国産最新ミドルセダン 徹底比較(2/4)
- 筆者: 岡本 幸一郎
- カメラマン:島村栄二
全てがひとクラス上にグレードアップ
価格がそれほど上昇しなかったのに対し、ボディサイズがひとまわり大きく、2.3Lエンジンの排気量が200㏄拡大して2.5Lとされるなど、確実にグレードアップ。また、見ての通りエクステリアデザインが非常にスタイリッシュかつモダンになった。特に、ボンネットとフェンダーの境目のエッジの立て方や、前後ランプ類の形状など、特徴的である。走り出すと、まず静粛性の高さに気づく。パワートレイン系のノイズも上手く遮音・吸音されており、高速巡航時の風切り音やロードノイズの侵入も小さくなっている。エンジンを4000回転台後半まで回すと、さすがに少しノイジーとなるものの、定常域での静粛性は非常に高い。
全体の走りの印象では、他の2台に比べノーズが軽く、圧倒的に軽快感がある。それは単に搭載エンジンの重量の問題ではなく、狙った方向性の結果であろう。また、ボディ剛性も高く、車両重量を感じさせない。
アクセルやブレーキなども、他の2台に比べナチュラルなフィーリングに仕上がっている。ステアリングフィールは、操舵力が軽い中にしっかりとした接地感があり、今回の3台中でももっとも走りに一体感がある。
欧州仕様と共通の足まわりは、乗り心地に少し固さを感じる面もあるが、欧州で求められるスタビリティを追求すると、こうならざるをえない部分もあるだろうし、けっして乗り心地が悪いというほどではなく、ちょうどよい落としどころだと思う。むしろ、欧州仕様と共通であることを積極的に期待していいと思う。高速巡航時のスタビリティにもまったく不安がない。さすがは欧州メインの車種である。
エンジンは、ピークパワーを落としてでも実用トルクを重視した設定で、非常に乗りやすい。トップエンドでは頭打ち感があるが、低回転域から十分なトルクを発揮し、中速域では伸びやかに加速する。日本車はこれまで、やたらと高回転ハイパワー志向のスペック重視のエンジンが多かったわけだが、本当はこういうエンジンがいいということを教えてくれる味付けといえる。名よりも実を取ったことは見識だろう。
ATの制御も極めてスムーズ。マニュアルモードでは完全にギアをホールドし、低速ギアで引っ張るとそのままレブに当たり、キックダウンも受け付けないという設定となっている。全体として、ひとクラス上のクルマにグレードアップした印象である。
極めて快適でハイクオリティ
北米市場を意識したクルマというのはスタイリングからも明らか。レジェンドの弟分という位置づけながら、ボディサイズはレジェンドを上回るほどとなった。また、SH-AWDの導入など、スポーティセダン寄りに特化した部分のあるレジェンドに比べると、インスパイアこそホンダの上級サルーンの普遍的な姿だと思える。
エクステリアデザインは、躍動感を感じさせるスポーティなものとされた。乗り味は極めて快適で、静粛性も高い、乗り心地もソフトな中に引き締まった感覚がある。レジェンドを含め、ホンダ車はとかくリアが跳ね気味のクルマが多く、インスパイアもその傾向がないわけではないが、あまり気にならない。
3.5LでV6のレギュラーガソリン仕様というエンジンは、それほど性能追求型のユニットというわけではないが、乗ってみるとなかなかの実力の持ち主だ。「3.5L」「280馬力」というフレーズから予想するほど圧倒的なものではないものの、全域で的確にトルクを出してくれる。
むしろ、燃費と動力性能の両立を図ったという新可変シリンダーシステムに注目したい。従来の3気筒燃焼に加え、4気筒燃焼のモードが加わったのだが、相変わらず運転していて切り替わりをまったく感じることはない。違和感らしきものは皆無。加速フィールは極めて滑らかでスムーズだ。
ハンドリングについても、ロールセンターや、サスペンションジオメトリーの設定に大いにこだわって開発したとのことで、その成果は実感できる。快適性とともに、フラットな乗り心地と、スタビリティを実現している。
反面、気になる点もなくはない。せっかくのフットワークがありながら、ステアリングのセンターからの切り始めに一瞬の遊びがあることで、走りの一体感がスポイルされている。また、触れただけでカクンとなるブレーキなど、細かい部分がやや煮詰められていないところが惜しまれる。それらの部分が、もう少し洗練されることに期待したい。
刺激的なドライブフィール
久しぶりに乗ったスカイラインだが、とにかくこのクルマは刺激的である。そして、いつ見ても“華”のあるエクステリアデザインには、北米市場で大ヒットしているというのもうなずける。
四輪アクティブステアリング(以下「4WAS」)は、初期の反応が早すぎるところが難点であり、魅力でもある。
また、電子制御スロットルは、若干踏み始めに開きがある。これら、すでにいわれている通り、やはり過剰演出のきらいがあるのだが、刺激的なドライブフィールは、このクルマを運転することを楽しみにさせてくる側面でもある。VQ35HRエンジンは、従来のVQ35DEに比べると格段に進化しており、重厚かつ盛り上がり感のあるサウンドと吹け上がりが楽しめる。効率を追求し、精巧に仕上げられたことが感じ取れる。
欲をいえば、クーペに搭載されたVQ37VHRの味を知ってしまうと、それを積んで欲しいという期待もしてしまうのだが・・・。
フットワークは、4WAS装着車については、よくも悪くもそれがすべてになっている点はある。このクラスのクルマとしては、非常に俊敏な動きを示す。振動特性にもこだわって開発されたというシャシーだが、実際には4WAS車の後席の乗り心地はけっこう固く、跳ね気味となっているのは否めない。前述の操縦性を実現するためには、やむなしだったのだろうか?
ステアリングは、センターを重めに設定しており、切り込むとレシオがクイックとなるのだが、この点について、スカイラインクーペではずいぶん改善されていた。セダンのほうも正式には伝えられていないものの、ランニングチェンジで変更されたとの情報もあるのだが、今回の取材車両は初期の登録車であり、残念ながら変化は確認できなかった。
デザイン・スペックの総評
車両価格は、スカイラインが380万円あまり、インスパイアが390万円程ということで、アテンザは上級グレードでも100万円以上安い。それはやはり室内の作り込みもそうだが、エンジンをはじめ走ってみた質感においても同じで、いろいろな部分から感じられる。3台の中で、もっとも「乗りたい!」という気にさせるのはスカイラインで、人を乗せるサルーンとして使うのに優れるのがインスパイアで、そつない仕上がりで、断トツでコストパフォーマンスに優れるのがアテンザといえる。
この記事にコメントする