スズキ スイフトスポーツ 試乗レポート

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もう“軽”のメーカーとは呼ばせない!――入魂の一台

一見をすると「何でも揃っている」かのようにも思える日本の自動車ラインナップ。そんな中で、実はポカンと空いてしまっていたのが『コンパクト・スポーツ』というカテゴリーに入るクルマたちだ。特に、「MT仕様も用意をされている事」とそこに条件を付け加えると、いよいよそれは壊滅状態。このあたりが「ATでなければクルマは売れない」と調査結果が得られたとなると、全員がそれを見て“右へ倣え”となってしまうマスプロダクションというシステムの弊害なわけで…。

が、「売れるクルマは広さが売りのミニバンと、安さが売りのコンパクトカー」というそんな何ともツマラナイ(?)この国のマーケティングの結果に背を向けて一石を投じてくれる事になったのが、このスイフト・スポーツという一台。「モータースポーツ用のベース車両というわけではなく、あくまでも一般の皆さんに走りを楽しんで貰うために開発した」と、何とも嬉しい事を開発の責任者が語ってくれるのがこのモデルでもある。

ヨーロッパの地でも精彩を放つ抜群のスタイリング

競合ひしめくヨーロッパの地に持って行ったとしても、決してヒケをとらないどころかますます精彩を放つスタイリングの持ち主である新型スイフト。スイフト・スポーツのエクステリアはそんな5ドアのボディ自体はそのままに、前後のバンパーや各種の空力パーツ、そして16インチのシューズなどで軽くドレスアップを決めたものという事になる。

というわけでそのルックスの実際だが、これがなかなかにカッコ良い。前述のようにボディそのものには手は加えられていないのだが、張り出し量が増えた前後のバンパーにも“後づけ”感は漂わないし、走行抵抗の風きり音の低減を狙ってわざわざ小型化が図られたというドアミラー・デザインとボディサイズのバランスも、確かに標準車以上の印象。決して高価なモデルではないのに安物感が伴わないのは、例えばマフラー下をはじめとする床下部分に、醜い凹凸の“臓物”が見えてしまったりしないからでもある。インテリアの質感も、やはり“標準車”同様に上々の仕上がり。ただし、赤と黒という派手な2トーンのシート柄にだけは「ちょっとだけやり過ぎかナ?」という思いも脳裏をかすめたりするものではあるが・・・・・・。

自らの意思に自在に走ってくれるクルマ

しかし、なかなか小生意気(?)に決まったエクステリアのデザインや、目にも鮮やかな2トーンのシート柄などよりも、さらに目を見張る事になったのは実は走りの実力の高さだった。その仕上がり具合は予想をしていたよりも遥かに上というレベル。加速の能力が飛び切り高い、あるいはコーナリング・スピードがことさらに速い・・・といったわけではないのだが、とにかく自らの意思に自在に走ってくれる感覚というのがすこぶる色濃いのがこのクルマの特長なのである。

新開発の1・6リッター・エンジンは、5000rpm以上で活発さが一段増しになるという高回転好みの設定。車両重量が1トン台と比較的軽い事もあり「強烈とは言えないがまずまず強力」とその程度の絶対加速感を味わわせてくれる。ただし、そんなエンジン特性を生かすためにはMTは現状の5速ではなく、絶対にクロスレシオの6速仕様が欲しいところ。ちなみに、このスイフト・スポーツには4速AT仕様も設定をされているが・・・・・・個人的には前述のエンジン特性を生かす意味からも「オススメは絶対にMT車」と報告をしたい。

わずかに惜しかったのは電動パワーによるアシストが与えられたステアリングのフィール。ゆっくりとした操舵であればほとんど気にならないが、速い動きでは慣性力の大きさが気になるレベル。据えぎり状態でアシストトルクの不足を露呈する場面があるのも、今後の改善点であると要望を出したい。

スイフト本来の“実用車としての性能”が一切犠牲になっていない

こうして、その走りの鮮烈さがまずはアピールポイントとなるスイフト・スポーツではあるが、そうしたキャラクターを演じるためにスイフト本来の“実用車としての性能”が一切犠牲になっていない事も是非付け加えておきたいポイントだ。

そのしなやかな乗り味は、それをフロントヘビーのFF車である事を忘れさせるほどのキビキビとしたコーナリング感覚と両立させている事がちょっとしたマジックと思えるくらい。シートバックを前倒しし、さらにそれをクッション部ごと前方に跳ね上げる事で広大なラゲッジスペースを捻出、というリアシートのアレンジ機能ももちろん標準車から踏襲している。静粛性も「期待値以上」というレベル。路面が荒れるとロードノイズの高まりがやや目立ち気味という傾向はあるが、それを除けば「世界のこのクラスのモデルの中でもトップレベルでは」と思えるほどの静かさを、このクルマは実現させているのである。

どこをとってもそんな高い実力を示すこうしたクルマが“わずかに”160万円そこそこで手に入るとなると、これは世界のライバルメーカーも大いに頭が痛いはず。もう“軽”のメーカーとは呼ばせない! ――そんな気迫すらを感じさせる入魂の一台が、このスイフト・スポーツだと断言出来る。

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河村 康彦
筆者河村 康彦

1960年東京生まれ。工学院大学機械工学科卒。モーターファン(三栄書房)の編集者を経て、1985年よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動を開始し、現在に至る。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー選考委員 などを歴任。記事一覧を見る

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