マツダ 新型ビアンテ GRANZ-SKYACTIV 試乗レポート/渡辺陽一郎(3/3)
- 筆者: 渡辺 陽一郎
- カメラマン:オートックワン編集部
安易に融通を利かせないビアンテ
試乗すると「やはりマツダ車」と思った。速度が上昇して市街地で巡航状態に入ると、時速50~60kmでエンジン回転は1400~1600回転くらいに落ち着く。この状態で緩く加速すべくアクセルを少し踏み増すと、車両の反応が鈍い。
普通のミニバンはATが無段変速のCVTだから、適度に変速して車速をジンワリ上昇させたり、トルクコンバーターを生かして加速させる。シフトダウンする車種もある。この点だけを見ればビアンテは劣るように受け取られるが、ダイレクト感を重視する立場で見れば、むしろ好ましい。
というのも前述のCVTは、確かにアクセルを少し開いた時の融通は利くが、エンジン回転と車速の関係は一致しなくなる。エンジン回転が先行して高まり、その後で車速が追いかけるズレが生じる。トルクコンバーターを活用した場合もこれに近い。ビアンテでは、最初は少し違和感を覚えるが、慣れると扱いやすい。アクセル操作と車速の関係が常に一定に保たれるからだ。
CVTとどちらが良いかは好みの問題。車速が簡単に高まった方が扱いやすいという見方もあり、そこがCVTのメリットでもあるが、「ドライバーの速度管理」に重点をおくと安易に融通を利かせないビアンテになる。
ここはマニアックなところ。エンジンとATの作動をイメージしながら運転するユーザーに焦点を合わせたようだ。
ただしこの設定には、車両重量に対する実用回転域の駆動力(主にトルク)という点で、一定以上の余裕が求められる。ビアンテの最大トルクは前述のように19.4kg-m(4100回転)だが、車両重量は1660kgと重い。少なくとも23kg-mの最大トルクは欲しい。マツダの考え方は良く分かるが、このボディではトルクが少し不足している。
とはいえ、ATレバーやステアリングのシフトスイッチで意図的にシフトダウンを行い、回転数を高めれば問題はない。2500~3500回転付近になれば、相応のゆとりも生じて滑らかに走る。フルにアクセルを踏み込めば、初期段階ではトルクコンバーターを活用するが、比較的早い段階でATのロックアップが作動。4200回転付近からの速度上昇も活発で、6000回転付近までスムーズに吹き上がる。
走行中の変速ショックも抑えられ、快適に移動することが可能だ。
マツダらしいこだわりが感じられるクルマ
タイヤサイズは前述の16インチ(205/60R16)で、試乗車の銘柄はダンロップ・スポーツ230だった。指定空気圧は220kPaだから、転がり抵抗の軽減を目的に過度に高めることはしていない。
なので乗り心地は適度に柔軟で、走行安定性のバランスも良い。高重心のミニバンとあって操舵感は機敏ではないが、後輪の接地性を高める目的で鈍く抑えた設定でもない。自然に曲がり、後輪も相応に踏ん張る。
試乗したのはスポーティーなGRANZ-SKYACTIVだが、見栄えを重視した17インチタイヤを履かず、16インチに抑えたことも奏効している。
それにしても、ミニバンでありながら、ビアンテにはマツダらしいこだわりが濃厚に感じられる。
運転感覚もそうだが、3列目シートの畳み方も独特。荷室の奥行に余裕を持たせて自転車などを積みやすくした左右跳ね上げ式ではなく、座面だけを持ち上げて前に寄せる方式だ。
荷物の積載性は下がるが、座面のボリューム不足には陥りにくい。座面の奥行が20~30mm不足するのが惜しまれるが、おおむね快適に座れる。3列目をこの畳み方にした結果、2列目を大きく後退させ、車内の中央を荷室として使うことも可能になった。
ビアンテは、こだわりが強いために一般性は乏しい。
今後も大量な販売は見込めないが、運転の上手なマツダファンにはピッタリだ。試乗すれば、ほかのミニバンに比べて、ドライバーが走りを管理しやすいことに気付くだろう。
「不可能を可能にする」内外装のデザインを含め、ミニバンでありながら、「マツダファンの俺でなければ理解できないクルマ」というプライドも持てそうだ。
日本のクルマ好きとして、こういう生真面目な車種とメーカーが存在することは、素直に嬉しい。
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