クルマの燃費競争はもう終わり? 新型でCX-5やミライースがカタログ燃費を悪化させた理由

クルマの燃費競争はもう終わり? 新型でCX-5やミライースがカタログ燃費を悪化させた理由
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燃費に拘ってきた自動車メーカーが燃費を悪化させた?

マツダ 新型CX-5

クルマがモデルチェンジや改良を受けた時は、燃費数値を多少なりとも向上させるのが常識だ。燃費はユーザーの出費に直接影響を与えるから関心が高い。今はエコカー減税も実施され、燃費数値が優れていれば税金も安くなるため、各メーカーとも燃費に力を入れている。

ところが最近になってこの流れが変わってきた。2017年2月に発売されたマツダ 新型CX-5、同年5月に発売されたダイハツ 新型ミライースが、それぞれJC08モード燃費を悪化させたからだ。

CX-5では2WDのガソリン2.5リッターエンジン搭載車が、先代型の15.2km/Lから14.8km/Lに、4WDのクリーンディーゼルターボ搭載車は18.0km/Lから17.6km/Lに、それぞれ0.4km/Lではあるが燃費数値を下げた。

>>【関連記事】新型CX-5 実燃費レポート

新型ミライースは、先代型は14インチタイヤ装着車のみで全車が35.2km/Lだった。それが新型で同サイズのタイヤを履いたX・SAIIIとG・SAIIIは、34.2km/Lに下げている。BとL(SAIIIを含む)は、新開発された低燃費指向の強い13インチタイヤを備え、先代型と同じ35.2km/Lを維持している。ミライースは60~80kgの軽量化を実施したが(比率に換算すると6~9%軽い)、燃費数値を据え置きか、あるいは悪化させた。

今になってなぜ燃費数値が悪くなるのか。その理由を新型CX-5の開発者に尋ねた。

「お客様が運転される状況はさまざまで、悪天候や渋滞に巻き込まれることもある。エンジンの設定がJC08モード燃費を重視すると、計測モードに合った走り方をすれば燃料消費量を抑えられるが、実際の走行ではムダにアクセルペダルを踏み込む頻度が増える。そうなれば燃費を悪化させてしまう。そこで新型CX-5では、実際の走行で過度にアクセルペダルを踏まない制御を行い、実用燃費を向上させた。Gベクタリングコントロール(ハンドル操作に合わせて微妙にエンジン出力を調節する)も、実用燃費に利いてくる。修正の操舵量が減れば、その分だけ抵抗を減らせるからだ。Gベクタリングコントロールは、走りを滑らかにすると同時に、環境性能も向上させる」という。

新型ミライースの開発者も、ユーザーから指摘されることの多いJC08モード燃費と実用燃費の格差是正を理由に挙げたが、別の観点の話も聞かれた。

「先代ミライースが発売された2011年頃は、燃費数値に対するお客様の関心がきわめて高かった。それが最近は穏やかになっている。高齢ドライバーによる事故が多発していることもあり、緊急自動ブレーキを作動できる安全装備に関心が集まった。パワー不足を感じさせない動力性能、乗り心地を含めた質感も重視されている」という。

2010年から2013年頃は、確かに軽自動車を中心に各メーカーとも激しい燃費競争を展開していた。2016年5月20日に掲載した「燃費/エコカー減税が追い詰め、三菱自が燃費偽装を行った4つの理由」でも述べたように、フルモデルチェンジから細かな改良まで、この時期にはさまざまな場面で頻繁かつ小刻みに燃費数値を向上させている。三菱自動車の燃費偽装問題の帰責性が同社にあることは間違いないが、その背景にはライバル車の度重なる燃費向上があったことも見逃せない。

ユーザーが呆れ始めた不毛な燃費競争

マツダ 新型CX-5ダイハツ 新型ミライース

ならばどうしてこの時期の軽自動車が燃費数値に過剰なこだわりを見せたかといえば、エコカー減税の実施があったからだ。

エコカー減税は「燃費数値の優れたクルマは環境負荷も少ない」という理由で、燃費基準の達成度合いに応じて税金を軽減する制度だが、ユーザーがクルマを選ぶ時の価値観にも影響を与えた。

免税を頂点とするエコカー減税に該当することは、日本で乗用車を売るための必須条件になり、少しでも燃費数値の優れたクルマが勝者とみなされた。当時は軽自動車を扱う販売店からも、「ライバル車と比べて燃費数値が0.5km/L劣れば、売れ行きに大きく影響する」という声が聞かれたほどだ。

この不毛な燃費競争に、ユーザーの側が呆れ始めたのが直近の状況だろう。JC08モード燃費と実用燃費に格差があることも常識になり、前述の高齢者事故の増加もあって、燃費数値に対する関心が薄れてきた。ただしエコカー減税は依然として残る。新型CX-5や新型ミライースが燃費数値を少し落とせたのは、エコカー減税に影響がないからだ。

新型CX-5の開発者に「燃費数値の悪化によってエコカー減税率が下がっても、実用燃費を重視できたか」と尋ねると、「たとえ減税率が下がっても、実用燃費を重視する制御にしたと思うが、社内では猛反発を受けただろう」という。エコカー減税に影響しない安全圏にあるクルマでないと、燃費数値を悪化させにくい現実もある。

燃費数値が変更を受けた理由として「WLTCモード」の実施も挙げられる。WLTCは国際的な新しい燃費計測方法で、市街地/郊外/高速道路の3モードにより構成される。冷機状態での走行比率が高く、アイドリング時間が減り、同乗者や荷物の積載も考慮されるため、実際の使用環境に合った燃費数値が表示されるという。

2018年10月以降に発売される新型車には、WLTCモードの燃費数値と、市街地/郊外/高速道路それぞれの燃費表示が義務化され、ユーザーが自分の使い方に合った燃費数値を知ることができる。

マツダは早くも発売前モデルのWLTCモード燃費数値を公開

マツダ CX-3(ディーゼルモデル)

この動きに先立ち、マツダが新型CX-3に今夏搭載予定の2リッターガソリンエンジン車のJC08モード燃費と、WLTCモードの燃費数値を公表した。

ちなみにCX-3のガソリン車は、6月2日から販売店で価格も明らかにして受注を開始しており、6月29日に発表され、納車を伴う発売は7月27日だという。

CX-3の2リッターガソリンエンジンを搭載する2WDは、JC08モード燃費が17km/L、WLTCモードは16km/Lだ。後者の内訳は、市街地が12.2km/L、郊外が16.8km/L、高速道路が18km/Lになる。つまりJC08モード燃費は、郊外と高速道路の中間的な数値で、WLTCに比べると好条件になっている。

WLTCモードを計測して併記すれば、カタログ数値と実用燃費の格差は、ある程度まで是正される。総合的な燃費数値に加えて、市街地/郊外/高速道路の数値が分かることも便利だ。本当に日本の走行環境を反映したものであれば、街中だけで軽自動車を使うユーザーは、市街地モード燃費で判断すれば良い。

従ってこれから発売される新型車は、改良やマイナーチェンジを含めて、WLTCの計測を意識したエンジン制御を行う。JC08モード燃費については、新型CX-5や新型ミライースのように、数値を悪化させながら実用燃費に近づける車種が増えるだろう。

>>【関連記事】マツダ CX-3 実燃費レポート

日本に合った公平で新しい燃費基準を!

ダイハツ 新型ミライースと筆者の渡辺陽一郎氏

ただしエコカー減税の問題は、まったく解決されない。減税のベースになる燃費基準は、今の流れでいけば依然として車両重量に対する燃費数値(WLTCモード)だけで決まり、ボディが重い割にエンジン排気量の小さな車種が有利であり続けるからだ。

重量区分の境目に位置する車種では、オプションパーツを加えてボディが少し重くなり、それによって所属する重量区分が変わり、燃費数値の悪化以上に燃費基準値が緩くなって減税率が逆に高まる(税金が安くなる)矛盾も継続されてしまう。

またフルモデルチェンジでオールアルミボディを採用して、車両重量を1500kgから1300kgに軽くしても、ひとまわり小さな1300kgの車種と同列に評価されるだけだ。今の燃費基準では、環境性能を向上させる王道ともいえる軽量化の努力は、まったく報われない。そのために車両重量に対してエンジン排気量の小さな車種が有利になる。

北米ではホイールベース(前輪と後輪の間隔)とトレッド(左右のホイールの間隔)による車両の実質的な面積を基準に、販売比率も加味して燃費基準値を決める方法を採用している。

日本の燃費基準を国任せにしていたのでは、いつまで経っても合理的な燃費基準は成立しない。WLTCモードの導入をチャンスと考えて、自動車工業会が率先して、日本に合った公平で新しい燃費基準を国に提案すると良い。

道路特定財源が廃止されながら取得税と重量税を残し、その上で不合理な減税を行う根本的な矛盾も改めねばならない。これらの改善を施すことで、WLTCモードも有効に活用できる。

その上で公平な実効性を伴った燃費競争を続けていく必要がある。いうまでもなく燃費の優れた車種は、化石燃料の使用、排出ガスや二酸化炭素の発生を抑えられるからだ。ユーザーの負担軽減も重要だが、産業界全体で取り組む地球規模的な課題のひとつだから、燃費の向上を伴う競争は緩められない。

[Text:渡辺陽一郎]

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

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