令和前に平成の名車を振り返る ~初代プリウスにワゴンR、さらにはセラも!~

自動車評論家 渡辺陽一郎氏が選ぶ平成の名車とは!?

クルマは多くの人達が高い関心を寄せる耐久消費財で、基幹産業でもあり、交通事故や排出ガスなどの弊害も生み出す。そのためにクルマは、世の中の有様を色濃く反映させる。

平成2年(1990年)はバブル経済の絶頂期で、日本国内のクルマの売れ行きも778万台のピークを迎えた。2018年は527万台だから、平成2年の68%にとどまる。つまり平成は日本国内でクルマの売れ行きが下がり、日本の自動車メーカーが日本のユーザーから離れていく時代だったともいえるだろう。

昭和は激動の時代だったが、昭和35年(1960年)以降は、経済もクルマもほぼ順調に進歩した。特に昭和55年(1980年)以降の日本車は、ターボ、4WD、4WS(4輪操舵)、電子制御式サスペンションなどの採用により、走行性能を急速に高めている。

この流れが景気の後退と併せて転換点を迎え、環境性能や安全性を重視する方向へ変化したのが平成の幕開けだった。クルマの価値観が変わり、単純な好みの対象としてではなく、功罪を併せ持つ移動のツールとして冷静に捉えるようになった。

◆【画像特集】初代プリウスにワゴンR、セラ! 平成を彩った名車たち

トヨタ プリウス(初代)

この平成におけるクルマの価値観を実感させた車種が、平成9年(1997年)に発売された初代トヨタプリウスだ。世界初の量産ハイブリッド車として登場した。

20年以上も前のクルマだが、直列4気筒1.5リッターエンジンをベースにしたハイブリッドシステムのTHSは、今日のTHSIIに近い機能を備える。今になって振り返っても、きわめて進歩的なクルマであった。報道試乗会で初代プリウスに乗り込み、ATレバーをDレンジに入れて発進した時は驚いた。エンジンを始動させず、ほぼ無音で動き始めたからだ。「本当にこれで動くのか?」を疑いながら、慎重にアクセルペダルを踏んだことを思い出す。

プリウスは今では4代目になり、ハイブリッドの車種数も増えた。トヨタが2018年(暦年)に国内で販売した小型/普通乗用車の内、45%をハイブリッドと少数のプラグインハイブリッドが占める。初代プリウスの登場から約20年で、日本はホンダや日産も含めてハイブリッド大国に成長した。その第一歩が初代プリウスであった。

スズキ ワゴンR(初代)

平成の時代には、ハイブリッドと併せて軽自動車も急増した。平成2年(1990年)頃は、新車として売られるクルマの約25%が軽自動車だったが、今では40%近くに達する。軽自動車もハイブリッドと同様に環境/燃費性能が優れ、価格は割安で税金も安い。不況の時代に強いカテゴリーでもある。

平成の軽自動車が売れ行きを伸ばす原動力になったのは、全高が1600mmを超える背の高い車種だ。車内は後席を含めて広いから、大人4名が快適に乗車できる。後席を畳めば広い荷室になり、車種によっては自転車なども積める。ミニバンを小さくしたような空間効率の優れた設計が人気を高め、軽自動車の売れ行きを伸ばした。

この先駆けが、平成5年(1993年)に発売された初代スズキ ワゴンRであった。当時の軽自動車規格は今よりも古かったから、全長は3295mm、全幅は1395mmと小さいが、全高は現行型と同等の1680mmだ。乗員を高い位置に座らせて、足を置く位置を手前に引き寄せ、足元空間を実質的に拡大させた。そのために4名乗車も快適であった。

シートアレンジも充実しており、後席の背もたれを前側に倒すと、座面も連動して下がる。車内の後部をフラットで広い荷室に変更できた。助手席の座面を持ち上げると大容量の収納ボックスが備わり、取っ手が付いているから車外に持ち出せる。これらの機能は6代目の現行ワゴンRにも継承されている。

2018年度(2018年3月~2019年4月)の国内販売ランキングを見ると、総合1位がホンダ N-BOX、2位はスズキ スペーシア、3位はダイハツ タントだ。小型/普通車で最も多く売れた日産 ノートの総合順位は6位であった。

1~3位の軽自動車は、すべて全高が1700mmを上まわるスライドドアを備えた車種になる。軽自動車でもワゴンRとはカテゴリーが異なるが、タントの初代モデルは2003年に発売されている。ワゴンRが築いた背の高い軽自動車の発展型であった。

このように初代ワゴンRで始まった背の高い軽自動車は、平成の時代を通じて国内販売の主役となった。その背景にあるのは、日本のユーザーの生活を見据えたクルマ造りだ。小型/普通車が海外指向を強めるほど、軽自動車は相対的に魅力を増して、日本の風景に深く溶け込んでいった。

トヨタ セラ

バブル経済の絶頂期で、国内販売も778万台のピークを迎えた平成2年(1990年)には、初代ホンダ NSX、三菱 GTO、マツダ ユーノスコスモといった最高出力280馬力のスポーツカーが出揃った。

その一方で、トヨタはコンパクトクーペのセラを発売している。全長が3860mmのボディに、上向きに開くガルウイングドアを装着した。セラはスーパースポーツカーのような骨格を備えていないから、ガルウイングドアを装着する必然性はないが、ガルウイング形状を生かしてドアのガラスが天井まで回り込んでいた。いわば全面ガラス張りの室内空間だから、開放感は抜群であった。

またスーパーライブサウンドシステムには、DSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)が内蔵され、反響するような独特の効果が得られた。車内がガラス張りだから、音が一層響きわたった。

セラに乗ってドライブ・イン・シアター(クルマの車内で映画を鑑賞する施設)に出かけ、バック・トゥ・ザ・フューチャーを観た。デロリアンがタイムスリップするシーンは、スクリーンの中の運転席に座っているようで迫力満点だった。

最近、こういうクルマの単純な楽しさを味わっていないように思う。時代は電動化に移り、楽しい、面白いでは、済まされなくなっている。デロリアンを手に入れたら、平成2年のあの時間に戻れるだろうか…。

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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