【ahead femme×オートックワン】-ahead 7月号- 好き者集団のつくる”通”の86
- 筆者:
86 TRD Performance Line
自分好みの1台に仕立てていく地道な作業と言えば聞こえはいいが、カスタマイズとはクルマをいじる行為に他ならない。
クルマに興味のない人たちにすれば、いいオトナがおもちゃ遊びに熱中しているようにも映るようだ。目立つことのみが先行しがちな風潮も「子供っぽさ」や「やんちゃ」のイメージを増長する要因である。
その風潮に一石を投じるべくTRD(トヨタテクノクラフト(株)のモータースポーツ部門。「Toyota Racing Developement」の略)が送り出したのが、86TRDパフォーマンスラインだ。
若い頃にカスタマイズにモチベーションを感じていた人たちも、年齢を重ねるにつれ縁遠くなっていく。40代、50代になって情熱が蘇り、「あの頃できなかったことを今度こそ」と意気込んでみたものの、勢いだけでなく考えることを知ったオトナの感覚で眺め回してみると、選択眼にかなうアイテムが見当たらない。
そうした需要と供給のギャップを埋める製品の開発をTRDは目指した。
TRDは、スーパーGTの車両開発を通じてトヨタのモータースポーツ活動を支えている。その流れを汲む開発部隊がカスタマイズアイテムをプロデュースするのだから、性能優先に違いないと決めつけるのは、半分当たっていて、半分外れている。
レース活動で培った知見を生かし、空力にしてもサスペンションのセッティングにしてもボディ剛性にしても、数値の裏付けはきっちり取っている。つまり、格好だけのアイテムはひとつもない。
一方で、数値至上主義でもない。レースの世界なら性能がすべてだが、ロードゴーイングカーは格好が大事だし、乗り味が硬ければいいわけでもない。性能(数値)と感応(エモーショナルな要素)の絶妙なバランスが大事。そのバランスを探るにあたり、TRDの開発陣は「自分が欲しいと思えるかどうか」を判断基準にした。
レースが好きでクルマが好きで、いじるのが好きで、操るのが大好きという面々が、自分の欲しいアイテムを開発した。
シフトノブの形状と革の張り方、ストラットタワーバーの素材選定からロゴのデザインに至るまで、性能とエモーションの面で深くこだわった。
情報伝達側の役割を放棄するようで恐縮だが、86TRDパフォーマンスラインの魅力は言葉を尽くして説明するより、乗って体感してもらうのが早い。
ベースは確かにトヨタ86だけれども、好き者集団が作った「TRDのクルマ」に仕上がっている。サーキット一歩手前の条件でベストな足。ステアリングを何気なく切り込んだ瞬間に「おっ!」と声を上げたくなる、レスポンス良く、けれどもしなやかな反応に頬が緩む。
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