「赤信号なのは判ってた」減らない高齢ドライバーの事故と、車を必要とする環境のジレンマ【週刊 クルマ事件簿】

高齢ドライバーによる人身事故はどうすれば減るのか・・・

またまた高齢ドライバーによる痛ましい自動車事故が起きた。2018年5月28日、神奈川県茅ヶ崎市の国道1号線で、付近にいた歩行者などが車に次々にはねられ、1人が死亡し3人がけがをした。

警察は、車を運転していた90歳の女性を過失運転致死傷の疑いで逮捕。女性は警察の調べに対して、「自分の側の信号は赤だと分かっていたが、歩行者が渡り始めていなかったので通過できると思った。そのあと横断する人が見えて慌てて左にハンドルを切った」と供述しているという。

女性は今年3月に運転免許証を更新した際、75歳以上のドライバーに義務づけられている判断力や記憶力を調べる検査では、問題はなかったという。

この事故に対しては、多くのマスコミが「もっと早く免許を返納していれば」という論調だが、検査に合格している以上、免許を所持する権利はあり、90歳だからと言って返納を強制できるはずもない。

「一定の年齢になったら免許返納を義務化すべきでは」という意見もあるが、免許がない=ほぼ移動の自由がない地域も多く、生存権すら危うくなる。

>>日産 初代プリメーラを画像で見る

高齢者じゃなくても事故は起こす

また、高齢者だから事故を起こす確率が猛烈に高いかと言えば、そうでもない。もちろん高齢ドライバーが事故を起こす確率は、他の年齢層より高い。

免許保有人口10万人あたりの死亡事故件数で見ると、75歳以上の高齢ドライバーは、他の年齢層に比べて約2.3倍(12.7件)となっている(警察庁調べ・平成28年)。しかし、これを確率で見ると0.01%。1万人に一人弱だ。「高齢ドライバーは1万人にひとりも死亡事故を起こすから、全員免許を返納すべし」と言う権利は誰にもないだろう。なにせ非高齢者も、3万人にひとりくらいの確率で死亡事故を起こしているのだから。

免許返納の仕組みだけではなく、安全装備の普及が急務

高齢ドライバーに免許の返納を強制するのは無理。となると頼りたくなるのは、自動ブレーキなど自動車側の先進安全デバイスだ。この分野が日進月歩なのはご存知の通り。

ところが、高齢ドライバーが起こした事故現場の写真を見ると、ほとんどの場合、運転していたクルマがかなり古い。つまり、先進安全デバイスなど装備されていない。

今回の事故でも、女性が運転していたのは、日産 初代プリメーラ(赤)だった。

初代プリメーラといえば、ヨーロピアンな走りを持つ名車だったが、販売されていたのは1990年から95年まで。

女性がこのクルマを新車時から所有していたかどうかはわからないが、最低でも23年前のクルマだ。

安全装備はまだまだ高価・・・普及には解決すべきことが多い

古いクルマを長く愛する。賞賛すべきことだが、認知・判断・操作力が衰えた高齢ドライバーにこそ先進安全デバイスを備えた最新のクルマに乗って欲しいわけで、その観点からすると良いこととも言えない。

個人的には、免許返納はともかくとして、高齢ドライバーは、まずは安全なクルマへの買い替えを行って欲しいと思ってしまう。もちろん安全デバイスは決して絶対ではないが、事故の発生率をかなり抑えられる。

しかし、これもまた、高齢ドライバーにとってはハードルが高い話だ。

なにせ高齢者は、収入が多くない。内閣府によると、高齢者世帯の世帯当たり年収は300.5万円(平成26年)で、うち年金や恩給が約200万円となっている。つまり、おおむね年金暮らしであり、その収入で先進安全デバイスを備えた新車に買い替えろというのは、かなり酷である。

高齢者ほど消費意欲は衰えるし、もうそれほど長くは生きないと感じたら、「今のクルマに一生乗ろう」と思ってしまうであろうことは、想像に難くない。

では、どうすればいいのか?

個人的には、先進安全デバイスのさらなる進歩と、クルマへの装備の義務化以外にないと考える。

日本でのクルマの平均使用年数(=平均寿命)は約13年。13年後には、9割以上のクルマが入れ替わっていると考えていいだろう。仮に今すぐ義務化すれば、約10年後には、高齢ドライバーのみならず、事故そのものを現在の半分以下に減らせるのではないか。

安全デバイスの進歩はずっと続くので、20年後には数分の1に減らすことも、十分可能なはずである。

[Text:清水草一]

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清水 草一
筆者清水 草一

1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。代表作『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』などの著作で交通ジャーナリストとしても活動中。雑誌連載多数。日本文芸家協会会員。記事一覧を見る

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