スバル WRX STIの500台限定車「タイプRA-R」試乗|徹底した軽量化で史上最強レベルのコンプリートカーが誕生!

STI創立30周年記念モデル「WRX STI TYPE RA-R」

スバルの100%子会社で、モータースポーツ活動やコンプリートカーの開発・発売、既販車へのスポーツパーツの販売などを行なうSTI(スバルテクニカインターナショナル)が、2018年に創立30周年を迎える。

それを記念する限定モデルとして、スバルの走りのフラッグシップであるWRX STIをベースとした特別仕様車「TYPE RA-R」が2018年7月19日に登場した。

STIコンプリートカーと言えば、クルマをよく知っている大人が満足できる走りと内外装の質感も兼ね備える「Sシリーズ」と、車体やサスペンションを中心にノーマルの潜在能力を引き出すモディファイを行なった「tS」、そして近年ではSTIの敷居をより下げるためにスバルと共同開発され量産ラインで生産される「STIスポーツ」があるが、実はこれらのシリーズ属さないモデルも存在する。

それは、2代目インプレッサWRX STI スペックCをベースにしたTYPE RA-R(2007年)、3代目インプレッサWRX STI Spec CをベースにしたR205(2010年)の2台だ。

どちらも軽量ボディがベースで、見た目の変更は必要最小限、パワートレインはSシリーズと同じ、本気で攻められるフットワークを備え、よりコアなユーザーをターゲットで「走る愉しさ」を純粋に追求したモデルだった。

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軽さと研ぎ澄まされた走りが特長

今回紹介するWRX STI TYPE RA-Rはその流れを継承するシリーズとなるが、STIコンプリートカー共通コンセプト「Sport Always すべての時、すべての道、クルマとの対話はいつもスポーツ」は不変である。

STIの平川良夫社長は「STIは最近丸くなったのではないか?」と言う意見に対してシッカリと応える”短めで細見の磨かれた日本刀のようなスパッと切れる”と語ったが、これを要約すると「軽さ」と「研ぎ澄まされた走り」が特長と言うわけだ。

S208にも搭載された329PS/432Nmの最強エンジンを搭載

まず、WRX STI TYPE RA-Rのパワーユニットだが、2017年10月に450台で限定販売されたS208に採用した「最強のEJ20ターボ」を水平展開。専用ボールベアリングターボに加えて、重量公差で量産比50%低減のピストン&コンロッド、回転バランス公差85%低減のクランクシャフト、回転バランス公差50&低減のフライホイール&クラッチカバー、排気システム通気抵抗量産車比60%低減のスポーツマフラーなどにより、329ps/432Nmを誇る。6速MTのトランスミッション、マルチモードDCCD付センターデフ式AWDのセットは不変だ。

徹底した軽量化でパワーウェイトレシオは現行WRX STIでトップ

TYPE RA-Rの特徴の一つである「軽さ」だが、現行WRX-STIには軽量なスペックCはラインアップされていないが、安全性能や必要最小限の快適性を損なわずに…と言う制限の中で、細かい部品に至るまで軽量化を実施している。

具体的にはBBS製18インチアルミホイール、ドライカーボン製エアロドアミラーカバー、ウィンドウウォッシャータンク(4L→2.5L)、ジュラコンMTシフトノブの採用とヘッドランプウォッシャーレス、リアワイパーレス、防音材レス(フロントフードインシュレーター、スペアタイヤ内メルシート、フロア下アンダーカバー)、ステンレスサイドシルプレートレス、アームレストレスのリアシート、スペアタイヤレスなどにより、S208よりマイナス30kg、ノーマルよりマイナス10kgの軽量化を実施。これによりパワーウェイトレシオは4.498となり、3代目以降のWRX STIの中で最良を実現した。

ただ、個人的にはS208 NBRチャレンジパッケージに採用されたカーボンルーフなどの大物も変更して欲しかったが、この辺りは販売価格とのバランスを考慮した決断だろう。

18インチタイヤは日本初導入

シャシーはS208に採用の11:1のクイックステアリングギアにKYB製サスペンション(フロント倒立式)&ローダウンスプリング(マイナス10mm)、BBS製鍛造アルミホイール&245/40R18サイズのミシュラン パイロットスポーツ4Sの組み合わせ(実は18インチは日本初導入)。更に専用VDC&専用アクティブトルクベクタリングも採用している。

ちなみにSTIコンプリートカー定番アイテムであった独自理論のフレキシブル系補剛パーツは軽量化のために装着していない。

ブレーキはD型でノーマルもブレンボ製モノブロック対向キャリパー(フロント6ポッド/リアポッド)を採用済みだが、ブレーキパッドは制動性能に優れるSTIパフォーマンスパッドが奢られる。

エアロパーツが装着されないのは軽量化のため

エクステリアはドライカーボン製エアロドアミラーカバー/チェリーレッドストライプ付のフロントグリル&リアバンパー/ブラックカラードのサイドガーニッシュ&ルーフアンテナ/RA-Rエンブレム/30th ANNIVERSARYエンブレム。

インテリアはレッドのプッシュ式エンジンスイッチやジュラコン製シフトノブ、RA-Rロゴ入りハイグロスブラック仕様の加飾パネルと必要最小限の変更となる。

シャシー系同様にSTIコンプリートカー定番のエアロパーツが装着されないがこれも軽量化のため。ちなみにドライカーボン製エアロドアミラーカバーは軽さ以外に秘密があり、2つのフィン形状の効果でフロントリフト低減(マイナス4%)の効果を発揮する機能部品である。

足回りはしなやかな硬さでノーマルとは雲泥の差

では、その走りはどうなのか?試乗は日本のニュルブルクリンクと呼ばれる“グンサイ”こと群馬サイクルスポーツセンターのクローズドコースで行なった。

筆者は2代目インプレッサWRX STIスペックC TYPE RA-Rに試乗した事があるが、キレのある回頭性とFRのような動きをする“素人厳禁”のハンドリングが記憶に残っている。その末裔とも言えるモデルにグンサイのようなエスケープゾーンが少なく荒れた路面で乗ることに正直ビビッていたのだが、走り始めると、予想を覆す普通さにビックリ!?

もちろん硬い柔らかいで言えば硬いのだが、しなやかな硬さ。ギャップを超える際のしなやかな足さばきやアタリの柔らかさなどは、ノーマルとは雲泥の差なのはもちろん、走りと快適性を高次元でバランスさせたS207/S208にも引けを取らないレベルだ。

開発陣に聞くと快適性を狙ったわけではないと言うが、軽量化のための18インチBBS鍛造ホイールとトータルバランスに優れるミシュラン パイロットスポーツ4Sの相乗効果により、動的質感も非常に高いレベルだ。

ドライバーの意志に対してレスポンスよく反応

ハンドリングは11:1のギアレシオだが、直進時は心地よいダルさが残されているので思ったよりもシビアさはない。ステアリングを切り込むとキレのいい回頭性で旋回体制に入るが、リアのスタビリティが非常に高いので不安要素は一切ない。

アンダーステアの少なさはAWDとは思えないレベルだが、単なる安定志向ではなくドライバーの意志/操作に対してレスポンスよく反応。ノーマルよりもキビキビとした動きは軽量化の効果もあるが、体感的には実際の数値以上の差があった。

また、コーナリング時の一連の動作にノーマルにはないリニアさと連続性を備えるが、これはフレキシブル系補剛アイテムを装着した時と同じ感覚。実はパイロットスポーツ4Sの持つ特性がそれに近いフィーリングを出しているそうだ。

また、グンサイの路面は一般道よりもギャップが激しいが、路面から離れる気配はない上に、ノーマルならドーンと言った衝撃が出るような大きな凹凸の乗り越えでも何事もなかったようにショックを吸収する。まさに強靭でしなやかなタイヤである。今回はドライ路面だったが、ウエットのパフォーマンスにも相当自信があるそうだ。

キレがあるのにコクがある走り

ビールの広告ではないが、RA-Rは”キレがあるのにコクがある”走りを実現している。コク=懐の深さで、クルマに全幅の信頼を寄せることができる結果、グンサイのようなコースでもmm単位でコントロールが可能。筆者も周回すればするほどペースはどんどん上がっていったほどである。

ただ、欲を言えば高速コーナーや大きなギャップの乗り越え時などは「空気の力」を借りたほうが安心感はより高まるだろう。STIパフォーマンスパーツとして空力アイテムが用意されているが、全て装着してしまうとS208っぽくなってしまうので悩ましい所だ。

ブレーキは絶対的な制動力の高さはもちろんだが、過酷なグンサイでの連続周回でもへこたれないフィード性能の高さはもちろん、繊細なコントロールが可能なタッチやフィーリングの変化はほとんどなく、シャシー性能同様に信頼できるブレーキだと実感した。

初代WRX(GC8)のようにレッドゾーンまで回したくなる

エンジンは実用域で乗り易くなったものの、以前よりも高回転までスカーっと回る印象がなく、6500~7000rpmシフトでいいや…と思っていたノーマルに対して、実用域からリニアに湧き出でてくる洗練された力強さはもちろん、回転の滑らかさ心地よいサウンドも相まって初代WRX(GC8)の頃のような8000rpmのレッドゾーンまでシッカリと使いたくなるよう爽快で痛快なユニットに仕上がっている。

ノーマルは、ロードカーとして目指す走りに対して古典的かつ武闘派のEJ20ターボの組み合わせにアンマッチさを感じており、個人的には次世代ボクサーのFA20 DITのWRX S4のほうがクルマとしてのバランスはいいと思っていたが、RA-Rのキレがあるのにコクがある走りと最強のEJ20ターボの組み合わせは、S207/S208を含めた現行WRXシリーズ最良のバランスと断言したい。

即日完売なるか!?欲しい人は早めに決断を!

このように「軽さ」と「速さ」と「愉しさ」を純粋に研ぎ澄ましたRA-Rの価格は税込みで500万円を切る499万8240円。「Sシリーズはいいけど、さすがに高価すぎて……」と言う人にとっては、このプライスは背中を押す一つのポイントだと思う。

限定500台で受注期間は2018年7月19日から12月17日までだが、創立30周年記念車であることとこれまでのSTIコンプリートモデルの即日完売っぷりを考えると、気になる人は本当に早めに決断したほうがいい!!

[TEXT:山本シンヤ/PHOTO:株式会社SUBARU]

スバル WRX STI タイプRA-Rの主要スペック

スバル WRX STI RA-Rの主要スペック

車名・型式

スバル・CBA-VAB

全長

4595mm

全幅

1795mm

全高

1465mm

ホイールベース

2650mm

トレッド(前/後)

1535/1550mm

最低地上高

130mm

車両重量

1480kg

エンジン

EJ20・水平対向4気筒 DOHC 16バルブ デュアルAVCS ツインスクロールターボ

排気量

1994cc

最高出力

242kW(329PS)/7200rpm

最大トルク

432Nm(44.0kgm)/3200-4800rpm

トランスミッション

6速マニュアル

駆動方式

AWD(常時全輪駆動)

価格(消費税込)

499万8240円

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山本 シンヤ
筆者山本 シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立し。「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを“解りやすく上手”に伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗って活動をしている。西部警察は子供時代にリアルでTV放送を見て以来大ファンに。現在も暇があれば再放送を入念にチェックしており、当時の番組事情の分析も行なう。プラモデルやミニカー、資料の収集はもちろん、すでにコンプリートBOXも入手済み。現在は木暮課長が着るような派手な裏地のスーツとベストの購入を検討中。記事一覧を見る

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