【コラム】 海外偏重に陥った日本車の開発姿勢/渡辺陽一郎(3/3)

発端は1989年の「消費税導入」

今のような状況に至った発端は、1989年の消費税導入に伴う自動車税制の改訂だった。

それまでは3ナンバー車になると自動車税が年額8万1,500円に跳ね上がり、卸値に課税される物品税率も23%(小型乗用車は18.5%)で、価格も高かった。これが消費税の導入で、自動車税を段階的な課税に改め、物品税は廃止している。税金と価格の両面で、3ナンバー車を購入しやすくなった。

この時に大半の自動車メーカーは、セダン/ワゴン/クーペを中心に、国内と海外向けの車種を共通化してボディを拡大するようになった。共通化すれば効率が良く、3ナンバー車になればユーザーも喜ぶと考えたからだ。

日本が誇る優れた商品「軽自動車」を海外にも

ところが実際は、ボディを大型化した車種は、売れ行きを軒並み落としている。低迷した理由は、ボディの拡大だけでなく、クルマ造りのすべてが日本を離れて海外に移ったことにあった。

2002年に発売された7代目ホンダアコードは5代目以来の3ナンバーに

ホンダアコードセダンは、1993年に登場した5代目でボディを3ナンバーサイズに拡大。売れ行きが下がり、1997年の6代目では5ナンバーサイズに戻したが、もはや売れ行きは回復しなかった。2002年の7代目で再び3ナンバー車になっている。

国内の販売総数は1990年に778万台のピークに達したが、この後はクルマ造りの海外偏重もあって一貫して減り続け、2013年は538万台だ。今の売れ行きは最盛期の70%以下になる。日本のユーザーにしてみれば、欲しいクルマが次第に減り、購買意欲も衰えた。

「買いたいクルマがない」のは不幸な話だ。自動車は国内でも基幹産業だから、販売不振は経済面のマイナスも招く。特に最近は販売台数が減った上に売れ筋車種が低価格化したから、販売会社の経営が苦しくなっている。

日産やホンダの販売会社は、店舗の規模が大きく拠点数も多い。店舗の統廃合はすでに開始されているが、さらに減れば、販売会社の雇用が悪化してユーザーも不便を強いられる。そして自動車産業の先行きを見通せば、最終的には自国で生産して自国で消費するスタイルに収束する可能性が高い。先に述べたようにクルマは国民性を反映させた商品であるからだ。

今の日本車メーカーは、新興国などで「過去最高」を謳歌しているが、中国メーカーもコピーの段階を脱して急速に力を付けてきた。日本車メーカーが国内を顧みず、低価格車ばかりの市場になると、日本が「最後の砦」として機能しなくなってしまう。

軽自動車は日本のユーザーにとって優れた商品に成長した。この勢いをほかのジャンルにも波及させて欲しい。ダウンサイジングは世界的な潮流でもあるから、日本向けの緻密な商品は、やがて海外でも高い評価を得られるようになるだろう。

実際、日本車メーカーは、日本ならではのクルマ造りで海外の足場を築いた。日本向けに造られているからこそ、日本車としての価値がある。そして日本のメーカーを育てた国内市場への感謝を忘れないでいただきたい。

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渡辺 陽一郎
筆者渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。記事一覧を見る

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