日産 マーチ 試乗レポート
- 筆者: 松下 宏
- カメラマン:原田淳
マイナーチェンジしてもかわいらしさは相変わらず
マーチは日産のベーシックラインを受け持つモデルで、女性ユーザーを意識した可愛らしいデザインが特徴。3代目の現行モデルは平成14年2月にデビューし、平成16年4月には小幅な改良を受けている。ただマーチは初代モデル以来、10年間は作り続けるクルマとされており、まだまだモデルサイクルの前半にある段階だ。
平成17年8月のマイナーチェンジでは、前後のデザインを変更するとともに、1.5Lエンジンを新搭載するなど、バリエーションを大きく変更した。外観の変更ではフロントグリルやライト回りなどが変更され、インテリアではドアトリムクロスが追加されたのがポイント。
1.4LのCR14DE型エンジンに代わって(e-4WDはCR14DE型が継続)搭載されたHR15DE型は、すでにティーダやノートなどコンパクトクラスの日産車に搭載されているもので、エクストロニックCVTとの組み合わせが設定されている。
街中での存在は、愛くるしい外見とは裏腹な健脚ぶり
新しく搭載されたHR15DE型エンジンのパワー&トルクは80kW/148N・mの実力で、従来からのCR14DE型に比べ9kW/12N・mも向上しており、ボディに対して十分な余裕を持つエンジンである。マーチの車両重量はこの1.5L車でも1000kgを切る程度だから、十分すぎる実力といっても良いだろう。
このエンジンを搭載したマーチ15Gを実際に走らせると、その余裕が実感できる。トルクに余裕があるのでとても滑らかな走りが可能なのだ。この滑らかさにはエクストロニックCVTも貢献している。変速ショックのないスムーズな加速フィールはマーチがより上級のクルマになったような印象を与える。
足回りは相変わらず柔らかめのチューニングだ。乗り心地は悪くないが、試乗した箱根の山道ではタイトなコーナーでボディが大きく傾く感じになる。街乗りを中心にのんびり走るためのクルマと考えたい。
オーテック仕様のマーチは、まったく別物の“力強さ”
オーテックジャパンの特装車として設定される12SRはマーチのイメージを一新させるスポーツモデルだ。エアロパーツを装着した外観はマーチには似合わないくらいの迫力がある。インテリア回りも専用のスポーツシートのほか、ブラックメーターやカーボン調フィニッシャーなど、12SER(と15SR-A)に専用の仕様がいろいろと用意されている。
そして何より専用にチューンされてベースエンジンに比べて20psものパワーアップが図られたCR12DE型が大きな特徴。停止状態からアクセルを踏み込むと、タコメーターの針が一気に吹き上がっていく。レッドゾーンも標準エンジンより高い7000回転に設定されているが、そこまでの吹き上がりは標準エンジンとは比べ物にならないくらいのスムーズさ。それも極めて力強い走りを実現しながら吹き上がっていくのだ。標準のマーチとは全くの別モノであることが分かる。
足回りはかなり硬めにチューンされるほか、ストラットタワーバーを装備することなどによってボディ剛性も強化されている。これによってコーナーでも姿勢変化の少ない安定した走りが可能。12SRの走りの実力は極めて高いレベルにある。
選択の幅が広がった新型マーチ
マーチの今回のマイナーチェンジでは試乗記をレポートした15Gと12SRが大きなポイントだったが、これが売れ筋なのかどうかというと必ずしもそうではないように思う。
15Gは余裕の走りか魅力とはいえ、マーチのボディにこれだけの排気量のエンジンが必要かどうかは疑問。マイチェン後のマーチの売れ筋は12Eになると思うが、それに比べると15Gの価格は30万円近く高い。もちろん装備の差などを反映した価格差ではあるのだが、30万円ともなると全く別のクラスのクルマともいえる価格差であり、これだけ高い15Gがそうそう売れるとは思えない。実際、走りや使い勝手、経済性などを総合的に考えても、マーチには1.2L車で十分。12Eを選べばいいだろう。
12SRは走り志向のユーザーにとってもとても楽しいクルマであるのは確か。でも12SRもそうたくさん売れるクルマではない。エアロパーツなどを装着しているとはいえ、マーチのデザインの基本は女性向きのもので、スポーティ志向のユーザーが積極的に選びたいと思うものではないからだ。しかも価格は170 万円台と相当に高くなる。走りの性能などから価格に匹敵する値打ちがあることは認めるが、価格から見てもたくさん売れるクルマにはならないだろう。
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