オーテック30周年記念モデル「A30」プロトタイプをひと足お先に味見した!/山本シンヤ(3/3)
- 筆者: 山本 シンヤ
- カメラマン:阿部昌也/オーテックジャパン
混じりっけなしのピュアで元気なテンロクスポーツエンジンと同じ感覚…
追浜にある日産のテストコース「グランドライブ」で与えられた時間はわずか20分、撮影を含めると外周路を1周半するのが限界だ。
そんな中での試乗だったが、A30の走りへのコダワリは十分以上に感じられた。レカロシートに変更された運転席に座りエンジンを始動、取り付け部剛性をアップさせたシフトレバーを1速に入れてスタート。クラッチは重さやミートを含めて気難しさは一切ない。
まずは2000~3000rpmでポンポンとシフトアップしながら走ってみる。
もう少しシフトに節度感があるといいなと思いつつも、エンジンはNAメカチューンにありがちな実用域のトルクの薄さはない。全開で走らなくてもスムーズにエンジンが回る感覚は誰でも解る。スロットルに対する反応も自然なので、アクセルコントロールも楽である。
一旦停止しギアを1速にして再び発進、今度はアクセル全開で走ってみる。久しぶりに「テンロクっていいよね!!」と思うエンジンだと直感した。
ホンダのZCやトヨタの4A-G、いすゞの4XEIなどの可変バルブタイミングも付かない混じりっけなしのピュアで元気なテンロクスポーツエンジンと同じ感覚…。
レッドゾーンの7500rpmまでストレスなく回るのはもちろんだが、とにかくアクセルに対する反応の良さがいい。それはスロットル早開きと言うような演出ではなく、スロットルバルブとアクセルが電気信号ではなく昔のようにワイヤーでビシーっと繋がっているようなダイレクトな感覚だ。最近の小排気量エンジンはNAは眠いし、ターボはいかにもドーピング的な物が多いが、久々にスカーッとしたエンジンである。
5速MTはそれほどクロスレシオではないギア比のようだが、ノーマル比+1000rpmの高回転化も相まってシフトアップ後もトルクバンドは外さない。これはワインディングを走る際にもリズムを取りやすいだろう。また、専用マフラーから聞こえるサウンドは、音量はそれほど高くはないが、音質は小排気量NAらしい高めの乾いた音色を奏でるのも嬉しいポイント。久々に無意味にシフトダウンをしたくなった(笑)。
カギは「上質」と「元気」のバランス
フットワーク系は、ボディ剛性アップとワイドトレッド化により、マーチとは思えない剛性感と安心感、そして快適性を備えた走りになってはいるものの、現状ではパワートレインに対してはちょっと負けている感じもあり、パワートレインのようにニヤリ…とはいかなかった。特にトラクション性能やステアリングから伝わってくる情報、コーナリング時の安定性/安心感は、サスペンションだけでなくシートなど、トータルでまだまだ煮詰めていく必要があるだろう。
A30はマーチニスモの王道的なホットハッチとは異なり、「サーキット志向ではなく普段使いで楽しめる」と言うコンセプトを掲げているが、それにちょっとこだわり過ぎているような気もした。個人的にはマーチと言うキャラクターを考えると、「上質」と「元気」のバランスがカギになのかな…と。
その辺りは、A30のプロトタイプとも言えるボレロR(オーリンズ製サスペンションにピロアッパーマウント仕様)のほうが「走る道を選ばない」セットアップに仕上がっている。もちろん、A30はワンオフモデルではないので、市販モデルとして色々な要件をクリアさせながら…というハードルがあるのもよく解るが、まずはベンチマークをボレロRとする走り目指して欲しいところだ。
正直言えば赤字ですよ(笑)
今回のモデルは最近よくありがちな「最終プロト」と言う名の市販予定モデルではなく、本当に開発途中モデルを味見したに過ぎない。
現状では気になる所はあるものの、「潜在能力」や「素性」は理解できた。更に今回は見る事ができなかったエクステリア&インテリアも今後少しずつ明らかになっていくだろう。
生産はオーテックの職人によって行なわれるため、台数限定となるがかなり少なめ(二桁?!)になるだろう。価格は手間とこだわりが凝縮されているので、高めのプライスになりそうだが、関係者によれば「ただ、マーチと言う車格もあるので、『えーっ』と言う価格ではないと思います。正直言えば赤字ですよ(笑)」と語ってくれた。
開発チームは「仕事を忘れて楽しんで作りたい」、「笑顔で世に送り出したい」、「お客様にもトコトコ楽しんでほしい」と語っている。Xデーは創立30周年となる2016年9月17日。果たしてA30はどのような姿、どのような走りで我々の前に現れるのか?もう少しの辛抱である。
[レポート:山本シンヤ]
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