プジョーがパリでニュー「3008」をお披露目 ~SUVクロスオーバーの未来はキックボードにあり !?~
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大きな使命と特別な緊張感を持って開発されたモデル
去る5月末日、プジョーがパリ近郊で新しい『3008』のお披露目発表を行った。
冒頭の挨拶で現CEOであるマクシム・ピカは3008を、9月のパリ・サロンで市販ローンチするニューモデルであると同時に、自身がトップに就任して初めてゼロより手がけたクルマと述べ、特別な思い入れを隠そうとしなかった。
現行3008がデビューした2009年当時に比べ、今や欧州市場におけるSUVクロスオーバーの販売台数は2.5倍。新車登録された10台のうち1台が、3008が属するCセグメントのSUVクロスオーバーという状況だ。SUVクロスオーバーの伸張は欧州に限ったことではなく、世界中のあらゆる地域で伸びている。
一方で、この新しい3008の開発が始まった4、5年前は、プジョーが生産拠点の閉鎖や人員削減といった危機を経験し、フランス政府や中国の資本注入を受け、ライバルであるルノーから電撃移籍でカルロス・タバレスがPSAグループの会長に就任するなど、きわめて困難な時期だった。いわばニュー3008は、拡大すべき局面で大きく拡大するという使命をもって、特別な緊張感をもって開発されたモデルなのだ。
野心作であり、自信作
プラットフォームは軽量・低重心設計で、すでに「308」で高評価を得ているEMP2。ドライブトレーンは1.2リッターターボのピュアテック130ps仕様に加え、日本市場でも1.6リッターと2リッターという2種類のディーゼル、Blue HDi 180ps仕様と同120psとアイシンAW製の6速ATの組み合わせが見込まれる。
マクシム・ピカは壇上で、「正直にいえば従来のSUVクロスオーバーは、ハンドリングにおいてベースとなる通常のハッチバックに比べ、我慢を強いるものでした。でもニュー3008はプジョー伝統のドライビング・プレジャーを余すところなく体現し、ドライビングがもたらす経験に新たな地平を切り拓くことを約束します」と述べた。野心作であるばかりか、自信作でもあるのだ。
垂直に立ったグリルやウエストラインで高さを強調する反面、コンパクトなグリーンハウスを採用するなど、ニュー3008のSUVクロスオーバーとしてのシルエットは明快さを増した。その外寸は発表値で全長4447×全幅1841×全高1624mmと、先代比で全長が+82mm、全幅は+6mm、全高は-11mm。一方でホイールベースは2675mmと+60mm伸ばされている。
結果、後席の足元や頭部、前列後列ともに左右スペースがやや広がり、室内の居住性やトランク容量(+90リットルの520リットル)も拡大した。
フランスならではのノウハウを活かし、機能だけでなく視覚的にくすぐる内装
以上の進化に加え、特筆すべきは内装の充実度だ。
プジョーは小径ステアリングの上からメーターパネルを覗けるi-コクピットを208以来採用するが、その進化ぶりが凄まじい。
ダッシュボード中央には8インチのタッチモニターが配され、メーターパネルはすべて液晶化。視覚的にはドラスティックな変化でありながら、ダッシュボード中央にエアコンやラジオ、ナビゲーションなど主要な機能を司るトグルスイッチが設けられ、触覚でもドライバーを喜ばせることを忘れない。
ちなみにヒストリック・カーを彷彿させるターンスイッチやトグルスイッチは、ドイツ製セダンなど上級セグメントのトレンドだが、ニュー3008のそれは、ピアノを思わせる柔らかで節度感あるタッチが素晴らしい。
しかもメーターパネルのテーマはすべてパーソナライズ設定可能で、モード切替時のアニメーション画面の動きも心地よく調律されている。
スティル・プジョー(プジョーのデザイン部門)のデジタル担当デザイナーであるオリヴィエ・ダイヤンスはここ数年、世界中のアニメやグラフィックを研究し、機能だけでなく視覚的にくすぐる画面デザインを磨いてきたという。
その彼自身、クルマの内装を手がける以前はルイ・ヴィトンの鞄やエステー・ローダーの香水ボトルのデザインを担当し、PSAグループ入りしてからはDS5やDS4のあの特徴的なレザーシートも手がけた。シフトレバーの近未来的なデザインといい、確かにドライバーを喜ばせる術をよく心得ている造りだ。フランス車というより、フランスならではのノウハウである。
大真面目なのか洒落なのか分からないソリューション
またニュー3008は、ACC(車速対応クルーズコントロール)やレーンキープアシスト、緊急時の自動ブレーキといった、自動運転支援システムも充実。360度視界のバックモニターも備えるに至った。
さらにニュー3008をユニークたらしめるのは、トランク内に収納と充電が可能な「e-kick」という、電動キックボードのオプションを設けたことだ。
欧州でも旧市街などクルマでのアクセスが限られるところは多く、最後の数百mの移動はしばしば徒歩。そこでエクステンション・モビリティとして考案されたのが、アルミ製の電動キックボードという訳だ。
こういう大真面目なのか洒落なのか分からないソリューションが出てくる辺りに、プジョーの発想力の豊かさを感じずにいられない。クルマを面白くする要素はじつはクルマ以外のところにあって、クルマだけ煎じ詰めても生まれないことを、ニュー3008は端的に示してきたと思う。そういう型にはまらない、ジャンル横断的な自由なベクトルこそが、そもそも「クロスオーバー」という訳だが。
日本市場への導入はおそらく来年以降だが、6速AT化で再び小型車が活気づいているプジョーだけに、注目の一台となるだろう。
[レポート:南陽一浩/取材協力:プジョー・シトロエン・ジャポン、オートモーティブ・プジョー]
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