THE NEXTALK ~次の世界へ~ 本田技術研究所 渡邉生 主任研究員 インタビュー(3/5)
- 筆者: 御堀 直嗣
- カメラマン:佐藤康彦
独創にこだわるホンダスピリット
複リンク式高膨張比エンジンの構想は、当時の上司が海外視察から持ち帰った案だった。
【渡邉生】今は汎用研究所のセンター長である元の上司が、出張先のイギリスでロンドンの博物館を見学した際、そこにプロペラ飛行機用の星型エンジン(回転軸を中心にシリンダーが上下左右各方向へ配置されているエンジン:筆者注)が展示されており、主コンロッド(エンジンの回転軸:筆者注)から別にリンクが生えてピストンの上下動を回転に変える仕組みを見て、面白いエンジンができるのではないかとひらめいたそうです。
私が以前、数値解析の仕事をしていたのを知っていて、机上で計算できる人という印象があったからでしょうか、検討してみてくれと声が掛かったのです。
当初は、圧縮比を変えられる手法の一つとして検討してはどうかとの提案でしたが、私は、ピストンのストローク(上下する移動距離:筆者注)を変えられるものにもできるのではないかと思い、ないしょで、両方の技術を試すことができる試作エンジンを作ったのです。
通常のエンジンでは、運転中に、圧縮比も、ピストンのストロークも変化させることはできない。それを、運転中に変えようという仕組みが、複リンク式高膨張比エンジンの回転軸(コンロッド)に仕組まれている。
オットーサイクルとは、4ストロークエンジンの吸入/圧縮/膨張/排気の4つの行程を、理論的に解説したもので、その様子をグラフ化したのをPV線図と言う。その際、金属でできたコンロッドとクランクを使う以上、通常は、吸入/圧縮/膨張/排気の4つの行程で移動するピストンの上下動する距離(ストローク)はみな同じである。それを膨張のときだけ長くしようというカラクリが、複リンク式高膨張比エンジンにはある。
これを現実のエンジンで試したいという渡邉生の好奇心とともに、もう一つ、圧縮比を可変にする機構については、日産自動車でも技術発表を行っており、「同じだとつまらないから」というのが、渡邉が高膨張比にこだわった理由でもある。
ホンダの創業者である本田宗一郎は、人の真似ではなく常に自らのアイディアで開発することを主張し続けた人であった。その精神が、渡邉の心にも宿っていた。
【渡邉生】実はあとでいろいろ調べてみると、複リンク式高膨張比エンジンの基本的なアイディアはアメリカで特許が申請されていました。ですから、ホンダ独自の発想ではありません。ただ、実際に物が作られた形跡は見当たらないんです。
目新しいものについては、よく「どうせダメに決まっている」と、理屈で否定されることが多いですけれど、本田宗一郎の言葉に「やってみもせんで」というのがあります。思っているだけでやってみなければ、できるかできないかわからないじゃないかという意味です。
ですから、この複リンク式高膨張比エンジンの開発も、社内でやらせてもらえたのだと思いますし、そういうところにホンダらしさが表れていると思います。
2001年に開発をはじめ、一年ほどでエンジンを動かし、性能確認をしたところで、実はこの開発は中断している。隣で別の実験ができないほど騒音が大きかったことと、他の商品開発で人手が足りなくなり、手助けに駆り出されたためだった。
だが、渡邉は虎視眈々と再開の機会を狙っていた。2003年に、通常のエンジンを使ったコージェネレーションシステムをホンダは販売し、好評を得た。そこで次への進化が求められたとき、飛躍的に燃費を改善できる可能性を秘めた、複リンク式高膨張比エンジン開発再開のときが来たのであった。
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