軽自動車の勢力図に変化の兆し!? スズキが「ムーヴキャンバス」対抗車投入で軽ハイトワゴン人気が再燃か【ムーヴキャンバスが売れる理由】
- 筆者: 鈴木 ケンイチ
- カメラマン:茂呂 幸正・和田 清志・ダイハツ工業・MOTA編集部
スズキから軽ハイトワゴン「ワゴンRスマイル」が発表された。後席左右のスライドドアを備えたワゴンRの新シリーズだ。しかしこのコンセプトは、2016年発売の「ダイハツ ムーヴキャンバス」で提案済み。しかも安定した売れ行きで、自社のスライドドア車「タント」の顧客も奪うほどの勢いも感じさせるほどだ。このまま市場が活性化すれば、軽自動車の勢力図が再び塗り替える可能性すらある。そんなブームの火付け役、ダイハツ ムーヴキャンバスの実績について改めて振り返ってみよう。
ワゴンRスマイルが“後席スライドドア”で新提案!? いえいえ、ダイハツは2016年すでにムーヴキャンバスで実装済みです
2021年8月27日(金)、スズキより新型モデル「ワゴンRスマイル」が発表された。このモデルは、スズキの人気ハイトワゴン「ワゴンR」の派生であり、最大の特徴は両側スライドドアを備えていることだ。
これまで、軽自動車で両側スライドドアといえば、スズキの「スペーシア」や、ダイハツ「タント」、ホンダ「N-BOX」のような、背の高いスーパーハイトワゴンならではの装備であった。
しかし、「ワゴンRスマイル」は、ハイトワゴンに両側スライドドアを備えることで、取り回しの良さと優れた乗降性のバランスという新しい価値を提案する。
しかし、そのような斬新な提案は、新型「ワゴンRスマイル」が最初ではない。すでに“ハイトワゴンの両側スライドドア”を採用する先達が存在するのだ。しかも、その先達が相当に売れている。そして、その先達とは、ダイハツの「ムーヴキャンバス」だ。
ムーヴキャンバスのターゲットは“母と娘”
ダイハツの「ムーヴキャンバス」は、2016年9月に「自身のライフスタイルを楽しむ女性に寄り添う新感覚スタイルワゴン」として生まれた。名前の通り、ハイトワゴン「ムーヴ」に両側スライドドアをプラスした、「ムーヴ」の派生モデルだ。コンセプトにあるとおり、丸みを帯びてキュートな顔つきで“女性向け”に特化している。
「ターゲットは、母と娘です。若い女性に限ったわけではありません。それほどクルマが大きくないので扱いやすく、ユーザーの個性も反映できます。このクラスに両側スライドドアを備えるのは他にない特徴です」とダイハツの広報担当者は説明する。
2021年、ムーヴシリーズ中「ムーヴキャンバス」は6割以上を占める人気モデルに
その「ムーヴキャンバス」はいかほどに売れたのか? 実際、「ムーヴキャンパス」の販売数は「ムーヴ」に含まれているため、実数は公表されてない。そこでダイハツの広報に尋ねたところ、以下の数字を得ることができた。「ムーヴ」全体(ムーヴキャンバスを含む)の新車販売数字と、「ムーヴキャンバス」の割合も併記してみた。
驚くことに、「ムーヴ」シリーズ全体のうち半数以上が「ムーヴキャンバス」であったのだ。それほど、売れているのであれば、スズキがライバルである「ワゴンRスマイル」を投入するのも当然のことだろう。
「ムーヴキャンバスは、若い女性だけでなく、上は50~60代の方まで、幅広い女性層に売れています。ライバルも登場しましたが、軽自動車マーケットが活性化するよう、互いに頑張っていこうと思っています」とダイハツの広報担当者。
ムーヴキャンバスの台頭がダイハツ車の中で及ぼした功罪
「ムーヴ」シリーズの売れ行きを底上げするムーヴキャンバス
「ダイハツ ムーヴ」の名前に隠れていたヒット車である「ムーヴキャンバス」。この存在があることで、どのような影響があるのだろうか。
まず、単純に「ムーヴ」の販売順位が、単体時よりも上になる。
2021年の現状(1~7月の累計)の販売ランキング(一般社団法人全国軽自動車協会連合会調べ)で、「ムーヴ」は4位だ。上は「ホンダ N-BOX」「スズキ スペーシア」「ダイハツ タント」のスーパーハイト連中だ。
ところが、「ムーヴ」のライバルとなるハイトワゴンたちは、「スズキ ワゴンR」が11位、「日産 デイズ」10位、「ホンダ N-WGN」12位と振るわない。今や、ただのハイトワゴンは、SUV/クロスオーバーの「スズキ ハスラー」(6位)や「ダイハツ タフト」(9位)、背の低いベーシックな「ダイハツ ミラ」(7位)、「スズキ アルト」(8位)よりも下位の存在なのだ。
その中で、「ムーヴ」が唯一上位に位置できるのは、「ムーヴキャンバス」の存在あってのことだろう。
売れ筋のはずの軽スーパーハイトワゴン「タント」の顧客を奪っている可能性も
しかし、「ムーヴキャンバス」の悪影響も考えられる。それが同じダイハツの「タント」と客を奪い合っている可能性だ。
現在、「タント」は、王者「N-BOX」やライバル「スペーシア」に次ぐ3位のポジションとなる。しかし、ダイハツ的には、もっと上にあってほしいと思っているはずだ。なぜなら、「タント」は、他2モデルよりも後にフルモデルチェンジしているからだ。
現行「N-BOX」の登場は2017年8月、「スペーシア」は2018年12月。それに対して「タント」は、2019年7月。しかも、「タント」は、ダイハツの新しいクルマ作り「DNGA」の第一弾。相当に気合の入った製品だ。それで負けているのだ。
この結果は「タント」の製品力に理由があるのでなく、身内の「ムーヴキャンバス」が顧客を奪っている可能性が高いのではないだろうか。
ライバル「ワゴンRスマイル」登場でハイトワゴン人気が再燃する可能性も
そんな「ムーヴキャンバス」ではあるが、スズキから強力なライバルとなる「ワゴンRスマイル」が登場した。
面白いもので、新ジャンルというのは、ライバルが登場した方が、以前よりも販売数が伸びることが多い。ライバル登場でマーケットの注目が高まり、結果、ライバル共々売れるようになるのだ。これによって、「ハイトワゴンの両側スライドドア」という新ジャンルが確立する可能性が高まったと言えるだろう。
ダイハツvsスズキの戦いで市場が盛り上がれば、ホンダや日産・三菱連合の新規参入もあり得る
もし売れると分かれば、新規参入もあり得る。ホンダや日産・三菱連合からも、新型車が登場するかもしれない。そうなれば、さらに「ハイトワゴンの両側スライドドア」というジャンルが活性化し、売れ行きも伸びていくはずだ。
かつて、軽自動車の売れ筋は、「ハイトワゴン」であった。しかし、2011年の「N-BOX」の登場以来、最も売れるジャンルは「スーパーハイトワゴン」に流れた。
そして流行とは、変わってゆくのが定め。いつかは、「スーパーハイトワゴン」のブームも去る。その次は、新ジャンル「ハイトワゴンの両側スライドドア」の時代が訪れるかもしれない。
[筆者:鈴木 ケンイチ/撮影:茂呂 幸正・和田 清志・ダイハツ工業・MOTA編集部]
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