スバルがアイサイトを自動運転技術(自動運転)と呼ばない理由 ~28年間に渡る技術開発の裏側と本音~

  • 筆者: 桃田 健史
  • カメラマン:和田清志/桃田健史/SUBARU
スバルがアイサイトを自動運転技術(自動運転)と呼ばない理由 ~28年間に渡る技術開発の裏側と本音~
スバル 新型アイサイト「アイサイト・ツーリングアシスト」試乗会 スバル 新型アイサイト「アイサイト・ツーリングアシスト」試乗会 スバル 新型アイサイト「アイサイト・ツーリングアシスト」試乗会 スバル 新型アイサイト「アイサイト・ツーリングアシスト」試乗会 スバル 新型アイサイト「アイサイト・ツーリングアシスト」試乗会 スバル 新型アイサイト「アイサイト・ツーリングアシスト」試乗会 スバル 新型アイサイト「アイサイト・ツーリングアシスト」試乗会 スバル 新型アイサイト「アイサイト・ツーリングアシスト」試乗会 スバル 新型アイサイト「アイサイト・ツーリングアシスト」試乗会 スバル 新型アイサイト「アイサイト・ツーリングアシスト」試乗会 スバル 新型アイサイト「アイサイト・ツーリングアシスト」試乗会 画像ギャラリーはこちら

やはり、自動運転技術(自動運転)とは言わない

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「”ぶつからないクルマ”というのは、ちょっと言い過ぎではないのか?」。

いまから7年前、富士重工業(当時)の社内で、アイサイト向けに採用しようとしていた宣伝コピーに対して、大きく意見が分かれた。

最終的に、このコピーにGOがかかったきっかけは、アイサイト開発陣からの「普及してこそ予防安全」という声だった。アイサイトは第三世代のVer.3(バーション3)を経て今夏、アイサイト・ツーリングアシストへの進化を遂げる。

それに伴い、SUBARU(スバル)は、一般社団法人日本自動車研究所の城里テストセンター(茨城県東茨城郡城里町)で、量産型の新型レヴォーグと新型WRX S4を使った報道陣向け試乗会を行った。

やはり、プレゼンテーションでは、自動運転という言葉は出てこなかった。ただし、自動ブレーキや自動アクセル、そして自動ハンドルといった言葉は使った。

一方、日産自動車は”自動運転技術の活用”という枕詞を使ったプロパイロットを装備をセレナに搭載し積極的なマーケティング戦略を繰り広げている。また、マツダも自動ブレーキという言葉を「i-ACTIVSENSE」の宣伝で使用し始めた。

自動車産業界の一部で、また自動車ジャーナリストの一部には、各社の自動運転や自動ブレーキといった表記に対して、”消費者がどのような状況でもクルマが自動でなんでも行ってくれる機能”との誤認識をしてしまうことを危惧して、こうした表記の使用に異議を唱える人も多くいる。

近年、世界各国で自動運転に関する各種カンファレンスを取材している筆者としては、自動運転や自動ブレーキとの表記については、各社の企業理念に基づくものであり、表記の使用については自社責任だと考える。

そうしたなか、スバルはアイサイト・ツーリングアシストを、『安心と愉しさのための高度運転支援技術』と定義し、『より遠くへより速く安全に快適に』というスバルのグランドツーリング思想に基づき、市場導入の目的を『心からツーリングを愉しむため』とした。

>>新型「アイサイト ツーリングアシスト」搭載の新型レヴォーグ/WRX S4を写真でみる

最初は、エンジン向けの技術だった!?

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ところが、スバルの社内体制において、自動運転に対する大きな変化があった。

今回、技術面でのプレゼンテーションをした、柴田英司氏の肩書は、第一技術本部・自動運転プロジェクト ゼネラル マネージャーという。スバルの場合、インプレッサやフォレスターなどの各車両、また重要な技術領域の統括者が、このプロジェクト ゼネラル マネージャーだ。社内的には、PGMと略称で読んでいる。

柴田PGMは車載用ステレオカメラの技術で、開発の初期段階から直接携わっている、アイサイトのスペシャリストだ。同氏の肩書に自動運転という言葉が付いたのは、今年の4月1日からである。

さて、アイサイトに通じる、スバルのステレオカメラ開発の歴史を紐解いてみると、基礎研究が始まったのは今から28年前の1989年とかなり古い。

もともと、エンジンの燃料室内の燃料を可視化するための技術だった。その10年後の1999年、車両のふらつき防止装置であるVDC(ヴィークル・ダイナミック・コントロール)の導入に伴い、レガシィ・ランキャスターでADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)という名称で量産化したが、「(オプション装備として)月に1台しか売れなかった時もあった」(柴田PGM)というほど、当時はマイナー商品だった。

その後、ADAの改良が続いた。2003年にはステレオカメラにミリ波レーダーを追加。また、2006年にはレーザーレーダーを使った、SIレーダークルーズコントロールを発表した。しかし、こうしたオプション装備は売価が40万円と高額だった。

そこで、柴田PGMらは当時、「やりたいことがいろいろあるが、お客様価値を最大限にすること目指そう」と、ステレオカメラだけによる予防安全装置、アイサイトを2008年に発表した。搭載車種を増やし、価格を抑えることで徐々に装着率が上りはじめ、2010年に第二世代となったアイサイトVer.2(バージョン2)発表後に、ついにアイサイトは日本市場で大ブレイクを果たした。

「なかなか売れなかったが、それでも諦めず量産を続けてきたことで、ハードウエアとソフトウエアの両面と車両評価部門で、予防安全技術のエンジニアが社内で育った。量産開発のなかで、(自動車業界における)自分たちの立ち位置がしっかりと分かったことが、アイサイト普及につながった」と、柴田PGMはこれまでの道のりを振り返った。

では今後、アイサイトはどうなっていくのか?

「アイサイト=ステレオカメラ」という定義はない

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プレゼンの後半、「SUBARUの高度運転支援技術、今後の展開」という資料の中で、アイサイト(ステレオカメラ)にミニマムなデバイスを追加し、自動車線変更機能などを実現、との記載がある。図表では、車両の周囲を確認するレーダーや、GPSとデジタルマップ(高精度三次元地図)の採用を示唆した。

これを基に、柴田PGMにズバリ、聞いた。

「アイサイト=ステレオカメラという定義を、これからもずっと維持するのか?」。

それに対して、「未決だ。効率的なシステムを実現するため、ハードウエアに拘るべきではない。ハードウエアはあくまでも手段だ。我々の(企業規模としての)身の丈で、どのような独自性を持てるのかを考えていきたい」と、答えた。

さらに、こう付け加えた。

「我々がこれまで目指してきたのは、徹底した衝突回避だ。そのため、近距離性能を上げることが最重要であり、物体のサイズや位置関係で総合的に処理しないといけない。多くの事故事例がある、低速度での”こっつん事故”は、前車との距離1m以下を注視する必要がある。この技術によって、渋滞中の制御がかかっても、ドライバーが”気持ちいい”と感じることができる。(こうした過去と現在の技術開発を踏まえて)今後は、本格的な自動運転時代においての開発ポイントは何かをじっくりと考えたい」(柴田PGM)。

今回試乗した、アイサイト・ツーリングアシストでは、停止状態から日本国内での高速道路の最高速度引き上げを念頭に時速120キロメートルまで(技術的には時速130キロメートルまで可能)、自動アクセル、自動ブレーキ、そして自動ハンドルが作動する。

試乗では最高速を時速70キロメートルとして、先行車が急ブレーキを踏んだり、先行車を渋滞中に追従するなどの量産技術を体験した。なお、ホンダがホンダミーティング2017で行った、開発中の技術である自動車変更の体験はなかった。

今回の試乗でスバルが主張したかったのは、リアルワールドにおける使いやすさと気持ち良さだ。白線が消えてしまっていても、時速60キロメートル以下では前車追従を優先し、また時速40キロメートル以下では白線認識と先行車の認識を同時に行うことで、予防安全の精度を上げている。

最近、AI(人工知能)によるディープラーニングなど、自動運転については自動車メーカー各社が新たなる技術領域での高精度な制御を開発中だ。その中で、アイサイト・ツーリングアシフトはAIに頼らない、”事実上の自動運転技術”として、世界最高峰の量産技術であることを、今回の試乗でしっかりと確認することができた。

今後、自動運転技術での競争環境が厳しくなる中、スバルのさらなる歩みに大いに期待したい。

アイサイト搭載車は、2008年5月から2016年11月の累計販売台数が100万台を突破。近年中に、ロシアや中南米など仕向け地をさらに拡大していく予定だ。

[Text:桃田健史]

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桃田 健史
筆者桃田 健史

日米を拠点に、欧州、BRICs(新興国)、東南アジアなど世界各地で自動車産業を追う「年間飛行距離が最も長い、日本人自動車ジャーナリスト」。自動車雑誌への各種の連載を持つ他、日経Automotive Technologyで電気自動車など次世代車取材、日本テレビで自動車レース中継番組の解説などを務める。近著「エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?」(ダイヤモンド社)。1962年東京生まれ。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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