トヨタ新体制スタート、豊田章男社長就任会見を動画配信

トヨタ自動車株式会社 取締役社長 豊田章男氏

トヨタ自動車の豊田章男社長は、東京都内で就任記者会見を開いた。

会見は東京都江東区のMEGA WEBで開かれ、14年ぶりの創業家出身となる豊田氏は、5人の副社長とともに会見に臨んだ。「どん底からのスタート」と厳しい状況下から業績の立て直しについて語った。

スピーチの様子は、http://www2.toyota.co.jp/jp/about_toyota/message/index.html(※PC用)にて動画配信している。

■豊田章男社長のスピーチ内容。

豊田でございます。本日は、大変お忙しいところ、お集まりいただきまして誠にありがとうございます。

23日の株主総会、またその後の取締役会で、トヨタ自動車の社長に就任いたしました。本日は、私、ならびに新任の副社長からご挨拶を申し上げます。よろしくお願いいたします。

昨年後半以降、世界の自動車産業は大きな困難に直面しております。当社に関しましては、昨年度は4,610億円の営業赤字となりました。また、今期についても昨年度を上回る赤字を見込んでおり、私ども、この新しいチームは、まさに「嵐の中の船出」であると感じております。

トヨタは創業以来、常に「社会のお役に立ちたい」ということを企業の理念としてきました。1935年に豊田佐吉の遺訓として策定された豊田綱領の第一項に「上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙ぐべし」という言葉があります。「いいクルマをつくり、社会に貢献すべし」ということであります。「社会に貢献する」という言葉を噛み砕いて言えば、ひとつは、「クルマづくりを通じて社会のニーズに応え、人々の暮らしを豊かにしていくこと」、そして、もうひとつは、「地域に根ざした企業として、雇用を生み出し、税を納め、地域経済を豊かにすること」だと思います。それが、足下では赤字に陥り、税を納めるという最低限の務めすら果たせない状況です。正直、私は、本当に悔しい思いでいっぱいであります。まさに、ドン底からのスタートとなる訳です。

しかし、振り返れば、70年のトヨタの歴史は、苦難の歴史でもありました。 1950年には、倒産の危機に追い込まれたこともございました。全従業員8100人の、およそ4分の1に相当する2100人が退職を余儀なくされ、社長、副社長らも責任をとって退任しました。しかし、この経験が、今のトヨタを支える「労使関係の出発点」になりました。1970年代には、公害問題やオイルショックが、自動車産業を襲い、また、1980年代には、通商問題や輸出の自主規制という新たな課題を突きつけられましたが、アメリカをはじめ、世界の各地域で生産を立ち上げ、解決してきました。

このように、トヨタは、いくつもの困難を乗り越えてきました。それを可能にしたのは、「お客様第一」「現地現物」のクルマづくりと、時代の変化に合わせ、「技術革新」や「生産性向上」に、全世界の販売店、仕入先を含むトヨタグループが一丸となって、取り組んできたからだと思います。

2003年頃からは、年50万台を上回る、大変な勢いで拡大を続けましたが、世界のお客様のニーズにお応えすべく、ビジネスを拡大すること自体は、決して間違っていなかったと思います。ただ、身の丈を越えた仕事は、そのやり方や働き方などの点で、これまでのトヨタの強みが発揮できていなかったのではないかと思います。

ですから、これからやるべきことは明らかです。 「クルマづくりを通じて地域社会に貢献する」という創業以来の理念を、改めて共有し、トヨタが苦難の時にも大切にしてきた考え方を実践することです。 今後2年ほどは、厳しい状況が続くと思いますが、販売店、仕入先を含むトヨタグループ全員が力を合わせ、お客様や社会としっかり向き合っていけば、必ず「力強いトヨタ」を再度、構築することができると考えております。そして、1期でも早く、利益をあげて、納税できるようにすることが、ドン底からスタートする、私の最初の目標でもあります。

こういった考え方を実践していくための経営の方向性について、お話しさせていただきます。

まず第一に、私が社内に徹底したいことは、「もっといいクルマをつくろうよ」という「ブレない軸」を定め、「商品を軸とした経営」を行うことです。すなわち、「このクルマは何台売るのか、どれくらい利益をだすのか」ではなく、「どのようなクルマなら、この地域で喜んでいただけるのか」「どれくらいの価格であれば、お客様にご満足いただけるのか」ということを考え、クルマづくりを行う経営です。先日発売いたしました新型プリウスから、こうした考え方を取り入れており、その結果、社会にもお客様にも喜んでいただけるものとなりました。

二つ目に考えておりますのは、地域、すなわち、「マーケットに軸足を置いた経営」です。お客様やマーケットを直視し、マーケットの変化を捉え、その現場を熟知した人が迅速に判断する経営です。今回の副社長体制では、こうした考え方から、各副社長は地域の責任者となります。

各地域では、「トヨタの果たすべき役割」や「トヨタがそれぞれの地域でどのような存在を目指すのか」を見定めて、「地域ビジョン」を明確化していきます。そして、トヨタの実力を照らし合わせたうえで、「攻めるべき分野」「退く分野」を見定め、リソーセスを重点配分していきます。それを通して、トヨタの商品開発、商品ラインナップのあり方を、今後は地域中心のものに、大きく、舵をきっていきたいと思います。これまでは、あらゆる地域で、「フルラインナップ」を基本に、商品戦略を考えておりましたが、今後は、地域ごとに「必要十分なラインナップ」に見直していきます。更に、「お客様ニーズを先取りした、新コンセプトのクルマ」もそこに加えていくべきと考えています。

ここで、各地域での「今後の取り組みの方向性」について、少しお話しさせていただきます。

まず、日本国内でありますが、一丸副社長が担当いたします。 新型プリウスは、お蔭様で非常に大きな反響を呼び、5月18日の発売以降、受注台数は20万台と、かつてない水準に達しています。新型プリウスは、ハイブリッド技術を一段と進化させており、お客様から、その技術を、ご評価いただけた結果であると思います。

今回の販売の好調は、政府の経済刺激策である「エコカー減税」や「エコカー買い替え支援策」の効果も大きいものと考えています。エコカーが普及、増加していくことにより、CO2の低減に繋がるのは、もちろんのこと、日本の自動車産業全体が、環境を、より重視した構造へと変化し、それがコアとなって経済が再生していく流れが見えてきております。 こうした施策を迅速にまとめていただいた政府に対しまして、お礼を申し上げるとともに、この流れが、継続されるよう、お願い申し上げたいと存じます。

日本の市場に関しましては、これからは、除軽市場だけではなく含軽市場、新車市場だけではなく新車・中古車市場、をベースにビジネスを考えていくべき、と思っております。この新・中・含軽で見ますと、年間1,200万台の市場がありますが、除軽の新車市場だけを見ますと、足下では、300万台弱となっております。お客様にとって、魅力ある商品をご提供できれば、新車販売を伸ばすチャンスはまだまだあると思います。更には、国内7,500万台の保有台数を考えれば、いろいろなビジネスチャンスがあります。

こうした、新たな視点でビジネスを展開するために、私どもの広告やマーケティング活動も抜本的に見直す必要があります。そのためにマーケティングに特化した新会社を設立することを検討しております。新会社では、専門性と独立性により、機動力を高めるとともに、「お客様を向いた活動」に重点を置き、改革を進めてまいります。将来的には、商品開発部門にもその意見を届け、よりよい商品づくりにも繋げていきたいと考えております。

次に海外市場についてお話しいたします。

まず、北米でありますが、新美副社長が担当いたします。 北米は、現在、市場が急速に縮小していますが、2億5千万台もの保有、あるいは、今後も人口が増加してくることを考えれば、市場はいずれ回復してくると確信しております。 ただ、その時は、これまでのような大型車中心の市場構造とは、中味が変わってくると思います。今後市場の変化をしっかり捉え、慎重に検討していかなければなりません。 とは言え、これまで、海外戦略の柱として、トヨタの成長を支えてきた北米が極めて重要な市場であることには、変わりはありません。その中で「自立化」を一層推進し、これまで以上に現地に根ざし、北米社会の一員として、北米のお客様に喜んでいただけるクルマづくりを行ってまいります。

次に欧州については、佐々木副社長が担当いたします。欧州は、各国のマーケットに根ざした、歴史も実力もある有力メーカーが、多数ひしめき合っています。私は、これからの欧州戦略は、ただ単に、力ずくで台数やシェアを伸ばせばいいということではないと思います。「存在感あるメーカー」として、トヨタの特色を生かしたビジネスを展開していくことが、大切です。トヨタの特色と言えば、やはりハイブリッド技術だと思います。環境規制が強まる中で、「ハイブリッドに徐々に軸足を移していくこと」が、今後のトヨタの立ち位置になっていくものと思います。また、欧州では、クルマが「文化」として、人々の日常生活に溶け込んでいます。その意味でも、トヨタが「クルマ文化を学ぶ場所」として、引き続き重要な地域でもあります。私は、もっとクルマと人の距離感を縮めるために、欧州のような「クルマ文化」を、世界の各地域に、広げたいと願っています。

次に、新興国と称される、中国やアジア、南米などの国や地域については、布野副社長が担当いたします。これらの国や地域は、今後、大きなマーケットに成長するポテンシャルを持っています。特に中国は、もはやアメリカと並び立つ巨大なマーケットになろうとしています。ここでは「正攻法」でお客様に向き合っていかなければなりません。つまり、現地のお客様の視点に立って、お客様ニーズに対応した、競争力ある商品を、タイムリーに投入すること。そして、マーケットの拡大とともに、台数も収益も拡大する。こうしたビジネスモデルを確立していきたいと思います。そのためには、今後、他の地域の既存商品をあてがうだけではなく、その地域のモータリゼーションの波に乗れる良品廉価なクルマづくりが、必要になってくると思います。また、これらの地域においては、IMVと並ぶビジネスの柱が必要だと思います。

以上が、各地域についての取り組みの考え方であります。

次に、商品と技術開発については、内山田副社長が担当いたします。 先ほども申し上げた通り、低燃費などの環境技術は、これからの低炭素社会実現のために、一層、強化していかなければならないと考えております。ハイブリッドもハイブリッド以外のクルマも、環境性能の向上に努めてまいります。しかし、それだけでは十分ではないと、私は考えております。「運転すること自体が、人々の喜びや感動に結びつく技術」、「お客様のニーズを先取りした技術」が、求められていると思います。私としては、「お客様を虜にするクルマ」を開発できるよう、内山田副社長と共に努力していきたいと考えております。

ここまで、経営の基本的な考え方や、地域別の取り組みの考え方、技術開発の考え方などをお話ししてまいりました。1月の記者会見の時に、私は「現場に一番近い社長でありたい」と申し上げました。それは、現場にこそ、企業経営の本質があると考えているからです。その現場を支えているのは、従業員です。私は、従業員の一人ひとりの成長が、会社の競争力に、繋がっていると考えています。トヨタには、会社設立当初より「品質は工程で造り込む」という言葉があります。クルマの品質を、各工程で造り込んでいるのも、一人ひとりの従業員です。従業員と一緒に考え、一緒に成長することが、企業経営の基本であるというのが私の信念です。

私は、トヨタに入社して25年に過ぎません。その間、本当にたくさんの方に、いろいろな形でご指導をいただきましたし、また、応援もいただきました。トヨタが今、こうして事業活動を継続できていますのも、一人ひとりのお客様、販売店、仕入先、トヨタグループの皆様、及び、諸先輩のお蔭であります。この場をお借りし、株主をはじめとする世界中のすべてのステークホルダーの皆様に心より、お礼申し上げます。こうした方々への感謝の気持ちを忘れず、決して、あせらず、力まず、皆で心を合わせて、本日申し上げたようなことをひとつずつ実行していく所存であります。

皆様方には、今後とも、従来にも増して、よろしくご指導、ご鞭撻のほど、お願い申し上げまして、私のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

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筆者
樺田 卓也 (MOTA編集長)
監修者樺田 卓也 (MOTA編集長)

自動車業界歴25年。自動車に関わるリテール営業からサービス・商品企画などに長らく従事。昨今の自動車販売業界に精通し、売れ筋の車について豊富な知識を持つ。車を買う人・車を売る人、双方の視点を柔軟に持つ強力なブレイン。ユーザーにとって価値があるコンテンツ・サービスを提供することをモットーとしている。

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