日産 ウイングロード 試乗レポート

日本のための日本発ステーション・ワゴン

日本の自動車市場は相変わらずの“低空飛行”が続いているという状況。それゆえに「海外市場でも通用をする“国際車” づくりを！」という傾向がますます加速する中にあって今回も敢えて国内市場に照準を合わせたのが、フルモデルチェンジを行った日産ウイングロードだ。『グローバル・モデル』を特徴に謳う内外のクルマが、そのボディ・サイズを節操なく(?)拡大させて行くのに対し、新型ウイングロードは今回も日本特有の規格である“5ナンバー・サイズ”を死守。かくして「日本のための日本発ステーション・ワゴン」として登場した事が、まずはこのモデルの大きな特徴と言える。

「構造的には『ティーダ』がベース」という新しいウイングロードに搭載されるのは、1.5L、もしくは1.8Lというやはりティーダ譲りの4気筒エンジン。そこに組み合わせるトランスミッションはFWDモデルがCVTメインで、廉価版FWDモデルと後輪モーター駆動式の4WDモデルはトルコン式の4速 ATと、ここにもあくまで日本市場をターゲットとしている事がうかがえる。

個性的になった新型ウイングロード

好評を博したマイナーチェンジ後の従来型を彷彿とさせられるフロント・マスクを採用した、新しいウイングロード。が、キャビンフォワードのプロポーションが強調され、Bピラー以降をブラックアウト化して「Aピラーがルーフを支える」ように見せるそのエクステリア・デザインは、いかにも保守的なイメージの強かった従来型に比べるとグンと個性が強まった印象だ。

「日本での小型ステーション・ワゴンの使われ方を徹底的に調査した」というだけあり、インテリアもアイデア満載のデザイン。例えば、リアのみならずフロント・シートバックまでもをテールゲート側からのリモコン可倒式としたり、ラゲッジフロア後端に小さな後ろ向きシートバック機能を持たせてそこに腰掛けての"テールゲート・パーティ"を気軽に行えるように工夫した点は、その典型と言える部分だ。

ラゲッジスペースのボリュームは「トヨタ・プロボックスに負けない数の『みかん箱』が積載出来る」というもの。こうしたコメントからは、4ナンバーを取得可能な商用バージョンがいずれ設定される事も予想をされる。

静粛性は期待以上

新型ウイングロードに乗り込んでまず感心するのは視界の良さ。スタイリング重視の昨今のモデルには特にAピラーが生み出す死角が気になるモデルが少なくないが、その点このクルマは合格点。直前下方死角が小さいのも嬉しいポイントだ。

1.8Lモデルのトルクフルな走りももちろん魅力ではあるが、“足グルマ”というウイングロードが狙うキャラクターからすればCVTを搭載した1.5Lモデルでも動力性能は十分。全般的にエンジン振動がやや強めな点は少し惜しいが、CVTの働きでエンジン回転数が低めに抑えられるのでクルージング時の静粛性は期待以上のレベルにある。

操縦安定性そのものは不満のない水準にあるものの、ちょっと残念なのは電動パワーステが生み出すそのステアリング・フィール。手応えのほとんど無いゾーンがわずかに残る中立付近を越えると、今度は人工的な重さが立ち上がり、コーナリング中の保舵感も余りしっくりと来ない。極端に言えばそのフィーリングはゲーム・マシン的。「街乗りグルマ」としてはこれでもOKと言えるかも知れないが、ドライビングに興味がある人にとってはこれは少々気になるポイントだろう。

使って楽しむステーション・ワゴン

新しくなったウイングロード。それは、日産がこのモデルのメインターゲット層と目論む日本の20代男性がいかにも好みそうな、「毎日の相棒とするに相応しい等身大の道具感」が強い一台だ。

主役となるのはあくまでドライバーである“自分”で、クルマはそれを引き立ててくれる脇役的な存在――そんなスタンスから創られたこのモデルに、率直なところ強い趣味性などは感じられない。が、振り返ればそれが歴代ウイングロードというクルマの特徴でもあったもの。そうした意味では、見た目はちょっと個性的になってもあくまでも“正常進化”という方向性を貫いたのがこのモデルであると理解出来る。

そう、ウイングロードというのはこれまでのどのモデルをとってみても、見て楽しむ、乗って楽しむというよりは「使って楽しむステーション・ワゴン」であった事が大きな特徴。ここにデビューの新型も、どうやらそうしたスタンスこそが最大のポイントと言えそうなモデルだ。