アストンマーティン 新型ヴァンテージ試乗|アストン史上最強ロードカーの実力とは?(1/2)
- 筆者: 嶋田 智之
- カメラマン:オートックワン編集部
DB11はGTカー、ヴァンテージはスポーツカー
アストンマーティンがアンディ・パーマー体制になってからの最初のブランニューとなったDB11は、初めてステアリングを握ったときから素晴らしかった。後に追加されたV8ユニット搭載のDB11 V8も、ドロップヘッド・クーペともいうべきDB11ヴォランテも、やっぱり素晴らしかった
だからこそ新体制になってからのブランニュー第2弾である新型ヴァンテージにも早く乗ってみたくて仕方なかったのだけど、ようやく叶った。
ボスであるパーマーさんも、そして副社長にして造形部門のトップでもあるマレック・ライヒマンさんも、常に「DB11はGTカー、ヴァンテージはスポーツカー」とクチを揃えていた。
そこには「旧型ヴァンテージとDB9の違い以上に、異なるキャラクターを持たせるからね」という含みが、間違いなく込められていた。
獰猛な野性を感じさせる新型ヴァンテージ
確かに新しいヴァンテージのスタイリングは、アストンマーティンの方程式からは全く外れてはいないのに、DB11とは似ていない。少なくとも向こうから走ってくるのを遠目に見て、V8ヴァンテージ?DB9?と瞬間的に迷ったりした頃とは話が違う。
穏やかでスマートな印象のDB11に対して、均整のとれた新型ヴァンテージの肢体の中にどこか獰猛な野性を感じさせる印象がある。
けれど、ホイールベースが101mm短かったり、車重が同じエンジンを積むDB11 V8より120kg以上軽かったりはするものの、ヴァンテージはDB11とほぼ同じアルミ接着工法による車体構成を持ち、DB11 V8とほとんど同じAMG由来の4リッターV8ツインターボを積んでいる。DB11 V8だって“あくまでもGTカー”といいながら、先代のV8ヴァンテージと張り合えるぐらいの運動性能を披露してくれたりもした。
新型ヴァンテージは一体どんなふうにDB11と違っていて、どんなふうにドライバーを楽しませてくれるのか。興味が湧かないわけがない。
低いドライビングポジションと引き締まった足腰
あれ?だいぶ違うかも……という予感は、ドライバーズシートに腰を降ろした瞬間に湧いてきた。
スポーツモデルに試乗するときの常として、僕には最初にシートを最も低くセットしてみる習慣がある。着座位置の低さとそれに伴う足を投げ出すようなドライビングポジションは、それそのものがスポーティな感覚を呼び覚ますようなところがあるからだ。
新型ヴァンテージのそれは、かなり低い。ケータハムほどではないにしても、路面のすぐ上を滑走しているかのような感覚がある。
V8ユニットのサウンドはDB11 V8より少しダイレクトにドライバーに伝わってきて、3000rpmも回すと車内はわりと賑やかだ。ロードノイズも、DB11より大きく感じられる。車重の軽さを確保するためか、あるいは雰囲気づくりのためか、遮音系を少し省いているのかも知れない。
ライドフィールも、これまで走らせたことのあるアストンマーティン達と較べると、結構ハードな感じだ。基本的な乗り心地としてはほどほどに良好だし、少しも粗いわけじゃなくて引き締まっているだけなのだけど、路面のギャップや大きなうねりを乗り越えるときにはそれを拾ってキッチリとドライバーに伝えてくる。
新型ヴァンテージの乗り味は、エレガントなDB11とはベクトルが違う
御存知の方も多いことだろうけど、DB11以降のアストンマーティンは、エンジンのトルク特性やミッションの変速スピードなどのパワートレーン系とアダプティブダンピングシステムの減衰などのシャシー系を、それぞれ別々にチョイスできるようになっている。
新型ヴァンテージは “スポーツ”“スポーツプラス”“トラック”の3段階で、最もソフトなのが“スポーツ”だ。そのシャシー系のモードを“スポーツ”のままで走り出してすぐにDB11との違いを感じたし、首都高速で“トラック”を選んで少し元気よく走ってみると継ぎ目で跳ねたかと思ったこともあったぐらい。
僕なんかはそういう動きを単純に楽しんじゃうようなところがあるから少しも苦じゃないけれど、同乗者がいるときには“スポーツ”に固定しておとなしく走るのがいいだろうな、と感じたのも確かだ。
いずれにしてもヴァンテージは、DB11のエレガントな乗り味とはベクトルが少々違っている。足腰はかなり筋肉質に仕立て上げられていると考えていい。
あらゆる局面で速さをモノにしやすいフラットで強大なトルク
AMG由来の4リッターV8ツインターボは、アクセルを深く踏み込んで行くと相当に速い。静止状態から0-62mph(およそ100km/h)までの加速タイムは3.7秒。これはDB11の発展版であり、パワーで129ps上回る639psのV12ツインターボを積んだDB11 AMRと──車重の違いも大きいが──全く同じ数値なのだから、それもそのはず。
回転が高まっていくに連れて歯切れよく弾けていく、AMG GTなどとは音色の異なる角が少しまろやかなアストンらしいサウンドにそこはかとない安心感を感じながら、そのときのスムーズで素早い速度の伸びを味わうのは、かなり楽しい体験である。
高回転になればなるほどサウンドの歯切れがよくなって快感指数も高まるから、最初は高回転を好むタイプかと錯覚しがちだが、実はこのエンジンの基本的な性格はフラットなタイプ。
低い回転領域から強力なトルクを放出し、パワーも直線的に伸びていく感じだから、どこからアクセルを踏んでも俊敏で獰猛な加速を味わわせてくれる。そういうエンジンこそがあらゆる局面で速さをモノにしやすいことは、もちろんいうまでもない。
ギュッと締まった足腰と強力なパワーユニットのコンビネーション。それをワインディングロードに持ち込んで楽しくないはずがない。新型ヴァンテージの真の姿は、この辺りから露わになりはじめてくる。
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