スズキ スペーシア 試乗レポート/渡辺陽一郎(4/4)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:オートックワン編集部
宿命の背高ライバル「N BOX」「タント」と徹底比較!
読者諸兄が気になるのは、ホンダ N BOX、ダイハツ タントとの優劣であろうから、この点にも簡単に触れておきたい。
まずはN BOXとの比較だが、後席の頭上と足元空間の広さ、後席を畳んで得られる荷室の広さはN BOXが勝る。荷室の床もN BOXが低く、リアシートの跳ね上げも可能。スライドドアの開口幅もN BOXが広い。積載性、居住性、乗降性はN BOXの勝ちだ。
その半面、N BOXにはリアシートのスライド機能がない。リア側にチャイルドシートを装着した時、前に寄せて信号待ちの時などに子供をケアしたり、最後部の荷室を拡大することができない。
スペーシアのリアシートは、座り心地を損なわずに左右独立してスライドできるから、左側はチャイルドシートを装着して前に寄せ、右側は後方にスライドさせて大人が座るといった融通が利く。
動力性能はノーマルエンジンで見るとボディの軽いスペーシアの勝ち。燃費数値も勝る。乗り心地は重厚感の伴うN BOX、操舵に対する曲がりやすさはスペーシアだ。
安全装備はN BOXで、全車に横滑り防止装置を標準装着した。
ライバルとの違いは一長一短
タントの商品特徴はスペーシアに似ている。
シートアレンジは同等。ただしスペーシアの場合、リアシートを畳むとフロントシートのスライド量が制限され、身長170cm以上のドライバーが座ると体がハンドルやペダルに近づく。この不都合はタントにはない。
また、タントは助手席のバックレストを前側に倒すと、背面をテーブルとして使える。この機能はスペーシアにも欲しい。
リアシートの快適性はスペーシア。タントは頭上や足元の空間が広い半面、座面の造りが平板でボリューム感に欠ける。スペーシアでも居住空間は実用的に十分だから、4名乗車時の快適性はスペーシアが勝る。
乗降性は互角。タントの右側のドアは横開き式だ。左側は後部にスライドドアを装着し、ピラー(ルーフを支える柱)をドアに内蔵したので前後ともに開けば広い開口部が得られるが、リア側だけ開いた時の開口幅はスペーシアと同じ580mmになる。
ノーマルエンジンの動力性能は、軽くて実用回転域の駆動力を高めたスペーシア。燃費数値もスペーシアが勝る。乗り心地はタントが快適で、操舵感はスペーシアが自然な印象だ。
以上のように、3車種ともに一長一短がある。同じように見えても個性はさまざま。乗り比べて選ぶと良いだろう。
もはや子育て世代には一家に一台!
それにしても、今回の試乗は感慨深かった。運転していて、愚息が幼かった時のことをさかんに想い出した。あの時代にスペーシアはなかったが、子育て世代向けのミニバンなどを買って、時々ドライブに出かければ、愚息も愚妻も楽しい思い出を残せたに違いない。
当時の私の愛車はフォルクスワーゲン・ヴェントVR6という、2.8リッターエンジンを積んだ実用セダン。
もちろん責任は愛車ではなく私にあるが、家族のためにロクなことをしてこなかった。今になって悔んでも遅い。 なので子育て世代の読者諸兄は、スペーシアのようなクルマに、多少は関心を持っていただければと思う。
「ボックスティッシュの置き場所を重視するようなクルマに乗れるかっ!」という気持ちも分かるが、子育て世代は、振り返れば一瞬に終わる。
不本意でも、スペーシアのようなクルマを所有すれば、便利に使えて楽しい思い出が残る。
「こういうクルマもあるんだね」と、クルマ好きの見識も広がるだろう。そして子育て世代が過ぎたら、再び好きなクルマに乗ればいい。
[レポート:渡辺陽一郎]
スズキ スペーシア「X」[2WD・スマートフォン連携ナビゲーション装着車] 主要諸元
全長x全高x全幅:2215x1320x1375mm/ホイールベース:2425mm/車両重量:850kg/駆動方式:前輪駆動(FF)/エンジン種類:直3 DOHC 12V 吸排気VVT/総排気量:658cc/最高出力:52ps(38kW)/6000rpm/最大トルク:6.4kg-m(63N・m)/4000rpm/トランスミッション:インパネシフトCVT/燃料消費率:29.0km/L(JC08モード)/主要燃費向上対策:充電制御付アイドリングストップ装置/可変バルブタイミング/電動パワーステアリング/ロックアップ機構付トルコン/自動無段変速機/タイヤ:155/65R14 75S/車両本体価格:1,396,500円[消費税込み、以下同](オーディオレス車:1,323,000円/ホワイト2トーンルーフ仕様車は42,000円高)
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