世界最高峰で安売りが生んだ誤解、親子ワールドチャンピオン誕生の裏で事件が(2/2)
- 筆者: 山口 正己
- カメラマン:メルセデス・ベンツ/フェラーリ
F1は世界一速いドライバーを決める闘いの場
F1GPは、1968年にロータスにゴールドリーフというタバコのスポンサーが着いて以来、長い間タバコメーカーが最大のスポンサーだった。その後タバコの広告が禁止され、F1GP最大のスポンサーは自動車メーカーになり、スポンサーが口出しするようになった。タバコはF1のテクノロジーに無関係。だからレギュレーションに口出しすることはなかったが、自動車メーカーは規則によって有利になる方向があり得る。やがてメーカーは、金を出している自分たちが、権利を持っていると勘違いするようになり、コンストラクターズ選手権が、ドライバーズ選手権より重要だという主張を始め、コンストラクターのためのF1GPであるかのようなことになった。
しかし、F1GPは、1950年に始まった時から、世界一速いドライバーを決める闘いとして歴史を築いてきた。コンストラクターズ選手権は、1958年に追加された後追いにすぎない。その前に本来スポンサーは、ドライバーの世界一を決めるために、パトロンとして出資し、ある意味“遊び”としてF1GPの歴史を構築してきた。それがスタンスだったのだが、いつからか見返りが求められるようになった。スポンサーが対価を主張するのは間違いではないが、自動車メーカーになると話は少し違ってくる。自動車メーカーは“場に貢献する”という立場にあるべきで、自分たちが優位に立てるようにレギュレーションに圧力をかける立場にはない。しかし、勘違いが広まった。
メーカーの引き留めに“入賞”を安売りしたF1
規則変更がメーカーを甘やかせてその傾向が加速した。F1の入賞は1950年から2002年まで、1位から6位だったが、やがて8位までとなり、今では10位までが“入賞”。安売りしたのはメーカーを引き留めるためだ。8位までにすれば“入賞”と言える機会が増える。この変更はトヨタとホンダが参戦していた時期にピッタリと符号する。そうした流れがメーカー担当者の間に甘えとして広がり、金を出しているという状況と重なって、誤解が広まった。
メルセデスは、自社のイメージを重視して、ハミルトンに“勝手な動きをするな”と指令を出した。コンストラクターズタイトルがとっくに決まっているにも拘らず、ハミルトンにドライバーの闘いを辞めさせようとしたのだ。
ブラジルGPでは、酷い雨の中でドラマが山盛りだった。雨で滑りやすい路面をコントロールしたのは、ドライバーだったからだ。テクノロジーの進化は素晴しいが、それは人間のためにある。
どんな雨でもセンシング技術を駆使して、最も効率的な走行ができるクルマが誕生したら、スペクタクルもへったくれもなくなり、F1GPの存在意義は消滅する。
メーカーのみなさん、歴史を重んじ、ゆめゆめF1GPをつぶすようなことにならないようにご留意を。
[Text:山口正己]
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