでは、現在86とBRZが生産されている

多くのファンを獲得しながらもスバル製のサンバーが終了してしまった背景には、2008年4月のトヨタ自動車とダイハツ工業との協力関係発展への合意が関係している。

そのタイミングで水平対向エンジン等のコア技術を活かす登録車の開発や生産に経営資源を集中することを決断したためで、世界で売れる車に特化する方針となったためだった。

ちなみにサンバーが生産されていたスバル群馬製作所本工場のラインは改良がなされ、現在は86とBRZが生産されている。

スバル製サンバーの魅力はストイックな車づくりにある

このように、サンバーが「農道のポルシェ」と呼ばれる所以は、リアエンジンレイアウトという部分を冗談めかして言っているだけはなく、他の軽バン/軽トラとは一線を画すストイックさすら感じさせるクルマ作りからある種の誇りを持って言っている部分もあるのではないだろうか?

すでに生産終了から6年。スバル製サンバーを狙っているなら今がラストチャンスかもしれない。

[Text:小鮒 康一/PHOTO:オートックワン編集部・株式会社SUBARU]

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筆者小鮒 康一

1979年5月22日生まれ、群馬県出身。某大手自動車関連企業を退社後に急転直下でフリーランスライターへ。国産旧車に造詣が深いが、実は現行車に関してもアンテナを張り続けている。また、過去に中古車販売店に勤務していた経験を活かし、中古車系の媒体でも活動中。最近では「モテない自動車マニア」の称号も獲得。記事一覧を見る

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