新型ステップワゴン AIRは「“エアロを外した安いほう”にはしたくなかった」ホンダ デザイナー インタビュー Vol.1
- 筆者: 遠藤 イヅル
- カメラマン:島村 栄二・Honda
トヨタ ノア/ヴォクシー、日産 セレナなどが激戦を繰り広げるMクラスミニバン市場。その一角を担うホンダ ステップワゴンは2022年1月7日(金)、2022年春の正式フルモデルチェンジに先駆け、内外装のデザインが先行公開された。
そこには、コンセプトカーのようにシンプルな新しいステップワゴンの姿が! ボクシーでスクエア、そして力強いデザインがとても新鮮に映ったのだ。
この記事では、新型ステップワゴンのデザイン面にフォーカス。新型ステップワゴンに込められた、ホンダの心意気について、デザイナーインタビューなどを通じて紐解いてみたい。第一回目は、エクステリア担当のデザイナーに話を伺った。
AIRはチャレンジであり、私たちが信じていた路線
「新型ステップワゴンに込めた想い」について、内外装やパッケージングの各担当デザイナーの方々にお聞きしてみた。
まずは、株式会社本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ アシスタントチーフエンジニア 花岡 久和氏に、新型ステップワゴンのエクステリアデザインの話を伺った。
単なる廉価版ではない! 初代モデルが持っていた“シンプルな道具感”を復活させた新型ステップワゴン AIR
MOTA:思い切ってシンプルに振ってきましたね。もっと大きなグリルを、という声はありましたか?
Honda 花岡 久和氏:(以下花岡氏)新型ステップワゴン エアー(以下AIR)は、チャレンジでした。これまでの標準モデルにあった『エアロを外した安い方』という見方を直したかったのです。
シンプルでもチープではなく、むしろ力を入れて作り込みをすれば、きっと、この方向性を喜んでいただける。気に入っていただけるユーザーはたくさんいらっしゃると思いました。
私たちは本来、5代目でも設定していたシンプルな標準モデルの方向性を信じていました。ただ、その路線のこだわり方が足りなかったのかもしれません。
そこで今回は、初代・2代目ステップワゴンが持っていた『乗用車と道具感の両立』というテイストを復活させようと勝負に出ました。原点回帰の新グレードとして、AIRを設定したのです。
ただ、当時とまったく同じ手法ではなく、現代的な手法でアップデートしています。
2つの新しいステップワゴンは、大ヒットした軽「N-BOX」と「N-BOXカスタム」の関係性と似ている!?
MOTA:標準モデルとカスタムがほぼ同率で売れているN-BOXの存在は、意識されましたか?
花岡氏:参考にしましたが、まったく同じ考えではなく、ステップワゴンはステップワゴンに回帰する、という思いで作りました。
ベーシックグレードは手を抜いたチープなもの、という考えは、私たちにはありませんので、N-BOX含め、ベーシックこそ力を入れて開発するのは、ホンダ全体のスタンスです。
そのためベーシックグレードといっても、コストがかかっています(笑)。
初代・2代目ステップワゴンをほうふつとさせる新型、そのきっかけをつくったのが花岡氏だった!
MOTA:シンプルということばは、安いという解釈がされてしまいますものね。ところで、初代・2代目の「シンプルな道具感」は、社内でも再評価されていたということなのでしょうか。ユーザーにはそのイメージが記憶に定着しているのでしょうか。
花岡氏:ズバリ、初代・2代目的で進めたい、と言い出したのは私です(笑)。
次のステップワゴンをどうしようか、ということで鷹栖プルービンググラウンド(北海道にあるホンダの巨大なテストコース)にチームが集まった際、場内の連絡車にボロボロの2代目ステップワゴンが使われていまして。それが、鷹栖の綺麗な景色に置いてみたら格好良くて。
これをオマージュしようかな、ってチームに話をしたら『それはいいかも』という話になりました。
初代・2代目は、FFの空間効率を突き詰めたミニバンで、視界が広く運転もしやすいクルマです。個人的に、Aピラーが寝ているクルマの視界が苦手なので、Aピラーを手前に寄せてみたところ、外観は初代・2代目に自ずと似てきましたね。
MOTA:新型は、ユーザーの思うステップワゴンの「ど真ん中」にあるのかもしれませんね。
花岡氏:はい。新型を一目見て、『懐かしい』という声をお聞きするのですが、それはまさに狙い通りです。
しかし悩ましかったのは、動力性能の高さをこの緩やかなスタンスでどうアピールするかでした。エアロや低重心ではなく視覚的な安定感やしっかり感で、『走りそうなクルマ』、『コーナリング性能が高いクルマ』に見せたかったのです。
そこで、車体を樽型にしてタイヤ周辺の面を引っ込め、ホイールアーチも強めに見せてタイヤの踏ん張り感を出しました。このスタンスで、走行性能の高さをアピールできたと思っています。
デザイン全体も、平板に見えないよう、面の張りを綿密に、大きな曲率の『カタマリ』でチューニングしています。懐かしさと新しさが同居できているのではないでしょうか。
新型ステップワゴン SPADA(スパーダ)は「スーツを着ても乗れる品格のあるクルマ」を目指した
MOTA:新しいSPADAについてはいかがですか?
花岡氏:新型ステップワゴン スパーダ(以下SPADA)はホンダ流の“しっかりしたマスク”にしましたが、スーツを着て乗れるような、品格のあるクルマを目指しました。速そうに見せることも重視しています。
AIRは、カタマリ感を出すために後部に出る線を閉じていますが、SPADAは逆で、ルーフラインを後部に視覚的に延長しています。これにより、速そうに、かつ大きく見えます。
また、AIRではバンパー下部にあるリフレクターを、SPADAではテールランプ内に入れています。それも、こだわったポイントですね。
シンプルなのに印象的! そのデザインには初代ステップワゴンの精神が息づいていた
シンプルなのに新鮮な印象の新型ステップワゴン。そのデザインには初代・2代目ステップワゴンが大きく影響していたことがわかった。
次回のホンダ デザイナー インタビュー Vol.2では、新型ステップワゴンのパッケージング、そしてCMFデザイン担当の各デザイナーに話を伺う。一般にはまだまだ聞きなれない職種だが、開発にあたり重要な役割を果たしているという。こちらもお楽しみに…。
[筆者:遠藤 イヅル/撮影:島村 栄二・Honda]
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