パッソ/キャスト/デミオを徹底比較 ~コンパクトカーと軽自動車の新しい関係性~(4/4)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:茂呂幸正・和田清志
市街地を中心に使うなら走行性能も満足
パッソが搭載するエンジンは、前述のように直列3気筒の1リッター。動力性能が高いとはいえず、巡航中にエンジンが1500回転前後に下がると、3気筒特有の振動も気になる。しかし2000回転を超えると違和感が薄れる。
車両重量は2WDなら910kgに収まるから、市街地を中心にした使い方であれば、パワー不足を感じる機会は少ない。
注意したいのは登坂路で、峠道などでは力不足の印象が強まってノイズも高まる。自宅付近に登坂路があるユーザーは、試乗車で走っておくと安心だ。
プラットフォームが2世代前から共通だから、各部に補強を施して、2WDでは前後の足まわりにスタビライザー(ボディの傾き方を制御する棒状のパーツ)を装着したものの、走行安定性と乗り心地に古さを感じる。
走行安定性は、通常の走行なら不満はないが、危険回避時には後輪の接地性が下がりやすい。そこも視野に入れてステアリングのギヤ比をスローに抑えてバランスを取った。乗り心地も少し硬い。
タイヤは14インチ(165/65R14)で、銘柄はダンロップ・エナセーブEC300。指定空気圧は転がり抵抗を抑えて燃費を向上するために250kPaと高めだ。走行安定性、乗り心地ともに先代型に比べれば向上したが、今後の改善の余地もある。
パッソは先代型がコスト低減を強く意識させる仕上がりだったので、新型ではダイハツが得意な軽自動車の技術を生かし、商品力を高めた。
ただしこれは緊急避難的な商品開発だと思う。実用性は高いが「軽自動車ではなくコンパクトカーを買う価値」を求めると物足りなさを感じる。今後の展開として、燃費の向上には固執せず、操舵感、走行安定性、乗り心地、後席の座り心地など、軽自動車とは違う質の向上に力を入れて欲しい。
その一方で、視界と取りまわし性は優れている。この特徴は日本の道路環境では特にメリットを発揮するので、今後も持ち続けて欲しい。
ターボエンジンは動力性能が高く燃費も満足
キャストの自然吸気エンジンは、少し高回転指向になる。2WDの車両重量は840kgだから全高が1600mm以上の軽自動車では平均的だが、加速時にアクセルペダルを踏み続けると、4900回転付近から速度の上昇が活発化する。通常の走行でこの回転域を使うことは稀なので、もう少し実用域を高めて欲しい。
試乗車で坂道などを走って動力性能の不足を感じたら、最上級グレードになるものの、ターボを備えたGターボSAIIも検討したい。自然吸気の最大トルクは6.1kg-m(5200回転)だが、ターボは9.4kg-m(3200回転)になる。自然吸気の154%に相当する最大トルクを実用回転域で発生するため、加速力はかなり向上する。
その一方でターボのJC08モード燃費は27km/Lだから、自然吸気の30km/Lと比べて90%になる。動力性能の向上に比べて燃費の悪化率は小さい。
走行安定性は全高が1600mmに達する軽自動車では良好だ。カーブに入る時の操舵感は鈍めだが、後輪が踏ん張って安心できる。
注意したいのは乗り心地。キャストスタイルに装着される15インチタイヤ(165/55R15)はダンロップ・エナセーブEC300だが、ダイハツ ムーヴカスタムRSと共通だ。足まわりも硬めの設定で、キャストスタイルの上質な内外装とは印象が異なる。
キャストで走りのバランスが良いのはSUV風のアクティバだ。足まわりが少しソフトで伸縮性が優れ、カーブではボディが大きめに傾くものの、挙動の変化が穏やかだから不安を感じにくい。タイヤサイズの違いもあり(165/60R15)、キャストスタイルよりも快適だ。
それにしてもパッソやデミオとキャストを乗り比べると、軽自動車の優秀性に改めて気付く。後席の足元空間は3車中で最も広く、後席にもスライド機能を備えるなどシートアレンジも多彩だ。走行性能と乗り心地はデミオには太刀打ちできないが、パッソとの差はあまり開かない。価格もコンパクトカー並みだから当然ともいえるが、安全装備まで含めて商品力を高めた。
ドライバー本位の開発で上質な運転感覚を味わう
デミオが搭載する1.3リッターのガソリンエンジンは、動力性能としては平均的だ。それでも最大トルクは12.3kg-m(4000回転)で実用回転域の駆動力に比較的余裕があり、2WDの車両重量は1030kgに収まる。登坂路でも力不足を感じにくく、運転がしやすい。
そしてトランスミッションは無段変速式のCVTではなく6速ATになる。CVTのように融通を利かせて効率の良い回転域を多用することはできないが、メリハリのある運転感覚を味わえて速度の微調節もしやすい。今日のマツダ車の特徴だ。
一方、1.5リッターのクリーンディーゼルターボは、最大トルクが自然吸気のガソリンエンジンでいえば2.2~2.5リッター並みになる。1400回転以下ではトルクが低下するが、ATがこの回転域は使わないように制御するから、ほとんど気にならない。実用域で高いトルクを発揮する運転感覚には、独特の楽しさもある。
もっとも、このあたりは好みによるだろう。ディーゼルではノイズや振動が少なく吹き上がりも良いが、ガソリンエンジンしか知らないドライバーが運転すれば、違和感が生じることも考えられる。
それでもこのサイズでディーゼルが手に入り、6速MTも選べるのだから、好きな人には唯一の選択にもなり得る。
操舵に対する反応も正確で気分が良い。また正確に反応すると、ラフな操作をすれば車両の挙動に現われるから、自然に滑らかな運転をするようになる。
プラットフォームの造りも入念で、乗り心地は基本的には硬めながら、タイヤの接地性が高いために粗さが生じにくい。走行安定性も優れ、ディーゼルの車両重量はガソリンに比べて70kgほど重いが、旋回時に違和感を抱くことはない。
曲がっている最中に路面の段差を乗り越えた時でも不快なショックが伝わりにくく、走りの質を総合的に高めた。
とはいえマツダとほかの日本車メーカーの間に、技術的な格差があるとは考えにくい。デミオの走りが現行型で大幅に向上した背景にあるのは、スカイアクティブ技術を中核に据えた明確な商品戦略と、開発力の集中によるものだろう。他メーカーも、取り組み方次第ではデミオと同水準の運転感覚を実現できる。
それにしてもコンパクトカーは奥が深い。パッソは低燃費と低価格で経済性が優れ、空間効率も高めて実用性を追求した。デミオはドライバー本位の造りで、上質な運転感覚を特徴とする。
このほか機能のバランスが優れたホンダ フィット、ハイブリッド専用車のトヨタ アクアもあり、2016年の後半にはスズキ スイフトがフルモデルチェンジしそうだ。軽自動車に押され気味のコンパクトカーだが、これからますます楽しい車種が登場するのを期待したい。
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