自動車産業界に激震!グーグルが完全自動運転の開発を諦めたワケ(2/2)
- 筆者: 桃田 健史
- カメラマン:桃田健史
ネズミがドンドン逃げ出した
筆者が2015年夏に立てた予測のなかで現実となったのは、自動運転の最高技術責任者のクリス・アームソン氏の辞任だ。アルファベット設立の約1年後の出来事だった。元々はカーネギーメロン大学でロボット工学の研究者。米国防総省の高等研究計画局(DARPA)が2000年代に開催した無人カーレースで、同大学を優勝に導き、その功績をグーグル創業者のひとりであるラリー・ペイジにかわれて、グーグルカーの開発を引き受けた。
そうしたバリバリの研究者が、バリバリの経営者であるクラフチック氏と肌が合うはずはなく、早くから二人の不仲説がシリコンバレー界隈に流れていた。
そんな社内の妙な空気を察して、2015年後半頃からグーグルカーの開発初期から携わってきた主要なメンバーが続々とグーグルを去っていった。
そのひとりが、ジェームス・カフナー氏だ。MIT(マサチューセッツ工科大学)でロボット工学の研究者だったが、2009年にグーグルが自動運転の基礎研究を開始したことを受けてグーグルへ転職。制御のデータ解析の責任者として約6年半に渡り、グーグルカーの開発を支えてきた重要人物だ。
そのカフナー氏は現在、トヨタがAI(人工知能)などの基礎研究を行うために設立したTRI(トヨタ・リサーチ・インスティチュート)のクラウドコンピューティング部門を総括している。今年1月、ラスベガスで開催された世界最大級のIT系展示会『CES 2016』で、筆者はカフナー氏と直接話しているが、彼の言葉からはグーグルへの未練はなく、新しい舞台でもっと新しい研究ができることが嬉しいという雰囲気が伝わってきた。
これで自動運転バブルは崩壊するのか!?
正直なところ、日本の自動車メーカーとしては、今回の『グーグル・完全自動運転の開発から事実上の撤退』というニュースを、驚きと同時に、安堵の気持ちを持って聞いたのだと思う。
日本の自動車メーカーは90年代から、先進安全自動車(ASV)の開発を進め、高度交通システム(ITS)という枠組みのなかで、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報など、安全運転を目的とした運転支援技術の開発を進めてきた。その延長線上として、段階的に運転の自動化を進めて「将来的に完全自動運転もあり得る」というスタンスで研究開発の実用化を進めていた。
ところが昨今、「いわゆる自動ブレーキ」など、なんでも自動運転に結びつけるような報道が多く、一般的に自動運転に対する勘違いや思い込みが横行。さらに、グーグルカーの登場によって「いきなり完全自動運転」の量産化が議論されるようになり、日本でも完全自動運転の早期実用化を目指すベンチャー企業が誕生し始めた。
そうしたなか、今回の『グーグル・事実上の撤退』という話が出た。
日本の自動車メーカーとしては、「これで完全自動運転について、世の中全体が冷静な目で見つめ直す機会になれば良い」と思っているに違いない。
[Text:桃田健史]
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