ポルシェ 911カレラ4&カレラ4S 海外試乗レポート(3/3)

  • 筆者: 河村 康彦
  • カメラマン:ポルシェ・ジャパン
ポルシェ 911カレラ4&カレラ4S 海外試乗レポート
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どちらが良いか?・・・それは愚問なのかも知れない

カレラ4の場合も4Sも、動力性能に関しては「後輪駆動モデルと全く変わらない」というのが率直な印象だった。フロント駆動系の追加とボディのワイド化でスペック上では50kg強ほど重くなっているのが4WDモデルだが、フィーリング上でそれを意識させられる事は皆無と断言出来る。実際、0→100km/h加速のメーカー発表値は、トランスミッションの如何を問わずカレラ4SがカレラSと全くの同数値。そして、カレラ4もカレラに対してわずかに0.1秒の遅れを示しているに過ぎない。

こうして数字でも裏付けられるのが4WDモデルの素晴らしい加速力なのだ。一方で、少なくとも乾燥した舗装路上では、後輪駆動モデルに対するトラクション能力のアドバンテージが実感出来ないというのも事実ではあるわけだが。

カレラ4S、及び19インチ・シューズ+“PASM”というオプションを装着したカレラ4で感激させられるのが、後輪駆動の同仕様モデルに勝るとも劣らないしなやかな乗り味。すでに述べたように4WDモデルではリアによりファットなタイヤを履くにもかかわらず、それによる乗り心地の低下を全く感じさせないのは驚きですらある。

ちなみに、今回はPASMナシ、シューズは18インチという“素のカレラ4”に乗る機会もあったが、60~70km/hほどのスピードが出てしまえばPASM付きモデルとの乗り味の差は殆ど感じられないものの、それ以下のスピードでは明確に「かたい」という印象が強いものだった。まるでコンペティション・カーのごとく足回りがハードになる『スポーツ』のモードは使う機会が限定される“PASM”ではあるが、“PASM”ナシ仕様とのこの低速側のコンフォート性能の差は見逃し難い。率直なところ、自らカレラ4を手に入れて長く付き合うというのであれば、ぼくならばそれなりのオプション・コストを支払ってでも“PASM”を選択したい。

今回、この低速域での“PASM”の絶大なる効果を知る事が出来たのは貴重な経験であった。

こうした乗り心地面も含め、後輪駆動仕様との比較というハナシになると、「“街乗り”レベルでは後輪駆動モデルとの違いが殆ど感じられない」というのが事実。しかし、だからと言って「自分は低ミュー路を走る機会は少ないから、4WDシステムは無用の長物」などと解釈するのは当たっていないだろう。それは、高速道路でもワインディング・セクションでも走りのペースが上がるにつれ、両者のハンドリング感覚の違いが明確になってくるからだ。アップテンポな走りでは両者のハンドリング・テイストは相当に異なる。

素晴らしい走りのポテンシャルの持ち主であるこれまでのカレラ/カレラSも、ある程度以上のハイスピードでアンジュレーションに飛び込んだりすると、それをきっかけに後輪側を軸としたピッチ・モーションを起こすのは数少ない弱点だった。

これは911の、というよりも極端なリアヘビーとならざるを得ないRRレイアウトのクルマゆえのウイークポイントと言った方が良いかも知れない。そして、そんなピッチングによる前輪荷重の増減から、時にフロント側があおられるようなちょっと不安感につながる挙動を引き起こす事が少なからずあり、率直なところ200km/hを超えるような速度域ではやや緊張感を強いられる走りの感覚をも生み出していたのである。

もちろん、「それが911ならではの走りの味」と解釈をする人も居るだろう。個人的にも、そんな気持ちもわからないではない。が、まさにそのあたりの“ノーズが泳ぐ感じ”ともいうべき挙動を封じ込めたのが4WDモデル。より分かりやすく表現すれば「高速クルージングがグンとリラックスして行える」のがカレラ4/4Sの走りの感覚という事になる。

ちなみに、比較的タイトなターンでのアンダーステアは、こちら4WDモデルの方が小さい印象。ちょうど前輪駆動系が加わって荷重が増した分、タイヤ・グリップも上乗せされたという感覚だ。一方で、そろそろタイヤ・グリップの限界も近付きつつあるという、3桁スピードでの重量による慣性力が支配的になる領域では、フロントのドリフトアウト発生限界点は後輪駆動モデルよりもやや低いようにも感じられる。そしてもちろん、ターンイン時のノーズの動きは後輪駆動モデルの方が軽快だ。このあたりも、「やっぱり自分は後輪駆動モデルが良い」という声を生み出す大きな要因となりはするだろう。

ところで、前述のような最新ロジックが加えられたブレーキの効き味、そして持久力(耐フェード性)は素晴らしいものであった事も加えておこう。今回のテストルートは、モンテカルロ・ラリーにも用いられるというセクションを含んだ様々なワインディング・ロードが主体。そうした過酷なシーンの中で、オプションの“PCCB”(セラミック・コンポジット・ブレーキ)付き車はもとよりの事、カレラ4のノーマル・ブレーキ仕様車でも優れたタッチでタイトなつづら折れの続く下り坂の連続使用で、全く不安のないブレーキ・フィールを味わわせてくれる事になった。急激なアクセルOFF後のブレーキ力の立ち上がりのシャープさも、確かに後輪駆動モデル以上という印象。もっとも、この最新ロジックは恐らく近い将来に後輪駆動モデルにもフィードバックされる事になるはずだ。

素晴らしい走りのポテンシャルの持ち主であるこれまでのカレラ/カレラSも、ある程度以上のハイスピードでアンジュレーションに飛び込んだりすると、それをきっかけに後輪側を軸としたピッチ・モーションを起こすのは数少ない弱点だった。

ここまで読み進んでくれた人には、きっとおぼろげながらそのヒントは掴めていると思う。「軽快さとシャープな動きを望むなら後輪駆動の911。ちょっと重厚さを感じられるリラックスしたクルージングの感覚と、あらゆるシーンでの安定した走りのポテンシャルの高さを求めるなら4WDの911」というわけだ。

この両者を脇に置いての「どちらが良いか?」…それは本来愚問なのかも知れない。何故ならば、「そのいずれもがポルシェ社が自信を持って世に出したモデル」であるのだから。

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河村 康彦
筆者河村 康彦

1960年東京生まれ。工学院大学機械工学科卒。モーターファン(三栄書房)の編集者を経て、1985年よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動を開始し、現在に至る。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー選考委員 などを歴任。記事一覧を見る

樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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