スズキ MRワゴン Wit 試乗レポート/渡辺陽一郎(2/2)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:オートックワン編集部
指定空気圧は高いが、乗り心地は快適
グレード構成は、Witの投入により、標準ボディにターボを組み合わせたTグレードが省かれた。標準ボディはLグレードとXグレード、WitはノーマルエンジンのLSグレードとXSグレード、ターボのTSグレードという組み合わせだ。試乗したのはノーマルエンジンを搭載する上級のXSグレードであった。
動力性能は、ワゴンRの試乗レポートでお伝えしたワゴンR「20周年記念車」とほぼ同じだ。車両重量はMRワゴンWitが30kgほど重いが、性能に大きな違いはない。発進直後の1500回転付近でも相応の余裕があり、ノーマルエンジンを搭載した背の高い軽自動車では力不足を感じにくい。燃費性能の向上もあって、CVT(無段変速AT)が高効率な回転域を使うべく、速度に先行してエンジン回転を高める特性がある。それでも欠点として指摘するほどの違和感はない。エンジンノイズは小さくないが、音質が耳障りではないために快適性は削がれにくい。
足まわりはワゴンRでいえばスティングレーXと同じタイプ。フロントスタビライザーを装着して、タイヤは14インチ(155/65R14)のダンロップ・エナセーブEC300を履く。
タイヤの指定空気圧は、転がり抵抗を抑えるために前後輪とも280kPaときわめて高い。とはいえ乗り心地は、15インチタイヤを履いたワゴンR「20周年記念車」、あるいは14インチタイヤでフロントスタビライザーを装着しないベーシックなグレードよりも快適だ。ベーシックなグレードに比べると、フロントスタビライザーの装着で走行安定性が底上げされ、ショックアブソーバーの減衰力を少し抑えることができた。指定空気圧が280kPaもあれば柔軟な乗り心地にするのは困難だが、スズキの軽自動車シリーズの中では快適な部類に入る。
スポーティーでも実用指向でもない、セダン感覚で使える軽自動車
以上のようにMRワゴン・Witは、低燃費を追求しながら内外装と運転感覚を上質に仕上げた。
となれば安全装備も充実させたいが、今のところワゴンRに設定された低速域における衝突回避の支援機能「レーダーブレーキサポート」は用意されない。ESP(横滑り防止装置)も同様だ。「レーダーブレーキサポート」の赤外線レーザーセンサーはフロントウインドーの内側に装着され、ウインドーの角度などと調節を図るセッティングが難しい。なので開発に時間を要するのは理解できるが、ESP(横滑り防止装置)と併せて早急に対応して欲しい。
MRワゴンWit・XSの車両価格は139万7550円。標準ボディのXグレードに対して10万3950円高い。Wit・XSにはディスチャージヘッドランプ/フォグランプ/オートライトシステムが装着され、実質的に3万6000円くらいで内外装の質感が高まる計算が成り立つ。雰囲気が一変するので、買い得ともいえるだろう。
となれば、MRワゴンWitが気になるユーザーも少なくないと思う。居住性と積載性の優れた車内の広い軽自動車が欲しいが、ワゴンRやスペーシアでは実用指向が強すぎる。だからといってエアロパーツを備えたスティングレーやカスタムでは、ちょっと子供っぽい。スポーティーでも実用指向でもない、セダン感覚で使える軽自動車を求めるユーザーに、MRワゴンWitは適していると思う。
特に最近は小型車から軽自動車に代替えするユーザーが増えたから、上質なセダン感覚のMRワゴンWitは市場の流れに沿っている。
この時に重視されるのが安全性だ。軽自動車は車幅が狭く、MRワゴンは背が高いから危険回避性能を競えば小型車に比べて不利になるのは否めない。ボディが小さいことも不安を誘う。ESP(横滑り防止装置)やレーダーブレーキサポートの設定は、実際の走行に際しても、また気分的にも、軽自動車に代替えする時の不安を解消してくれるだろう。その意味でもワゴンRと同様の設定が急務だ。
軽自動車の規格を変更して全幅を拡大したり、排気量を増やせば動力性能と走行安定性はバランス良く向上するが、結果的に増税も招いてしまう。日本にはクルマがなければ生活できない地域も多く、軽自動車の増税は日常的な移動手段を奪うことと等しい。規格変更の議論は慎重に行うべきで、現実的には、今の規格の範囲内で優れた軽自動車を造ることが大切になる。
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