日産 新型フェアレディZに早速試乗! 価格は524万1500円からと高額だが、安定感の高さを感じられるのはATだ
- 筆者: 今井 優杏
- カメラマン:日産自動車
2022年夏から発売を開始した日産 新型フェアレディZ。
日本仕様の新型フェアレディZは2022年1月14日(金)に東京オートサロン2022で初公開され、いよいよ発売となったのですが、すでにオーダーストップとなっています。
一体、どのようなクルマに仕上がっているのでしょうか。ジャーナリストの今井優杏さんにリポートしてもらいました。
新型フェアレディZはすでにオーダーストップ!
2022年4月にグレードと価格が発表され、今夏いよいよ発売を迎えた日産 新型フェアレディZは早くも“買えないクルマ”になってしまいました。もとより7月末で一旦受注を停止する、というアナウンスはなされていたものの、それさえも大量発注により抽選になった販売店もあると言います。
なのでこの記事を読んでいただいても、2022年8月10日(水)現在ではオーダーすら出来ないということになってしまいました。むろん書き手としても胸が痛いのですが、どうしても書かずにはいられないので書かせていただきたいと思います。それくらい、今回の新型フェアレディZは叙情的で稀有なクルマに仕上がっていました。
今回、試乗を前に、日産のブランドアンバサダーで、GT-Rも手掛けた田村宏志氏は新型フェアレディZを「ダンスパートナー」と紹介されました。
新型フェアレディZとGT-Rは美女と野獣、またはダンスパートナーとモビルスーツ、だというのです。
そう、この新型フェアレディZの登場で、日産にはふたつのスポーツモデルが再びラインナップしました。
しかし、その性質は全く異なるということ。GT-Rは最上のパフォーマンスのために磨き上げられたクルマであり、パフォーマンスを求めるからこそMTは用意されず、2ペダルにこだわったということでした。
一方、新型フェアレディZは人生をともにダンスするパートナーだから、むしろオーナーに寄り添い、ときに牙をむく(!)ような性格を作ったのだとか。MTを設定したのも、パフォーマンスよりも大事なものがある、という新型フェアレディZの性格があるからこそ。
その結果は翌日の試乗ですぐに顕になりました。確かに、これはGT-Rと全然違う!
新型フェアレディZはファンの期待に応える初代を彷彿とさせるデザインに仕上げた
外観、ボディサイズ、デザイン
その前に、デザインから見ていきましょう。
新型フェアレディZのボディサイズは全長4380mm×全幅1845mm×全高1315mm。ロングノーズ×ショートデッキが美しいボディラインは、初めて新型フェアレディZがクーペボディとなった1969年の初代フェアレディZ(S30)をオマージュしてデザインされました。
確かに新型フェアレディZは先代モデルに比べてノーズがスッとシャープで薄くなり、より洗練された美しさを纏っていると同時に、S30の雰囲気を色濃く踏襲しています。冷却システムの進化により、モッタリとしたボリュームを鼻先に与えざるを得なかった先代から、より冷却効果の高いシステムを構築しながらも薄い上下高を実現することで、このようなデザインが叶っています。
ヘッドライトには上下に半円を描くようなポジションライトが入り、新型フェアレディZの新しいアイコンとなっていますが、これもS30のレンズカバーに映り込む光を、現代風に解釈してあしらったもの。
流麗なサイドビューからリアにかけてもこだわりが見えます。実は空力だけを求めるならば、テールエンドはもう少しハネ上げたほうが効果が出たのだそうです。それを敢えてテールエンドに行くに従って収束点を下げることで、S30の雰囲気に近づけました。つまり、空力を犠牲にしてデザインを求めたということです。スポーツカー開発において、この決断は勇気があるなと感じました。
なぜここまでデザインを優先させたか。それは、新しいフェアレディZは、新規顧客ではなく、フェアレディZを愛する人のために作られた、という理由に起因します。フェアレディZファンのために、史上最高のフェアレディZを作ることが至上命題として据えられていた、というのです。フェアレディZファンの声を拾い続けていると『S30をもう一度作って欲しい』との声に必ず突き当たったのだそう。
とはいえスポーツカーですからパフォーマンスも求めたい。ということで、ベースグレードにあたるモデルは、このなだらかなヒップラインのナチュラルなリアエンドをそのまま活かし、上位グレードには空力を求めるための、最小限のスポイラーが装着されました。
パフォーマンスのために工夫された箇所がもうひとつあります。それが大きく口を開けたエアインテークです。
実はこの新型フェアレディZが公開された際、プロトタイプモデルではバンパーが上下二段に分かれていました。しかし、この3センチの真ん中のラインが3センチ以上の空気抵抗になることによって、冷却が落ちてしまうということが発生したのだそうです。
そこで、インテークをそのまま開口部にすることに。デザインとパフォーマンスの追求はまだおこなっていると言いますから、今後のモデル追加やマイナーチェンジでは、また違うアイディアが出てくる可能性があります。
新型フェアレディZにも搭載された3連メーターは視覚的にもレーサー気分が味わえてかっこいい!
インテリア、価格
新型フェアレディZはインテリアもスッキリとシンプルに作られています。センタークラスターにはスポーツカーらしい3連メーター(ブースト計、ターボ回転計、電圧計)が、歴代フェアレディZを踏襲して配されていますが、それ以外はコンソールのボタン類も最小限に抑えた印象です。メーター内はフルデジタルになっていて、スポーツ・ノーマル・エンハンスと表示を大きく3種類、変えることが出来ます。
オススメはスポーツ。実はこのスポーツのメーター、ニスモのエースドライバー、松田次生選手がラフスケッチを描いたという、通称「次生メーター」。そう、彼がドライブするスーパーGTの23号車のメーターデザインを、ほぼそのまま採用しているのです。
レッドゾーンは7000rpmに設定されていますが、レブリミット(エンジン回転数の上限値)に近づくにつれ、回転計の上のバー状のメーターが、両端から緑・黄色・赤と真ん中に向かって点灯していき、レブに当たった瞬間にそのバーが全部赤に変わります。視覚的にレーシングでエキサイティング、そして美しくあると同時に、運転に集中しているときにもレブリミットがわかりやすく、機能としても素晴らしいものでした。
ちなみに、最上級のSTではシートなどインテリアがレザー調になりますが、本革ではなく合皮となっています。しかし、最近の合皮は質感が高いので、見劣りすることはありません。エントリーグレードですとファブリックシートが用意されます。
それぞれのグレードの価格(税込)についても紹介しましょう。
6速MTは3グレードが設定され、エントリーグレードが524万1500円、バージョンSが606万3200円、バージョンSTが646万2500円となります。
9速ATにも3グレードが用意されます。エントリーグレードが524万1500円、バージョンTが568万7000円、バージョンSTが646万2500円です。
新型フェアレディZはMTも十分満足できるが、より安定感を発揮するのはAT!
試乗インプレッション
いよいよ試乗です。
新型フェアレディZはその8割を新規部品で構成しているというものの、プラットフォームは先代からのキャリーオーバーを補強したもの、またエンジンも既存エンジンをブラッシュアップしたもの、となっています。
また、MTも新規品ではありません。このようなバックグラウンドに加え、先述の“想い”が強いクルマ、となれば、どこか民芸品的な香り漂う、いわば『復活させてあげたんだから中途半端でも許してね』的な野暮ったい仕上がりをイメージしていました。しかし、乗ってみたら全開で前言撤回することに…。本当にごめんなさい! 先に言うけどとにかく素晴らしかった!
まずはMT/AT双方に共通するフィールからお話ししましょう。
はじめに紹介したいのが剛性の高さです。おそらくキャリーオーバーにより弱点を徹底的に掴んでいることこそが勝因となっていて、エンジンルームのボンネット周辺やリアサスあたり、またラゲッジにも補強が加えられていることで、ねじれやビビリのない、カッチリしたボディを感じました。
走行したのは日産が所有する北海道・陸別町のテストコースで、ここではレーシングコースのようなハイスピードの走行ができると同時に、人工的な悪路も作られており、あらゆる路面を体感できます。
悪路エリアでは、このボディ剛性の高さに加えて、よくしなるサスペンションの滑らかさにも感激しました。まさにこれこそがGT-Rと明確に性格を分ける部分であって、新型フェアレディZが名の通り“レディ”な横顔を覗かせる、一番の勝負点だとも感じたほどです。路面の追従性はもちろん、コーナリングでは、さほど高くない新型フェアレディZの“車高”、つまりストロークを強く感じるほどのしなりと粘りを味わえます。
しかもその減衰を次のコーナリングに持ち越さず、すっとターンアウトで戻してくる感じは、まさに剛性との合わせ技。このおかげでクイックに切り戻すようなハンドリングがめちゃくちゃ愉しいのです。電動パワーステアリング自体の味付けもナチュラルで、過敏なエリアがなく、高い速度域でも安定して操舵することが出来ました。
そんな新型フェアレディZのスタビリティの高さをより感じさせてくれたのは、新設定の9速ATの存在です。
今回のようなサーキット試乗では、7速以上に入ることはなかったので、8/9速は完全にクルーズ用のギアではありますが、その7速までのフレキシビリティが高すぎる! 加速/減速ともに速度とぴったり重なり合い、ベストなギアで踏み遅れや加速の息継ぎのないように、完璧にマネジメントしてくれる感じが快感でした。
オートマ状態でドライブしていてもそうですから、パドルシフトで操作するとなおのこと気持ちいい。パンパンとシフトアップ・ダウンが電光石火のごとくキマっていく気持ちよさは代えがたい征服感…いや、まさにダンスパートナーとはこうあるべき、というところでしょうか。
対してMTも基本的には素晴らしいです。しかし、ショートストロークとはいえ極端にショートではなく、ハイスピードで試乗するとややシフトが入りにくいというか渋いというか、普通に乗っていれば素晴らしいのですが、サーキット向けでは操作のしづらさを感じました。
しかし、MTならではの、ギアを選んでエンジンのホットなところを遠慮なくガンガン使って走れる感じなんかはMTにしかない歓びであって、こちらも御しがたい快楽に溢れたクルマだと感じました。
V6のサウンドも素晴らしかった…。
そう、今回の試乗では、3.0L V6ツインターボと軽量ボディ、ロングノーズとショートデッキからくるエアロダイナミクス、そしてハイグリップタイヤ、ステアと相性など、すべてのメカとしての挙動が上手にコントロールされた、ハーモニーともいうべき完成度を感じました。
GT-Rのメカメカしいロボット感ではなく、血の通ったナマモノとしての魅力というか、人の意志を汲んで呼応する動物のような…正直、自分でも乗っててこんな気持ちになるとは思っていなかったのですが、それらのクルマからのフィードバックに対して、思いのほか、感情を激しく揺さぶられる試乗になってしまいました。
わあ、すごい愉しい! だけではなく、その先になにか、フェアレディとしての魔力があるみたいな。
こんなに感情が動くスポーツカーは稀有です。ほんとうに、素晴らしいクルマが復活したと感じました。
なかなか買えないのが本当にもどかしいですし、悔しいですが、必要な人のもとに届いて、みんなを笑顔にしてほしいと願うばかりです。
【筆者:今井 優杏】
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