【DESIGNER’S ROOM】マツダ 新型 アテンザ デザイナーインタビュー/マツダ チーフデザイナー 玉谷 聡(2/4)
- 筆者: 森口 将之
- カメラマン:オートックワン編集部・マツダ
5ドアハッチをセダンに統合したワケ
AO:ボディサイズが大きくなったのは、デザイナーの要求なのでしょうか。
T:デザインだけが原因ではありませんが、車格表現にはサイズが必要でした。
デザインを進めるうえで、タイヤの位置や前後の重量バランスなどの骨格はとても重要です。車格をしっかり表現すると言っても、長さだけではプレゼンスは高まらず、幅をぐっと広げ、踏ん張らせることが大切なのです。最後の車幅の+10㎜ぐらいはデザイナーのわがままですけど、それ以前の段階で、排気系を理想的な取り回しにする中で、運転席と助手席の間隔が30㎜ぐらい離れていました。スカイアクティブ・テクノロジーの性能を出すために幅を広げ、居住性向上とプレゼンス向上のために長さも伸ばしていったのです。
[※新型 アテンザ セダンの全長x全幅x全高:4860x1840x1450mm/ホイールベース:2830mm]
AO:5ドアをなくしたのはなぜでしょうか。
T:3つあったボディを2つにしたのは、経営判断による部分が大きかったようです。
市場を調べていくと、多くのハッチバックのお客さまが求めているのはスポーティなスタイリングでした。また本来あるべきテールゲートとしての活用は、年に1回か2回ぐらいしか無いという人も多かった。それならセダンにハッチバック並みのスタイリングを持たせれば、5ドアを統合できるのではないかと考えたのです。
コンセプトは「人とクルマの一体感」
AO:ワゴンのホイールベースや全長をセダンより短くしたのはどうしてですか。
T:セダンで表現しなければならなかったのは米、中、豪に向けてのマツダのフラッグシップとしてのプレゼンスでした。中国市場などで重視される後席のホスピタリティを確保したうえで、スタイリッシュに仕上げました。
一方ワゴンのメインマーケットはヨーロッパですが、現地では4800㎜という全長がボーダーラインで、それを超えるとラグジュアリークラスになってしまうので、その中でキャビンとラゲッジスペースのべストバランスを確保した結果、ホイールベースがセダンより短くなったのです。
AO:幼い頃に動物に興味を持っていたことは、デザインを進めるうえでメリットになりましたか。
T:このクルマのコンセプトは、人とクルマの一体感でした。フラッグシップなので品格を大切にしながら、ドライビングをおろそかにせず、クルマとの対話を楽しみたいというものです。それをデザインで表現するときに、動物やアスリートの美しい動きをクルマにキャプチャーして、走る生命体として考えたのです。クルマに生命感を表現していこうという作業は、はまり役だったかと思っています。 ただ生々しい表現では稚拙なものになるので、アーティスティックで抽象的な表現として入れようと心掛けました。
「社内に風が吹いた」センセーショナルなデザイン
AO:新型アテンザで個人的にもっとも印象的なのはボディサイドです。どう表現したらいいか分からないんですが、今まで見たことがない凝った造形ですね。
T:ここがいちばん苦労しました。当初は全く違うコンベンショナルな造形からトライしたのですが、これでみなさんの期待値を超えられるのかどうか悩んでいました。SHINARIのデザインテーマもトライしたものの始めはうまく処理できず、表現もこのクラスとしてはかなり強烈なものだったので「諸刃の剣」、危険なものとして一旦封印しました。
ところがSHINARIを発表すると、大センセーションが巻き起こった。会社に20数年いて、社内に風が吹いたと初めて思いました。SHINARIテーマをやるべきだと肌で感じました。
AO:でも「靭(SHINARI)」テーマをそのまま市販化するのは難しい。
T:SHINARIではノーズからのラインがリアフェンダーまでスーッと伸びていますが、これをきれいに出すためには、SHINARIのようにドアのふくらみ幅が200㎜ぐらいの、スーパーカー的なワイドさがないとダメなんです。アテンザはせいぜい80〜90㎜なので、無理に通すとラインが弱くなってしまう。
そこでTAKERIと新型アテンザでは、前からのラインと後ろからのラインを、すれ違いさせる案をトライしてみました。結果、テーマ性は失わず、クルマに映り込む光もドラマティックに表現することができました。クルマが動いたり自分たちが歩くだけで光が動く。その動きがとても躍動的なのです。
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