SUVの関心が高まる昨今、BMWが造るFFベースのSUV、新型X1はいかに?
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:和田清志
BMWのFFモデルと聞いて、あなたはどう思う!?
「ちょっと寂しいなぁ」と思うのが現行BMW X1だ。先代(初代)モデルはコンパクトなSUVとして日本では2010年に発売され、この時点では3シリーズなどBMWのセダンと同じ後輪駆動(FR)を採用した。
ところが2015年に発売された現行型の2代目は前輪駆動(FF)に変更されている。コンパクトで車内の広いBMW 2シリーズ アクティブツアラー/グランツアラーも前輪駆動で登場した。
BMWは後輪駆動にこだわりを持ち、ほとんどのメーカーで前輪駆動が圧倒的多数になった昨今でも、後輪駆動をさまざまな車種に採用している。
特に先代X1と1シリーズは、コンパクトな5ドアボディの後輪駆動車だから、近年では貴重な存在であった。それが2代目X1では前輪駆動に変わり、1シリーズも次期型は同じプラットフォームを使う前輪駆動に移行すると思われる。
MINIとプラットフォームを共通化し、進歩したFFを採用
BMWは今世紀に入ってMINIを手掛け、今では16年を経過してブランドも定着してきた。そうなるとBMWブランドのコンパクトな車種も、プラットフォームなどの基本部分を共通化した前輪駆動に切り替わるのは当然の成り行きだろう。
今は前輪駆動も進歩して、カーブを曲がる時の安定性、操舵感などが昔に比べると大幅に向上した。室内空間を後輪駆動よりも広く確保できることを考えると、前輪駆動を採用しても実用的な不都合はまったくない。空間効率のメリットでは勝るから、乗用車の大半が前輪駆動になった。
ただし良し悪しではなく、感覚的な部分では駆動方式の違いが依然として残る。カーブを曲がっている時に、出口に向けてアクセルペダルを踏み増した時など、前輪駆動では駆動力の変化がハンドルを握る掌に伝わる。後輪駆動の方が滑らかで摩擦を抑えた操舵感を得やすい。エンジンと駆動のメカニズムを前後に分割することで、前後輪の荷重配分を50%ずつにバランス良く振り分けられるのも後輪駆動のメリットだ。
長年後輪駆動を造り続けてきただけに一抹の寂しさを感じる
外観も影響を受ける。
後輪駆動ではフロントウインドウと前輪の間隔が広がってロングノーズの伸びやかな外観を演出しやすいが、エンジンを横向きに搭載する前輪駆動では、前輪の位置が車内側に引き寄せられてフロントウインドウに近づく。エンジンの搭載位置が前輪の中心点よりも前側に位置するためだ。アウディ A4のようにエンジンを縦向きに搭載したり、横置きでもボルボ V90/S90のように前輪の中心点とペダルの間隔を広げてロングノーズに見せる車種もあるが、空間効率が下がるために少数にとどまる。後輪駆動の特徴として外観の魅力も挙げられる。
そしてBMWは運転感覚を重視するブランドだから、後輪駆動の特徴と相性が良い。そのために長年にわたり後輪駆動車を造り続けてきた。この経緯を考えると、前輪駆動の採用に一抹の寂しさを感じるわけだ。
とはいえX1も進化しており、2016年9月には新しいクリーンディーゼルターボを搭載した。前輪駆動車ベースに変更された後の運転感覚も含めて、改めて試乗して確認したい。今はトヨタ C-HR、スバル 新型XV、マツダ 新型CX-5などが発売され、SUVに対する関心が高まっている。タイムリーな試乗でもあるだろう。
試乗したグレードはX1 xDrive18d Mスポーツであった。ここまでさんざんFFの話をしたが、今日の試乗車はFFベースの4WD(xDrive)モデルである。クリーンディーゼルターボに加えて4WDも搭載し、さらにMスポーツモデルだから、価格は495万円と高いが、直列3気筒1.5リッターのガソリンターボを搭載する2WDのX1 xDrive 18iスタンダードなら405万円に収まる。全体的にはレクサス NXに近い価格設定だ。
先代型より向上した後席の居住性
車内に入ると、インパネ周辺の基本デザインは、3シリーズなどのセダンと基本的に共通だ。メーターは大径で見やすく、スイッチ類は水平に配置されて操作がしやすい。
後輪駆動と違ってトランスミッションが室内空間に大きく張り出さないため、ATレバーが収まるセンターコンソールの位置は低い。BMW特有のドライバーの腰から下側がサポートされる囲まれ感は乏しいが、逆の表現をすれば開放感が伴う。
試乗車のグレードはMスポーツだから、文字通りのスポーツシートが備わり、大腿部から肩まわりをしっかりと支える。
後席は先代型に比べて居住性が向上した。ホイールベースが短くなって切り詰められたのはペダルとフロントウインドウよりも前側だから、有効室内長は短くならない。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る同乗者の膝先空間は握りコブシ2つ分だ。全高が1600mmに達したこともあって床と座面の間隔が十分に確保され、腰の落ち込む姿勢にならない。頭上にも相応の余裕があり、4名乗車時の居住性は先代型よりも快適だ。このあたりが前輪駆動化のメリットになる。
トルク感高く、燃費も良好な新世代ディーゼルエンジン
試乗を開始すると、視線の位置がSUVらしい適度な高さで、見晴らしが利くことに気付いた。先代型の視線は1シリーズに近い高さで安定感を表現したが、現行X1はSUVらしい印象だ。それでも高過ぎることはなく、BMWのイメージにも合う。
エンジンは前述のように世代が新しくなった直列4気筒2リッターのクリーンディーゼルターボ。最高出力は150馬力(4000回転)、最大トルクは33.7kg-m(1750~2750回転)とされ、後者の数値はターボを装着しない自然吸気のガソリンエンジンに当てはめると3.3リッター並みだ。
新しいディーゼルの特徴は、従来型に比べてノイズを低減させたこと。車外ではカリカリとしたディーゼル特有のノイズが相応に響くが、走行中にはタイヤが路上を転がる音なども聞こえてくるから、エンジンノイズは気にならない。
動力性能はディーゼルとあって実用回転域の駆動力が高い。車両重量は1520kgだからボディサイズの割に少し重いが、一般的な走行では、アクセルペダルを軽く踏むだけで必要な加速力が得られる。いわゆるトルク感が高い。
そして高回転域の吹き上がりも良く、ATのスポーツモードを選ぶと、フル加速では4700回転でシフトアップした。最高出力の発生回転数を超える領域まで回してもあまり意味はないが、峠道などではガソリンエンジンに近い感覚で運転できる。
その一方でJC08モード燃費は19.6km/Lと良好だ。軽油価格がレギュラーガソリンに比べて1リットル当たり20円ほど安いことを考えると、燃料代は1.5リッターエンジンを積んだ国産コンパクトカーと同程度になる。
BMWらしいスポーティーな個性を弱めた代わりに、「良くできたSUV」を買いたいユーザーのニーズには適する
現行X1は横置きエンジンの前輪駆動がベースだが、カーブを曲がった時でもこの駆動方式をあまり意識させない。もちろん違いはあって、先代X1に比べると操舵に対する反応が穏やかになったが、正確性は高く、少々スポーティに走っても旋回軌跡を拡大させにくい。安定性も優れ、素直に良く走るSUVだと感じた。
Mスポーツは18インチタイヤを装着するが、硬さはあまり感じさせず、優れた走行性能と快適性を調和させている。
プラットフォームは2670mmのホイールベースを含めてミニクロスオーバー/ミニクラブマンと共通だが、乗り心地はX1が柔軟だ。先代型は運転感覚から乗り心地まで5ドアハッチバックに近い印象を受けたが、現行型はSUVらしさを強めた。
結論をいえば、現行X1は先代型に比べてBMWらしいスポーティな個性を弱めた代わりに、SUVの特徴とされるゆったりした運転感覚、後席を含めて快適な居住性を身に付けた。クリーンディーゼルターボも静かで滑らかになり、これも現行X1の性格に合う。そしてドライバーの操作に対し、正確に反応するクルマ造りが、BMWの特徴を見い出せる。
「BMWのSUV」を求めると横置きエンジン・前輪駆動レイアウト、という点が心象的には少し物足りない。だが、「良くできたSUV」を買いたいユーザーのニーズには適すると思う。全幅がワイドなのは少し気になったが、ウンチクめいたことを考えずに運転すると、快適なドライブを楽しめた。
[レポート:渡辺陽一郎/Photo:和田清志]
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