業務提携の活発化でOEM車は増加の一途、個性なくなる日本車たち
- 筆者: 渡辺 陽一郎
いよいよ活発化し始めた「日産・ルノー・三菱」連合
カルロス・ゴーン氏が、2017年4月下旬に三菱自動車のタイ工場を視察した。ゴーン氏は2016年の末に三菱の会長に就任しており、今では日産とルノーを含めた3社の会長を務める。三菱の工場を視察するのは当然だが、今後は三菱と日産の業務提携が、いよいよ活発化しそうだ。
まず一般的な話として、日本のメーカー同士が提携しても、さほど大きなメリットは得られない。日本の自動車メーカーは、北米や中国で売れ行きを伸ばすことが多く、相手にする市場が重複しやすいからだ。
それが日産とルノーのように、日本と欧州メーカーが手を組めば、世界の各地域をカバーできる。日産が2016年度(2016年4月から2017年3月)に販売した総台数の内、北米市場(カナダとメキシコを含む)では38%を売り、これに続くのが中国で24%を占めた。ルノーはフランスのメーカーとあって欧州市場が中心的で、スペインやインドにも生産工場を構える。日産とルノーはそれぞれ中心的な市場が異なるので、業務提携を結べば広範囲に手を広げられる。
三菱は日本のメーカーだから日産に近いものの、アジア地域で強く、三菱車全体の31%に達する。欧州も20%だ。逆に北米は13%と低い。日本メーカー同士の提携はメリットが乏しいが、アジアで強く北米の依存度が低い三菱は、比較的手を組みやすい日本メーカーといえるだろう。
さて、このように業務提携はメーカーにとっては大きなメリットを生み出すが、ここからはユーザーにとってのメリットとデメリットを考えてみよう。
機能やメカニズムの共通化で優れた商品を割安な価格で購入できる
まずユーザーのメリットとしては、業務提携によってクルマの骨格となるプラットフォームやエンジンといった多額の開発費用を要する機能やメカニズムを共通化することが可能になり、メーカーの量産効果が発揮され、優れた商品を割安な価格で購入できることが挙げられる。
これは幅広く実践され、ルノーと日産はプラットフォームを部分的に共通化したり、ルノーがジヤトコ製のCVT(無段変速AT)を使うこともあった。ルノー/日産は、ダイムラーとも提携を結び、日産スカイラインが搭載するV型6気筒の2リッターターボエンジンは、メルセデスベンツC200やE200と基本的に共通だ。
日本国内では、トヨタがマツダにハイブリッドシステムを供給してアクセラが搭載したり、トヨタとスバルが86とBRZを共同開発している。
業務提携を結ぶことでエンジンの種類が充実したり、新型車の開発が可能になれば、ユーザーにとってメリットになり得る。
ただし、程度の問題でもあるだろう。業務提携が進むにつれて、競争関係が薄れる心配があるからだ。極端な話をすると、日本のメーカーが互いに緊密な提携を結び、すべてのプラットフォームやエンジンを全社で使い回せば、開発の投資を大幅に削減できる。その代わり、メーカー間の競争が弱まり、性能の進化が滞ってしまう可能性もある。
この象徴がOEM車や姉妹車だ。例えばコンパクトカーのトヨタ ルーミー/トヨタ タンク/ダイハツ トール/スバル ジャスティは、すべて基本的に同じクルマがベースだ。開発と生産はトヨタの完全子会社になったダイハツが受け持ち、自社ではトールの名称で販売して、トヨタおよび業務提携を結ぶスバルにはOEM車として別の車名で供給する。トヨタのルーミーはトヨタ店とカローラ店、タンクはトヨペット店とネッツ店に供給されるから販売網は膨大だ。しかしユーザーの選択肢は基本1車種でしかない。
また、スズキが開発と製造を行う軽商用車のスズキ エブリイは、日産 NV100 クリッパー/マツダ スクラム/三菱 ミニキャブとして、3メーカーに供給される。スズキも含めれば、国産8メーカーの内の半数が同じ軽商用車を扱っている。
もう一方では、同様に軽商用車のダイハツ アトレーが、スバル サンバー、トヨタ ピクシスバンとして供給され、こちらも同一車種を3メーカーが扱っている。軽商用車でOEM関係を築いていないのはホンダ アクティだけだ。
軽商用車は軽乗用車以上に1台当たりの粗利が乏しく、大量に売らないと採算が取れない。このような事情もあってOEM関係が緊密になった。
それでもスバルがサンバーを、三菱がミニキャブを、マツダがポーターを、それぞれ自社開発して製造していた時代に比べると、ユーザーの選択肢は減った。競争関係も薄れている。軽商用車の市場から完全に撤退するよりは、OEMでも販売するだけマシという見方もできるが、あくまでも消極的な発展にすぎない。
乗用車でも車種の削減が続く。ルーミー/タンク/トール/ジャスティが、以前のトヨタbB/ダイハツクー/スバルデックスの後継とすれば、ラクティスは削られた。日産ラフェスタは以前は自社開発だったが、今はマツダプレマシーのOEM車をラフェスタハイウェイスターの名称で販売する。スバルは軽自動車の開発と製造を終えたから、スバルステラはダイハツムーヴ、プレオプラスはミライースのOEM車になった。
こういったOEM車が普及する一方で、かつて堅調に売れていたトヨタプログレ/カルディナ/ラウム/イスト、日産ティーダ/ステージア、三菱パジェロミニ/ランサーエボリューションなどが生産を終えている。ホンダは軽自動車の導入で車種の数はさほど減っていないが、かつて人気車だったホンダCR-Vなどは終了した。
CX-8の導入はマツダの販売現場が欲しがるミニバンに代われるか?
マツダは、スカイアクティブ技術と魂動デザインで新たな方向性を打ち出すが、ミニバンのプレマシーやビアンテには何の改良も施さない。MPVを含めてマツダのミニバンは保有台数が多く、販売現場からはユーザーを逃さないように、提携を結んだトヨタのヴォクシーOEM車でも良いから欲しいという意見すら聞かれる。
そこで2017年中に3列シートのCX-8を発売すると公表したが、諸元を見る限りCX-5のロング版だ。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)を200mm、全長を355mm拡大したが、全高は40mmほど高いものの1730mmにとどまる。最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)がCX-5と同じ210mmだとすれば、3列目シートの室内高は乏しい。薄型燃料タンクを開発して低床化するなどの工夫を施さないと、3列目は床と座面の間隔が不足して膝の持ち上がる座り方になる。エクストレイルやアウトランダーの3列目に比べると快適だろうが、ミニバンの代わりになるか否かは疑問だ。
またプレマシー/ビアンテ/MPVのユーザーを引き継ぐには、後席側のドアをスライド式にすることも不可欠で、CX-8はプレマシーとビアンテに比べるとボディも極端に大きい。
ちなみにマツダはCX-8の導入を2017年4月28日に公表したが、5月上旬の時点で販売店には何の案内も行っていない模様だ。店舗によっては「お客様からの問い合わせでCX-8の情報を知った」という声も聞かれた。こういった点からもマツダの国内市場に対する力の入れ方がうかがえる。
かつてイギリスの自動車産業が衰退した背景にはいろいろな原因が考えられるが、そのひとつにOEM車(姉妹車)の増加があった。1960年代の後半に設立されたブリテッシュレイランドは、ジャガー/ローバー/モーリス/オースチンなどのブランドを抱えて車種の共通化を進めている。この時点でイギリスの自動車産業はすでに業績を悪化させていたが、共通化が追い打ちをかけた。1975年にはイギリス政府が株式の95%を入手して事実上の国営としたが、回復はできなかった。
今後は各メーカーとも環境/安全技術などの分野でさらなる投資を求められ、大小さまざまな業務提携が不可避的に加速するだろう。その範囲を過度に広げず、商品同士の競争や個性化を妨げないように配慮することが大切だ。
特に今の日本メーカーの多くは、世界生産台数の80%以上を海外で売る。国内市場の優先順位が下がっている状況だから、提携に基づく合理化を進めると、商品の魅力がさらに低下してしまう。エンジンやプラットフォームの共通化とコスト低減を前向きに活用して、個性的で魅力のある日本市場向けの商品をぜひとも生み出して欲しい。
[Text:渡辺陽一郎]
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