アウディ TTクーペ 試乗レポート

アウディ TTクーペ 試乗レポート
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マニュアル・トランスミッションの革命児---『DSG』

フロントスタイリングリアスタイリング

一見すると普通のTTクーペ。が、実はその中身はちょっとばかり凄い――そんなキャラクターの持ち主が3・2クワトロSラインだ。エンジンにはTTシリーズ初となる6気筒ユニットを採用。そしてトランスミッションはいわゆる2ペダル方式の6速MTを搭載する。ただし、このロボット化されたMTはライバル車の同種のシステムに対して大きなアドバンテージをアピール。アウディが『DSG』(ダイレクト・シフト・キアボックス)と呼ぶこのトランスミッションは、2つのマルチプレート・クラッチを制御することで同時に噛合わされている2組のギアの間を巧みにシフト。これによって、従来のロボタイズMTでは避けることの出来なかったシフト時のパワーフローの途切れを完全に解消させたことが、他のモデルには類を見ないセールスポイントだからだ。

衰えは感じないデザインと上級グレードならではの装備

インパネタイヤ&アルミホイール

シリーズ最大の18インチのシューズを履き、例の特徴的なエクステリア・デザインに一層磨きがかけられたそんな3・2クワトロSラインに早速乗り込む。インテリアのデザインも相変らず個性的。デビュー後4年という今になっても世界の多くのメーカーに衝撃を与えたその斬新なイメージに、全く衰えは感じない。

本革巻きのステアリングホイールにパドルシフターが付くのは、このグレードならではの特徴。BOSE社製のサウンドシステムも、このグレードだけのオプションということになる。

Dレンジの加速フィールはCVT車のそれに近い

エンジンエンブレム

スタートの瞬間にググッと来る力強さは、さすがにこれまでの1・8リッターのTTクーペとは大違いだ。そして、そのままアクセルペダルを踏み加えて行くと、あれよあれよという間にとんでもないスピードにまで達してしまう。Dレンジを選んでいると、その加速フィールはCVT車のそれに近い。すなわち、機構的には6速MTでありながら通常のトルコンAT以上にシームレスな加速を実現させるのが『DSG』。それでいて、アクセルの踏み込みに対して即座に背中を押す加速のシャープさはMTの特長をしっかり踏襲する。トルコンスリップが存在しないから当然燃費性能もMTと同等なわけだ。こうした特徴と共にタコメーターの針の動きを目にしていないといつ変速動作が行われたかにも気付かないほどのどこまでもスムーズで完成度の高いシフト感覚も、正直ぼくにとってちょっとした驚きであった。

AT以上にシームレス---驚きの変速動作

シート試乗

『DSG』ならではのポテンシャルの高さは、ドライバー自らが変速操作を行う積極的なドライビング・シーンでも印象に残るものだった。とにかくATレバー、もしくはシフトパドルを用いてのドライバーの入力に対する実際の変速動作が極めて素早く行われる事に驚く。そもそも、すでに次のギアは組み合わさっていてクラッチを切り替えるだけなのだから、構造的にはそれは当然ではあるのだが…。ただし、そんなこのメカニズムの構造ゆえの弱点もある。例えば1速から3速、4速から2速へと言った“1速飛ばし”のシフトを行いたい場合はそれなりの「待ち時間」が必要になるのがその一例。また、余りに滑らかで節度感の少ないシフトが行われるため、これまでのMTのフィーリングに慣れた人の場合には少々物足りなさを感じる場面もありそうというのも、『DSG』ならではの贅沢な悩みという事になるかも知れない。それにしても、AT以上にシームレスな息の長い加速感を実現させる『DSG』は、久々に現れたマニュアル・トランスミッションの革命児という印象。もっともアウディに言わせると、「それは別に目新しいものではない」とのこと。実はこのメカニズムは、1985年のラリーマシン『スポーツ・クワトロS1』に初搭載されたものに端を発しているというからである。

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河村 康彦
筆者河村 康彦

1960年東京生まれ。工学院大学機械工学科卒。モーターファン(三栄書房)の編集者を経て、1985年よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動を開始し、現在に至る。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー選考委員 などを歴任。記事一覧を見る

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