スバル・日産の完成検査問題にみる、自動車信頼性の問題(1/2)

スバルの不正完成検査車両は25万5000台

2017年10月27日、日産自動車に続いて、スバルでも組立工場における完成検査の方法に不正があったことが発覚した。社内で定められた完成検査員の資格を持たない人が完成検査を行い、完成検査員の印章を使って代行押印をしていた。日産とほぼ同じ不正と受け取られる。

不正に完成検査を受けた車両は25万5000台とされ、スバルの工場が製造する全車種が対象だ。スバルが製造するトヨタ86も含まれる。

>>BRZや86ラインの様子等

今後の対応として、不正に完成検査を受けた車両にはリコールを実施する。この件について記者会見が開かれた。

完成検査とは、文字通り工場で出荷される完成車両に施される検査のことだ。品質管理の最終行程と考えれば良い。そこに不正があれば、商品の信頼性に影響を与える。

スバルの場合、完成検査員は以下のようなプロセスを経て登用される。

(1)正規の完成検査員からマン・ツー・マンで指導を受ける。

(2)マン・ツー・マンの指導を受けた後、完成検査に必要な知識と技能を身に付けたと判断されると、監督者(班長)の下で完成検査業務に従事する。

(3)一定期間の業務を終えて、社内の筆記試験に合格すると、正規の完成検査員になる。

不正の内容だが、上記のプロセスの内、(2)の段階にある人が、完成検査を行って完成検査員の印章を代行押印していた。

(2)の段階では、社内の筆記試験には合格していないから、実技は完成検査員と同等でも完成検査員の資格はない。つまり習熟期間中で完成検査の責任は持てないのに、正規の完成検査員が印章を貸して代行押印をさせていた。

代行押印の理由は、習熟期間中の検査員に「重要な作業だと分からせるため」だという。完成検査に関する明文化されていない社内の運用ルールに沿って行っていたとのことだが、正当な理由とはいえない。「運用ルールに基づいて印章を貸して代行押印をさせる」ことは論外だ。

ちなみに完成検査で使われる印章は、個人名の入った普通の印鑑になる。「完成検査済」といったハンコではなく、読者諸兄が日常的に使っているのと同様の印鑑だ。他人名義の印鑑を押印する行為は、仕事でもプライベートでも、社会通念や一般常識に反する。従って「他人名義の印鑑は使わない」「自分の印鑑を他人には使わせない」という、子供の頃に親から教えられるような当たり前の認識があれば、今回の問題も生じなかった。

そこで「スバルでは他人名義の印鑑を押印するような業務が日常的に行われているのか」と質問すると、「完成検査以外ではあり得ない」としながらも、記者会見にのぞんだスバルの吉永泰之社長は「調べる必要があるかな」と漏らした。

リコールは一種の妥協策

今回のスバルの不正は、日産の完成検査問題を受けて社内調査を実施した結果、発覚した。調査を開始したのは2017年10月2日。3日に疑義のあることが分かり、この時点で完成検査員でない人が業務に当たることを停止した。従って代理の押印も行ってない。

この後、国土交通省への報告や相談などを経て、公表は10月27日にズレ込んだ。その間、10月25日に行われた東京モーターショーのプレスデイにおいて、吉永泰之社長からは「スバルの現場はしっかり業務を行っている」という趣旨の発言も聞かれた。

完成検査員の人数は10月1日時点で245名とされ、正規ではない習熟期間中の検査員は4名としている。後者の人数は時期によって異なり、多い時で17名、平均8名程度だという。

完成検査の不正は過去30年にわたって行われていたが、リコールの対象は代行押印をしていた車両になり、その内の初度登録を終えて3年後の車検を受けていない車両だ。日産の場合と同様、車検を受ければ正規の完成検査を受けたとみなしてリコールの対象から除外する。

ただし自動車メーカーの完成検査は、前述のようにメーカーの認定を受けた完成検査員が、メーカーの工場にある設備を使って行うものだ。販売店に併設された修理工場(指定整備工場/通称民間車検場)において、国家資格を有する自動車検査員が、車検整備を受けた車両が保安基準に適合するか否かを判断する車検とは質が異なる。従ってリコールは一種の妥協策と考えるべきだ。

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筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

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