F1から撤退し、NSXやオデッセイも生産終了…そんな時代に生まれた新型シビックに“ホンダらしさ”は残っているのか

  • 筆者: 山田 弘樹
  • カメラマン:佐藤 正巳・Honda
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2021年9月に発売を開始した11代目の新型シビックは、デジタルネイティブな若者世代を主なターゲットに誕生した。しかしその落ち着いた風情と活発な走りは、むしろ上の世代が「カッコいい」と思えるクルマだ…そう語るのは、かつて80年代から90年代、シビックに積まれたVTECエンジンのホットな走りに胸を躍らせた経験を持つモータージャーナリストの山田 弘樹氏。およそ50年の歴史を持ち、ホンダが世界に躍進を遂げた原点とも言えるシビックが、この先歩むべき道とは。
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  1. 気付けばすっかりニッチな存在に…新型シビックは“硬派なスポーティさ”に価値を求めた
  2. そもそもHondaは、初代シビックに代表される“小さくても魂のこもった乗り物”で世界に名を馳せたメーカーだ
  3. “Honda”を選んで良かった! 新型シビックにはそう思えるもっと強烈な個性が欲しい

気付けばすっかりニッチな存在に…新型シビックは“硬派なスポーティさ”に価値を求めた

新型シビックの第一印象は「上質さを増し、大人びたテイスト」

11代目となるホンダ 新型シビック、その日本仕様となる5ドアハッチバックが発売された。

筆者はこれをプロトタイプのときに、ホンダ栃木研究所で試乗している。そのとき感じたのは、先代モデルに対して一段上質になったその乗り味だった。

高いボディ剛性を土台として、サスペンションがしなやかに伸縮して路面を捉えるその走りに、シビックの大きな前進と洗練を感じた。と同時に、先代よりも明らかに大人びたデザインと共に、これが本当に「Z世代※1」をターゲットとしたクルマなのか? と疑問を持った。

どちらかといえばその乗り味は、我々X世代※2に向けた、落ち着きのあるテイストだと思えたのである。

<編集部注:>

※1.「Z世代」1990年代後半以降に生まれたデジタルネイティブな若者世代

※2.「X世代」1960年代後半から80年頃に生まれた世代

公道試乗で見せた、男気あふれる硬派な走り

そんなシビックを今回一般道で試すと、面白いことにその印象は、また大きく変わった。

端的に言えば、アシが硬めである。丁寧に言えばサスペンション剛性が高く、決してガツン! とハーシュを伝える野蛮な乗り心地ではないのだが、「爽快シビック」(11代目のテーマである)というよりは、「男気シビック!」と言いたくなる、頼もしさだったのだ。

そこにはスムースサーフェスであるテストコースと、生きた道との違いが現れたのだろう。

試乗会場となった山梨県の一般道およびワインディングコースは、その路面がかなり荒れていた。また筆者が試乗した日は雨が降っていたこともあり、冷えたタイヤのグリップが、野太い足周りをしなやかにストロークしきれない場面もあった。

さらに言えば試乗車はまだ1500kmにも満たないフレッシュさだったから、ブッシュやダンパーがこなれてくれば、そこにしなやかさを取り戻すのかもしれない。

ただそうした要素を勘定に入れてもハンドリングはダイレクトで、若さあふれるホンダテイストとなっていた。

9割以上の乗用車がオートマ車の時代に、新型シビックを求めるユーザーの4割はニッチなマニュアルを選択した

ではなぜ開発陣が、こうした硬派な乗り味を英断したのか?

それは先代モデルの日本市場における販売台数が、2017年9月からの約5年間でわずかに4万4000台(うちハッチバックは2万7000台)だったということが大きく関係しているのだと思う。ちなみにメイン市場となる北米は、コロナ禍の影響で昨年が26万台に落ち込んだものの、ピーク時で36万台(2016年)、翌2017年も32万台を売り上げた。

そんなコアな日本市場において、先代ハッチバックの6速MT比率は全体の3割に届いた。さらに新型の受注では、4割を越えたという。つまり年間約5400台の30%だから、およそ1600台のユーザーがシビックにピュアな“スポーティさ”を求めたわけだ。

また先代シビックにはセダンもあったことを考えると、CVTユーザーでさえ多くの人たちが、5ドアハッチに走りの楽しさを求めていたと言えるだろう。だからこそホンダは新型に、よりホンダらしいセッティングを与えたのではないかと筆者は感じた。

そう考えるとシビックも、まだまだ捨てたモンじゃないとは思えないだろうか?

そもそもHondaは、初代シビックに代表される“小さくても魂のこもった乗り物”で世界に名を馳せたメーカーだ

「逆境に負けるもんか!」新型シビックに込められたニッチな気合い

ホンダは昨年2020年10月にF1撤退を発表した。またフラグシップセダンであるレジェンドと、フラグシップスポーツであるNSX、そして一世を風靡したオデッセイについて、2021年中の生産終了を立て続けに発表した。

こうしたイメージダウンの連鎖があっただけに、シビックのニッチな気合いは彼らの本音だと捉えたい。

20年後には全てのホンダ車をEVとFCVにすると発表しながらも、「俺たちクルマを走らせる楽しさを忘れてはいない!」という気持ちを、再びシビックに込めたのだと。

そもそもホンダは、1972年に登場した初代シビックをはじめ、スーパーカブ、CB400 FOURといった、小さくて魂のこもった乗り物で人々の心をつかんできた会社だ。だからレジェンドが売れないことなど、何の疑問もない。プレミアムスポーツカー市場へ本格参入した二代目NSXが、失敗したことだって普通に頷ける。

常にホンダを支えるのは我々庶民であって、最終モデルのNSX タイプSに2794万円を支払える投資家達ではないのだ(そんな投資家達や株主達に、ホンダが翻弄されている気がしてならないが)。

世界に先駆け電動化スポーツカーの道を示した2代目NSX…しかし“ホンダらしさ”とのズレが生産終了につながった

もしかしたら現行NSXが、初代と同じようにハイパフォーマンスカーイーターの立ち位置を狙っていれば、今の時代なら生き残れたかもしれない。そう、コルベットのように。しかしホンダは3モーター4WDミドシップの先進性をもってひとつ上のステージを選び、戦いに敗れた。

これが受け入れられなかった理由には、その未成熟なシャシー制御やデザインテイスト、価格に対する質感の低さなど様々な要因があったとは思うが、どんなスポーツカーメーカーよりも早くモーター化を推し進めたことは紛れもない事実で、この技術が埋没してしまったことが残念でならない。それこそ二代目NSXは、電動化の旗手だった。

“Honda”を選んで良かった! 新型シビックにはそう思えるもっと強烈な個性が欲しい

価格は欧州製ライバル「VW ゴルフ」並みかそれ以上の強気な設定

話を戻そう。

そんな新型シビックが、かつてのホンダイズムを継承しているのか? と問われたら、それはわからない。確かにそのテイストには一本筋が通っているのだが、その価格は試乗した1.5CVTの「EX」グレードで357万8300円と、あまり安くはないからだ。

ちなみにこのセグメントのベンチマークであるフォルクスワーゲン ゴルフ1.5eTSIスタイルは370万5000円だ。さらに言うとゴルフには1.0eTSIアクティブベーシック(291万6000円)がある。

もちろんゴルフはタッチパネル式インフォテインメントナビ機能を持つ「ディスカバープロパッケージ」が別売りだったりはする。しかしシビックはこのあとホンダの主力ユニットとなるe:HEV(イー・エイチ・イー・ブイ)が登場し、その価格はさらに高くなるだろう。

ホンダには、ニトリよりも強烈な「お値段以上」を感じさせてくれる存在であって欲しい。

少なくともこの価格を維持するのであれば、「ゴルフなんていらね!」と強がれるほど強烈な何かを与えて欲しいのだが、走りを除けばCセグハッチとしてはお得感のあるボディサイズ以外、それが見当たらない。

かつてはそれが、自然吸気のVTEC(ブイテック:Variable valve Timing and lift Electronic Control system)エンジンだった。

新型シビックの1.5リッター直噴ターボも、頑張っている。CVTとの連携はアクセルの踏み始めからツキよくこの大きなボディを走らせる。2000rpm以下での静粛性は見事のひとことで、なおかつこれを回せばきちんと吹け上がる。6MTでシフトアップする際の回転落ちの鈍さは、直噴制御の難しさや環境性能への対応として仕方ない部分もあるが、これもホンダは課題として考えている、と述べていた。

とってもいいエンジンだが、そこにホンダを強く感じることはできない。

かつてのVTECのように、もっと強烈な個性が欲しい

ただこの現代において、VTECの代わりとなる強烈な個性が、エンジンである必要はないとも言える。漏れ聞くウワサではe:HEVがかなりシビックらしさを備えたユニットになると言われているが、それこそZ世代が目を輝かせる個性とは何なのかをホンダは、もっと真摯に追い求めた方がよいと思う。

このシビックをベースとするタイプRは、先代以上に完成された一台となるだろう。それでも一番必要なのは、派手なウイングではなくて強烈な個性だ。

VTECのように気持ちよく、突き抜けるホンダらしさ。「ホンダを買ってよかった!」と心から言われるクルマ造りを、これからのホンダには期待したい。

[筆者:山田 弘樹/撮影:佐藤 正巳・Honda]

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新車価格:
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筆者山田 弘樹

自動車雑誌編集者としてキャリアをスタート。輸入車雑誌 副編集長、アルファ・ロメオ専門誌編集長等を経て、フリーランスのモータージャーナリストに。レース参戦なども積極的に行い、走りに対する評価に定評がある。AJAJ会員。カーオブザイヤー選考委員。記事一覧を見る

なかの たくみ (MOTA編集長)
監修者なかの たくみ (MOTA編集長)

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