ホンダ NSX 2019年モデル 試乗│ニッポンのスーパーカーが小改良で実施した、小さくない変化点とは
- 筆者: 山田 弘樹
- カメラマン:和田 清志
新たな飛躍のため、2019年モデルから開発と生産の管理を全て日本で行う
少したどたどしくも丁寧な日本語を駆使して、ホンダ 2代目NSXのLPL(ラージプロジェクトリーダー)であるテッド・クラウス氏がアメリカからのムービーレターでスピーチを行った。いや、元LPLである。
さぞかし面倒だったろうにも関わらずその原稿は棒読みでなどでなく、ひとつひとつ丁寧な言葉を紡いでいたから、聞いているこちらとしてはとても好印象だった。我々日本人は、いや少なくとも私のような単純な人間は、こうした努力と気遣いにとても弱い。しかし内容はその笑顔とは裏腹に、結構なセンセーショナルをはらんでいた。
なにせホンダのフラグシップスポーツカーであるNSXは、この2019年モデルからパワートレインだけでなく、「開発と生産の管理を全て日本で行うことになった」というのだから。後任を引き受けたのは、水上 聡LPLである。
ホンダによればその真意は、2016年モデルでスーパースポーツに対するひとつの回答を経たNSXの、新たな飛躍のためであるという。
これについては、様々な思いが瞬時に湧き上がって来たれど、それを詮索するのはちょっと待とう。
SNSが横行し、情報が垂れ流される世の中で、安易な答えを求めることに慣れ過ぎてしまった僕らだが、脊髄反射を即言葉にするのは、あまりに陳腐だ。
よってここでは実際に私が乗って感じた2019年モデルの変化を、まず素直に書き記してみたい。
NSX 2019年モデルでは、新色サーマルオレンジ・パールを追加
ホンダ NSX 2019年モデルのハイライトは、そのシャシーと制御系の磨き上げにある。
とはいえ外観面にも化粧直しが行われたのでそれをまず紹介すると、フロントグリルの一部がボディ同色となり、メッシュパーツが渋好みなグロス仕上げとなった。
ボディカラーには新たに「サーマルオレンジ・パール」を追加。これと合わせたのだろう試乗当日は、カーボンローターと共に仕込まれたブレーキキャリパーまでもが、オレンジに塗装されていた。
インテリアは対極的なふたつのオプションが新提案された。
ひとつはインディゴ(ブルー)×アルカンターラトリムの内装で、これは「運転に集中できるコクピット」というテーマに基づいている。さらにスーパースポーツとしての艶っぽさとしては、真っ赤なセミアニリンレザーシート×アルカンターラトリムが用意された。
キャラの変化で気付く、ホンダからの無言の意思表示
ひと転がしした瞬間から、2019年モデルにはかつてと違うテイストが盛り込まれているとわかる。低速域からでもその乗り心地が、シャッキリ鮮明なものとなっているのだ。
NSX伝統のアルミシャシーはそのままながら、足回り系は全てに渡って手直しが入った。具体的には前後のスタビライザー(26/19%)、リアコントロールアームブッシュ(21%)。さらにリアハブの剛性をも6%向上させている。
また2016年モデルではコンチネンタル「スポーツコンタクト5」だったタイヤが、最新の「スポーツコンタクト6」をベースとした専用タイヤへと変更された。
ところで私は2016年モデルのしっとりとした、磁性流体ダンパーの制御が好きだった。これぞ「普段から使えるスーパースポーツ」を体現する上で、車重が増えるエアサス以外での最適解となる。
もちろん2019年モデルもこの磁性流体ダンパーを使っているが、足回り剛性が引き上げられたことによってか、減衰力もこれに合わせて引き上げられている。だからその乗り味からは例のまったり感がなくなり、より若々しさが増した。乗り心地だって、それほど悪くなってはいない。スポーツカーらしさという点では、こちらの方が好みだという意見もあるはずだ。
だからここは好みの問題だろう、と片付けることは簡単。だけれど、私の意見は少し違う。このまるで正反対とも取れるキャラクターへの変更は、ホンダの無言の意思表示なのだと思う。
巨体がスルスルと走り出す様には、やはり未来感がある
そんな2019年モデルを走らせると、なるほどとても気持ちが良い。
IDS(インテグレーテッド・ダイナミック・システム。いわゆる走行制御モード)は「クワイエット」モードからスタート。EVやPHEVが当たり前となりつつある現在において、エンジン始動時にV6サウンドが“ヴァン!”と雄叫びを上げるのは時代遅れだが、いざDボタンを押してアクセルを踏み込めばこの巨体がスルスルと走り出す様には、やはり未来感がある。できることなら次の改良では走り出してからのエンジン始動を行って欲しい。また始動時はエンジン音ではなく、PCのような起動音とフラッシャーで演出をして欲しい。
NSXは72個ものバッテリーをフロアに搭載するけれど、容量自体はそれほど大きくない。それゆえクワイエットモードでもV6ツインターボは時折目を覚まし、1800kgになる車重に勢いを付けるとまたいつの間にかコースティングに入る。
同じEVスポーツであるBMW i8と比べるとエンジン始動時の音量や音圧、そしてバイブレーションは目立ち、走行時におけるバッテリーの減り方もうんと早い。もっともバッテリーは容量が少ないため「Sport」モード以上に入れればすぐに充電できるのだが、クワイエットモードにおいても、何らかの方法で充電できるとさらにスマートだ。
たとえばせっかく付いているパドルはエンジン回転やトランスミッションの制御ではなく、回生ブレーキモードにスイッチしてもよい。ホンダ自身はこれを純粋なハイブリッドではなく、フィットのように「スポーツハイブリッド」として位置づけているとは思う。バッテリー技術の向上で、これも時が経つと同時に改善されるとは思うけれど。
“ホンダらしさ”全開! 世界一のV6にアドレナリン沸騰
そんなNSXが水を得るのは、当然ながらエンジンを回し始めてからだ。この3.5リッターの排気量を持つV6ツインターボは、本当にホンダらしいエンジンである。
そこには欧州勢のような、常軌を逸した暴力性や芸術性はない。しかし臨戦態勢に入れば立体的に吸気音を立ち上げ、トップエンドの7000回転までバイクのように吹け上がるそのまじめさに“ホンダらしさ”を感じることができ、アドレナリンが湧き上がる。過剰な脂はのっていないが、冷徹なキレ味に納得できる。彼らがシビック タイプRの4発と並んで「世界一のV6エンジン」と言い切る意気込みが伝わって来る。
そしてここに見えざる力としてモーターアシストが加わり、ターボラグを解消する。その加速は本当に自然でリニアである。
喜ぶべきはこの動力性能に対し、シャシーがナチュラルに対応するようになったことだ。フロントのゲインはさほど上がった気はしないが、リアセクションの剛性アップは効果的で、ターンインからターンアウトまでの一連の動きに、腰砕け感がない。アルミボディ特有の反発感が出ない絶妙なラインまで剛性が上げられていることにも感心する。
NSX 2019年モデルはSH-AWDの制御思想が大きく変化していた
そして2016年モデルでは極めて人工的にノーズをねじ込んでいたSH-AWDは、完璧な黒子役となった。ホンダ曰く「シャシー性能の向上によって制御が早まり、挙動が自然になった」と言うが、それは半分正しく、半分違うと思う。
SH-AWDはフロントモーターのイン側をコーナー進入時に逆ベクタリングすることで、異次元のターンインを可能とする。しかしオーバーステアが出たときにカウンターを当てると、フロントモーターがそちらにベクタリングしてしまう。簡単に言えば、カウンターを切った方向にノーズをねじ込み直すから、放っておくと吹っ飛んでしまうのだ。だからドライバーはカウンターを切らず、アクセルで車両をバランスさせるという、非常に高度なテクニックが求められた。
今回のマイナーチェンジは、この制御がどう変更されているかを見ることにあると私は思っていた。だから試乗は2016年モデルと同じ鈴鹿、もしくはそれに相応しい場所であるべきだと思っていたのだが……。それは次回の試乗に期待しよう。
ともかくオープンロードレベルでも、SH-AWDの制御はマイルドになった。むしろ通常のモードかSport+くらいまでは、2016年モデルのように恐ろしいほどよく曲がるパラメーターを使ってもよかったのではないか? とさえ思う。日常域は電子制御で良く曲がり、スポーツ領域ではシャシーの基本性能で良く曲がる、といった具合に。
アメリカ帰り・栃木育ちの“日本男児”
NSXのシステム最高出力581馬力(エンジン+モーター)が、欧州列強に比べ低いと批判されることがある。
しかしもともとNSXは、力で勝負するスポーツカーではない。
3.5リッター V6ツインターボをレーシングカーのごとく縦置き搭載(これは、初代ではできなかったことである!)。なおかつドライサンプ化して低く置き、運動性能で勝負するスポーツカーである。
ここで足かせとなっているのは重量増加を伴うバッテリー&モーターであり、これを外せばみんなが望む「速いNSX」像を作り上げることはよりたやすいだろう。
しかしホンダはスポーツカーを未来に存続させるために、敢えてモーターを搭載した。そしていま、これと真摯に向き合いながら熟成を重ねている。
そういう意味でNSX 2019年モデルは、「アメリカ帰り・栃木育ちの“日本男児”」と呼ぶに相応しい実直なスポーツカーとして再出発を果たしたと言える。
あとはサーキットで、その本性を確かめるだけである。
[筆者:山田 弘樹 撮影:和田 清志]
ホンダ NSX 2019年モデルの主要スペック
ホンダ NSX 2019年モデルの主要スペック | ||
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価格(消費税込) | 23,700,000円 | |
全長×全幅×全高 | 4490×1940×1215mm | |
ホイールベース | 2630mm | |
車両重量 | 1800kg(カーボンセラミックブレーキローター装着車は1780kg) | |
乗車定員 | 2人 | |
エンジン | 3.5リッターV6 DOHCツインターボ | |
排気量 | 3492cc | |
エンジン最高出力 | 373kW(507ps)/6500-7500rpm | |
エンジン最大トルク | 550N・m(56.1kgm)/2000-6000rpm | |
モーター最高出力 | 前:27kW(37ps)/4000rpm(1基あたり) | |
モーター最大トルク | 前:73N・m(7.4kgm)/0-2000rpm(1基あたり) | |
駆動方式 | AWD(SPORT HYBRID SH-AWD) | |
トランスミッション | 9速オートマチック+パドルシフト | |
JC08モード燃費 | 12.4km/L | |
タイヤサイズ | 前:245/35ZR19 93Y |
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