マツダ クルマを船に積む“匠の技”が凄すぎた! マツダ自動車船積み見学会へ潜入
- 筆者: 中込 健太郎
- カメラマン:中込 健太郎・マツダ
マツダ自動車船積み見学会開催!
マツダが毎年夏休みに入ってすぐの時期に開催しているのが自動車運搬船の「船積み見学会」。
船積み見学会は、自動車が生産され、ラインオフしたばかりのクルマたちが、工場のすぐ先にある港から船積みされていくところを見学できるという貴重な体験ができるイベントとなっています。
手際よく新車たちが船に積まれていく風景は、話で聞くのと目の当たりにするのは大違い。参加者たちは今年もその技を見て、スケールの大きさに触れ、私たちの日常を支えてくれているプロの日常を体感してきたので、その様子をレポートします。
年々ますます人気が高まる船積み見学会
今回取材したマツダの船積み見学会は毎年、小・中学生を対象に開催されています。最近ではすっかり人気のこの見学会。回を追うごとに応募者は増え続けているそうです。
この見学会は、輸出車両を運搬する船を見学するとあって、普段は社員でも簡単に立ち入ることのできないエリアでの催しのため、人気が集中するのも無理はありませんね。
輸出用マツダ車が待機し、船に積まれて出国していく場所は、マツダ車用ではあるものの、通関後の日本国内であって日本国内ではない自動車専用港となっています。
なお今年の応募者数は、328組656名で過去最多。その中から厳正な抽選を経て選ばれた、39組78名が招かれました。
このサイズ以上は無理! というギリギリの大きさ
今回見学した船は、商船三井が所有する自動車専用船「アクアマリンエース号」。ケイマン諸島船籍で2008年3月竣工のアクアマリンエース号は、長さ4.5メートル×幅1.7メートルの乗用車なら最大で5,218台積載可能なキャパシティを持っています。
船は全長199.99メートル、全幅32.26メートル、総トン数60,143トン。イメージとしては海に巨大なビルが浮かんでいくような感じでしょうか。
船のサイズについて、商船三井の方に聞いてみました。実はこの大きさにも理由があって、1914年に開通した太平洋と大西洋をつなぐパナマ運河の幅が33メートルしかないため、32.3メートル以下でないと通行できないことになっていました(こんな大きな船なのに幅の余裕が70センチ!)。
世界中の船舶は、この重要な航路であるパナマ運河を通過できる限界のサイズ以下のサイズ、通称「パナマックス」に合わせて作られることが多いそうで、この船もそれに合わせてギリギリの幅で作られている、という(この船が建造された当時はまだ無かったパナマ運河の新運河が2016年に開通したので、今は49メートルの幅の船まで通過することができます)。
全長が199.99メートルなのにも理由があり、着岸可能な船舶の全長を200メートル以下に設定している港が多いこと、また、この長さを超える場合、エリアや時間帯によってタグボートの曳航を要すなど、単独航行が難しくなる状況が出てくるということ。
要はこのサイズ、建造当時少しでもたくさんクルマが積めて、しかも可能な限り小回りが利き、寄港先の制限をできるだけ受けないように、あくまでも単独航行できる仕様になっている、ということなのでした。
今回見学会があったアクアマリンエースは、2日間かけて2978台のクルマを広島で積み込み、さらに100キロほど離れた山口県の防府で1日かけて1652台を積んで太平洋を横断、カナダ、合衆国、メキシコと北米方面に向けて出発していくとのこと。
動作は絶対一つずつ! 精度の高さにもまして、事故を起こさない作業フロー
参加者はまずマツダ本社の正面玄関に集合。受付を済ますと、そこから工場敷地内をバスで移動し、アクアマリンエース号に向かいます。
この際注意されるのは、工場内通過中車窓から見える様子、景色を写真動画などで記録しないでくださいとのこと。確かに、発表前にすでに生産を開始しているクルマが写ったり、敷地内には部外者が見るのには不適切な情報だったり、秘密事項に関することも。写真撮影は許可があるまでしないでください、と指示がありました。
工場内を移動と言ってもかなりの距離と時間を要します。10分程度バスに乗るとアクアマリンエース号に到着。最初に搬入の様子を見学しました。数台ずつの車列を組んで安全な車間距離と車速を保ちつつ、しかし手際よく順次できたばかりの完成車が船に積まれていきます。
数台の新車の後で、一台ないし二台程度、送迎用のクルマ(この時はビアンテとプレマシー)が伴走します。船内まで一台ずつ積み込んできたドライバーを送迎用のクルマに乗せて、再び次に積み込むクルマのところまで送り届けていました。
全くといって無駄のない作業は必見!
船内は12階建てになっていて、そこにできる限り隙間を空けず、整然と完成済み車両を並べていきます。ちなみに12階のうちの2階は、高さを変更できる構造になっており、大きな車両なども積載可能な構造になっているそうです。
クルマを固定する場所の近くまで来ると、一台ずつ少し手前で向きを整えて待機。笛の合図で、一台ずつ所定の場所に誘導していきます。非常に素早いのですが、その積み込み作業には無駄がありません。停止状態から動き出す時、ハンドルを切るタイミング、ハンドルを停めるタイミング、微調整で後退しはじめ停止するタイミングなど、何かの動作に移るタイミングをすべて外から笛一本で誘導していました。
それらをすべて切り返したりすることなく、一発で位置を決めていきます。笛の合図を待っている間も、誤発進・誤操作を避けるため、停止中は一度リバースギアが解除されていました。
停車位置が決まると、車両固定用具でクルマをしっかり固定していきます。固定する際は、専門のスタッフが順番に回ってクルマを固定していました。
固定用具をクルマのフロントバンパーに差し込むけん引用リングにかけて固定します。その際にクルマに傷をつけないよう、ウレタンのマットを簡単にあてられるようになっていました。
ちなみに、この時はマツダ車メインで北米まで運ぶ航海ですが、この船はマツダの船ではありません。車両固定器具は荷主ごとに特に専用品の指定や、注文が入るケースもあるそうです。
AIでもなし得ないであろう“人間の技”を見れる機会
この時使用していたものは、細身の幅の紐と、フックやバックルなども小ぶりで、丈夫そうなもの。紐の部分もピンクで暗闇でも識別し易そうな仕様のものが使用されていました。重機を運ぶ際は、もっと重たくて頑丈なチェーン状のものを利用したりするそうです。
こんな積み込みの様子を参加者は熱心に見入っています。なかには写真や動画など真剣に撮影する人も。「乗り物が好きなので船に積まれるクルマを見ることができてテンションが上がった」という小学生もいれば、「自分は車庫入れがそんなに得意ではないので、あの積み込みを見ていてすごいなと感心してしまいました」と話す同伴の親御さんもいたり。
どれほどAIや自動化が進んでも、そうしたものに容易に置き換えることは難しそうな「人間の技」、自動車の積み込みはそういう領域と言えそうです。
海賊への備えも! 航海中は休みなし! 自動車運搬船は船員たちが24時間暮らす場
このアクアマリンエース号、22名の乗組員が乗船しています。半年乗務すると3か月休み、といったようにシフトが組まれていて、航海中はまさにここは船員さんたちの生活の場です。そんな船内の見学もコースに組まれていました。予定航海日数プラス一か月ほどの食糧や、ある程度のことは対処できる医薬品などを積んでいる事。魚、野菜、魚などそれぞれ分かれて大きな冷蔵庫が用意されていました。フィリピン人のシェフが日本人、フィリピン人、ロシア人の船員さん用に3食3種類ずつ作ってくれて、食事はとてもおいしいことなども紹介されました。
また、船内には不測の事態に備えて、防弾チョッキやヘルメットも用意されていました。今までに襲われたことはないとは言うものの、海賊が出没するエリアを航海することもあるということ。そういう時への備えだそうです。航海中は何かに頼ることができなくなるため、無理なく、しかし多くのことを自分たちで賄える備えもアクアマリンエース号には備わっていました。
さらに船員さんが食事をするテーブルにも仕掛けが。実際そんなケースは年間でも数回程度あるかないか、だそうですが、嵐の中を航行するときに食事をしてもお料理やその他食器類などが船の揺れで流れることが無いようテーブルの縁がワンタッチで持ち上がって、柵のようになる仕掛けになっていました。
一般ユーザーに仕事を知ってもらう機会(商船三井)
見学会は2時間ほどの短い時間ながら、参加者は目を輝かせ、有意義な時間を過ごせていたようです。こうした機会を設けることは、もちろん主催者にもとても有意義なことなのだそうです。「いわゆるモノづくりそのものとは違うかもしれませんが、これも、クルマが完成して、出荷されていく上で大切なプロセスの一つ。自動車や自動車産業を身近に感じてもらえるきっかけになれば何より」とマツダの担当者は言う。
一方商船三井の担当者の思惑は少し違った要素も。「なかなか一般ユーザーとの接点のない海運の現場、少しでも身近に感じてもらえたら」そうおっしゃっていました。確かに私たちの暮らしを支えてくれている運送運輸業界。海運も例外ではありません。ちなみに、日本人の船員が乗る自動車専用船は、商船三井が運行している130隻のうち3隻だけなのだとか。この出会いに感謝。そして、私たちの暮らしを支えてくれているのはもはや日本人だけではないと改めて気づかされます。世界中の皆さんに感謝というべきでしょう。
今年もマツダの船積み見学会は、大盛況でした。参加した人は、今年の夏休みの良い思い出になったことでしょう。
[筆者:中込 健太郎/撮影:中込 健太郎・マツダ]
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