THE NEXTALK ~次の世界へ~ 横浜ゴム チーフ・マーケティング・プランナー 伊藤 邦彦 インタビュー(5/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤康彦
山椒は小粒でピリリと辛い
「私、歌がうまいんですよ」と、伊藤邦彦は切り出した。横浜ゴムへの入社も、東京に出れば歌手への道が開けるだろうという、一つの方便であったと語る。だが、いざ横浜ゴムで仕事をはじめてみると「その面白さにハマった」と、話す。
【伊藤邦彦】私は体がこんな風に小さいので、運動も勉強も、平均点では目立たないんです。それは子供のころから思っていました。座右の銘と言えるかどうか…「山椒は小粒でピリリと辛い」ということを、昔から思っていました。
中学1年生のとき、ギターを買って独学でまなび、歌もうたい、中~高校では人気者だったんです(笑)。22歳まで、シンガーソングライターとしてプロフェッショナルになろうと思っていました。
出身が山口なので、東京で就職すれば歌の道に近づけるだろう、チャンスがあるだろうと。ところが、仕事をしてみて、面白くて、のめりこんじゃったんですね。先輩の見よう見真似で商品企画をして、何年かしてヒット商品が生まれると、次はこうしようとか、もっと世の中を知らなければとか、いろいろ欲が出て、ますます面白味がでてくる。
結局、だんだん曲を書くペースも落ちてきて、夢、フェードアウトですかね。
曲は、タイトルが命です。その曲で言いたい詞のフックとなるのがタイトルです。そのタイトルから、失恋の歌だとか、力が漲る歌だとかのイマジネーションが膨らんでいかなければならない。そこは、そういえば、タイヤのネーミングに近いかもしれません。
いまは、「歳とともに、後輩へ託すようにし、方向付けや、総合的に俯瞰して物事を見られるように心がけている」と話す、伊藤邦彦が見る、ADVAN、そしてタイヤの未来とは?
【伊藤邦彦】『ADVANブランド戦略プロジェクト』で、自動車メーカーの標準装着をめざし、まずベントレーのコンチネンタルGTへの装着が決まり、それが大きかった。
自動車メーカーに承認を得ることによる実証性は高いです。その後もポルシェ911カレラ、アウディ、ポルシェカイエンと順調に採用が決まっていったことで、スポーツとプレミアムの両方をADVANが備えるという狙いが形として見えてきたと思います。この先は、クルマの楽しさを盛り上げながら、環境適合性を無視することなく、社会的責任を果たしていくことが企業としての責務だと思っています。
原点回帰とか言うのは簡単ですが、たまにはバーッとガソリンを使って気晴らしをしようみたいな姿勢は、社会的責任を企業として果たせているのかどうか?疑問です。
我々はたとえば、3年連続で米国のパイクスピークのタイムトライアルにEV(電気自動車)で挑戦し、毎年タイムを縮めてきました。また日本EVクラブとは10年以上付き合わせて戴き、あの世界を知っているかいないかで、企画の仕方が変わってくると思っています。
私の中では、ADVANブランドのビジョンにズレはありません。世界で数十人しかいないであろうタイヤ企画マンとして、タイヤで何ができるか?日夜悶々としています。言えることは、ADVANは、ブランドとしてこの先も何十年も生きていってほしいと思っているので、人の心に届く活動をこれからもしていきます。
ADVANは、国内で相変わらず好感度が高く、とくに30~40歳代から支持されているという。そのファンをまず何より大事にしながら、新たなファン層を広げる開拓をしていきたいと目を輝かせる伊藤邦彦である。ただ情報を発信するのではなく、人間味を感じられる新たなコミュニケーションを準備しているという。
山椒は小粒でピリリと辛い、伊藤邦彦は、人の心に迫るタイヤ企画マンであり、クルマ好きの心情を歌いあげるシンガーソングライターでもあるのだと納得した。
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