日本にない日本車 トヨタ エティオス ~インドの道で鍛え抜いた!新トヨタ世界戦略の真実~ /桃田健史(2/2)
- 筆者: 桃田 健史
トヨタがインドでカルチャーショック
「エティオス」の開発責任者は2006年の着任以来、数十回、インドを訪れた。さらに、インド国内に日本人の開発チームが常駐し、インド人と寝食を共にして現地事情を探った。
そこで、様々なカルチャーショックを受けた。道路が狭い、駐車場が狭い、路面が悪く大きな石もゴロゴロ、路肩が斜めになっている、運転マナーが悪く渋滞でボディがこすれることが多い、ラクダ/牛/羊などが道で共存している。またモンスーンで洪水が多く、ホコリまじりの霧で視界不良の日も多いなどなど。一方、経済発展著しいインドの首都・デリーなどでは、道路整備が急速に進んでいた。そして、庶民の移動手段は、小型バイクが主流だ。それより少し収入がある人は、マルチスズキの小型車を買うが、定員5名に対して、大人が6、7人乗車も多い。なぜなら、ガソリンが高いからだ。リッター50~60ルピー(約71~86円)だが、これはインドの物価を考えると日本では600円近い感覚だ。
また、トヨタが数百人単位で聞き取り調査したところ、「クルマは壊れるモノ」という感覚がインドでは当たり前。だから「壊れにくくて、仮に壊れてもディーラーでしっかりサービスして欲しい」という声が出た。また、「いつかはセダンが欲しい。お金がなく、ハッチバックで満足しているが、室内が広いセダンに家族皆で乗るのが夢だ」という声が多かった。
こうして、「エティオス」の方向性が定まった。
開発の優先順位は、①価格、②燃費、③広い車内、④デザイン、となった。
車内デザインでは、後席は大人3人がいつも座れるようにフロアはフラットに。視認性と安全性、さらにユニークさと先進性を狙い、インドでは珍しいセンターメーターを採用。
水のペットボトルを常用するインド人のため、500mリットルから1リットルのボトル用に7箇所のホルダーも付けた。また、インドでは「ギンギンに効くエアコン」が好まれるため、エアコン性能を強化。ダッシュボードの吹き出し口から後席へ、積極的に冷気が流れるよう設計した。
さらに、インド特有の事情として、ダッシュボードの一部をフラット形状にした。これは、ガネーシャというヒンズー教の約100種の神々を飾る場所だ。インドのカーディーラーでは、各種神々のお飾りを、ディーラーオプションで販売している。
外観デザインでは、「ザ・セダン」というオーソドックスかつ、上級感を狙った。また、実寸より大きく見えるようなデザイン手法を使った。
こうした企画のもと完成した試作車3台は、インド各地を合計20万km走破した。
そして2010年末、インド南部バンガロールの現地工場で量産開始。初期受注で1万2000台と好調な滑り出し。その人気が今も続いている。
では、「エティオス」、日本に輸入される日は来るのか?
「絶対にない、とは言い切れないが・・・。このクルマ、日本人のイメージだと、昔のパブリカのような感じだ。このままでは、日本の市場性に合わない」(エティオス開発責任者)という。
インドで徹底的に造り込んだ、新興国向け新世界戦略車、「エティオス」。軽自動車、ミニバンに特化する日本には当面、その居場所はなさそうだ。
この記事にコメントする