最短記録で100万台を販売! ホンダ 初代N-BOXが大ヒットした理由とは
- 筆者: トクダ トオル(MOTA)
2011年12月に発売されたホンダの軽自動車「N-BOX」は、デビュー早々大ヒット作となり、その後も軽自動車の年間販売ランキングでは常に1位をキープし続けた。間もなく2020年12月24日には、2代目N-BOXのマイナーチェンジも実施される。ここでまず初代N-BOXの歴史を振り返るとともに、その圧倒的な人気の理由について改めて探ってみよう。
ホンダ新世代軽自動車の第一弾として2011年デビュー
初代N-BOX※は、2011年秋に開催された東京モーターショー2011会場で、新型軽自動車シリーズ「N CONCEPT」の第一弾として初披露された。
2011年当時、ホンダの軽自動車はライバルのスズキやダイハツに対し強い特徴を打ち出せないまま、販売面で苦戦を強いられていた。そんな状況を打破すべく、ホンダは新世代の軽自動車シリーズを開発。車名には、ホンダ初の量販軽自動車として、1967年に発売した「N360」の名を継承した“N”のキーワードが与えられている。
※当初は「N BOX」表記だったが、モデル途中からN-BOXに変更。本稿は全てN-BOXで統一
「M・M思想」(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)とは
1967年、N360が発表された際の新聞広告には「ホンダ N360はまず客室(キャビン)から設計をはじめました」とのコピーが載せられた。規格サイズが定められている軽自動車だが、その中で最大限のスペースを確保する設計思想を表したものだ。
この考え方は「M・M思想」(マン・マキシマム/メカ・ミニマム:人のスペースは最大に、メカニズムは最小に)として、その後のホンダ車にも取り入れられていった。
新型N-BOXでも、ホンダの原点に立ち返った開発が行われた。プラットフォームを一新し、ガソリンの燃料タンクを後席や荷室の下ではなく、前席下に配置することで客室・荷室の空間を最大に拡げる「センタータンクレイアウト」を採用。エンジンやCVT化されたトランスミッション、サスペンションも全て新設計された。
その結果、ボンネットの長さは従来のホンダの軽に比べ70mmも短くなり、客室のスペースは当時のクラストップの空間となった。いっぽうで、エンジンの補機類を上手く潰したり下部に落とすことでフロント部の衝撃吸収空間もしっかり確保し、衝突安全性能も向上させている点も秀逸だった。
デビュー翌年には年間の販売ランキング1位に
こうして、マン・マキシマム/メカ・ミニマムを具現化させたN-BOXは、東京モーターショー会場でも話題を呼び、その年の終わりには発売が開始された。デビュー早々に好調なセールスとなり、翌年2012年4月には軽自動車の販売台数ランキングで1位に躍り出るほどの人気を集めるようになっている。
2012年7月には、荷室空間をさらに最大化させアウトドアレジャーや福祉車両用途に適合させた派生モデル「N-BOX+(エヌボックス プラス)」を追加。さらに2014年12月には、N-BOXの特徴のひとつであるハイルーフを大胆にカットしロールーフとした若者ターゲットの「N-BOX SLASH(エヌボックス スラッシュ)」も新設定され、ますますN-BOXシリーズの勢いは加速していった。
100万台達成までわずか5年の最短記録を樹立
N-BOXシリーズは2012年度(2012年4月~2013年3月)以降、2014年度以外の全ての年で、年間販売台数1位を記録。そしてデビューから丸5年となる2016年12月には、シリーズの累計販売台数が早くも100万台を突破した。
これは、コンパクトカーのフィットが持っていた6年6ヶ月のホンダ最短記録を上回っている。
初代N-BOXはなぜそこまでヒットした!?
さて、ホンダの軽自動車N-BOXはなぜここまで大ヒット作となったのだろう。
初代N-BOXは、全高1770mmと非常に背の高いスーパーハイトワゴンだ。2011年のデビュー当時、ホンダでは「Hondaのミニバンの魅力をそのまま軽サイズに凝縮した」(プレスインフォメーションより)とアピールしていた。後席左右にはスライドドアを備え使い勝手も良好で、ファミリーユーザーを中心に幅広い層から支持を集めている。
ただし、軽スーパーハイトワゴンのコンセプト自体は、2003年登場のダイハツ タントが確立したもの。それ自体は目新しいものではなかった。その後、2008年にはスズキからもパレットが登場するなど、後発のライバル車も出現している。
実用的なサプライズのあるクルマ
国内の新車販売事情に精通するカーライフ・ジャーナリストの渡辺 陽一郎氏は、ホンダ N-BOX大ヒットの要因として『N-BOXには“実用的なサプライズ”があった』と独自の表現でヒットの理由を分析する。
具体的にはこうだ。N-BOXは、そのシンプルで真四角な見た目からして『わ、広い! 大きい!』『使い勝手が良さそうだ』と感じさせる。
N-BOXは軽自動車なのに、便利でお得なクルマなんだろうな…見た者にそう印象付ける、“実用的なサプライズ”のパワーがあったという訳だ。しかも、ママ向けにかわいらしくデザインされていたタントなどのライバル車に対し、男性が乗っても恥ずかしくない堂々としたスタイリングであったことも大きかった。
ホンダ既存ユーザーの代替需要を一手に引き受けた!?
他方で渡辺氏は『その当時、ホンダのラインナップでコンパクトカーのフィット以外に売れているクルマがなかった』点も指摘する。かつてホンダを支えていたシビックやアコードといった主力モデルも、2011年頃にはすっかりパワーダウンし、魅力を失いかけていた。こうしたホンダユーザーからの代替需要をフィットと共に一手に引き受けたことも、大ヒット要因のひとつだという。
確かに初代N-BOXは大ヒットしたが、ライバルのダイハツ タントもその後を追う販売台数を記録し続けている。タントがフルモデルチェンジを実施した翌年の2014年には、軽No.1の称号も奪還したほどだ(翌年2015年にはN-BOXが再び1位に返り咲いている)。N-BOXの爆発的な販売増により、軽スーパーハイトワゴンの市場自体をさらに拡大させたということになる。そんなN-BOX販売台数増の裏には、自社銘柄からの乗り換えも少なからず含まれていたのだった。
そんなホンダの初代N-BOXの勢いは、2016年に100万台を達成した後も全く衰えを見せず、2017年のフルモデルチェンジまでそのまま走り切った。そして現在も2代目N-BOXは2015年以来連続で年間No.1の記録を維持し続けている。
[筆者:トクダ トオル(MOTA編集部)]
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