ロールス・ロイスと結城紬、クラフトマンシップが紡いできた「至高」のマリアージュ(1/2)
- 筆者: 中込 健太郎
- カメラマン:中込 健太郎/奥順株式会社
ロールス・ロイス×本場結城紬「至高を味わう旅」が開催
茨城県結城市、利根川を越えて関東平野を北に走ると、今も往時の繁栄を伝える古い町並みが広がる。このあたりでは古くから織物づくりが盛んで、国の重要無形文化財でもある結城紬(ゆうきつむぎ)の歴史の始まりは今から2000年前にさかのぼるのだとか。
そんな本場結城紬の伝統の技と、惜しみないこだわり、それが織りなす最高の風合いを今も伝えるのが今年創業111年目の奥順株式会社だ。
そしてその2者の魅力を今までにない形で世界に発信しようと開催されたのがこの「至高を味わう旅」である。永年結城紬の製造卸問屋として培ってきた想いの込められた、結城紬の総合施設「つむぎの館」の庭園に、ロールス・ロイスファントムが持ち込まれ、それぞれが歩んできた道、こだわり、共通点に存分に迫るひと時となった。
4月14日の招待日、15日の一般公開日に先駆けて4月13日、プレス向けの内覧会が催された。うららかな春の陽気のもと、和やかに会は始まった。
粋であること。贅沢であること。
開会のあいさつで、奥順株式会社の4代目当主となる代表取締社長、奥澤武治氏は「手作りだからこそ響き合うものがある」と話した。とかく効率を重んじられる世の中にあって、手作りであることの価値の重要性は不朽であるという。
さっそく結城紬の魅力について、ファントムの横にある陳列館で、様々な反物を見せていただきながらお話を聞いた。
結城紬は糸をつむぐところからその工程は始まる。手で細く糸を紡ぎ、一反を織り上げるために必要な糸を準備するのに数か月かかることも珍しくないという。そのあとで先に柄に合わせて糸に色を入れていく。出来上がると小さな亀甲模様が反物に点描のように現れ、しかしよく見ると一つ一つ亀の甲で描かれているその柄こそ結城紬の真骨頂ということができ、独特の柔らかい雰囲気を醸し出す。反物の幅にどれだけの亀甲が入るかで80亀甲、200亀甲などあり、当然小さくなればなるほどその仕事は細かいものになり、高い技術と手間を要する。
ところで、結城紬、その軽い着心地は、柔らかく、冬でも暖かい。今でも雪が積もることはまれだというが、北関東で古くから伝わる織物は、産地の気候あってのものである。こうした点も伝統工芸ならでは。風土と機能が結びついている。また、細い糸で織られる紬は、伸縮性もあり、その軽さからは想像できないほどの丈夫さも併せ持つ、実用性もあるのだ。
必要なのは、本当の価値。
しかしそういう昔から、日常的に目にすることのできるものでありながら、そこに惜しみない手間をかけ、仰々しくない柄を、それこそ今で言えば染色やプリントでできてしまうような模様よりももっと細かい模様を織り込むことで構成する。わかる人にはわかり、見る人が見ると括目する価値を織り込む結城紬。こんなに贅沢なことはないのではないだろうか。
「古来からあった、粋とはそういうものなのかもしれません。ちなみにそれぞれの工程は、ミスが許されませんし、複数の職人で織り上げることのできない工程もあります。合理化が不可能な技術なのです。」と教えてくださった。
ITのシステム構築などは人月(にんげつ:1人が一か月で出来る工数を表す単位)という考え方があるが、まさにその対極の世界。絶対に一つの工程に携われる人数は決まっていて、それで時間は「完成するまで」かかるのだ。短くても数か月。長いものでは数年から数十年という歳月を要すこともあるのだそうだ。しかもミスの許されない作業。
目を庭に移すと、そこにはロールス・ロイス ファントムが鎮座するわけだが、一枚でそれよりもはるかに高価な価格の反物なども並ぶ。「反物の値段として比較をすると確かに高いと言われてしまうかもしれませんが、反物を見て、その成り立ちを考えると、必ずしも高いとも言えないのかもしれませんね。」と案内してくださった方は話す。
そしてやはりそういうものは、本当に価値が分かり、しかも、購入できるゆとりのあることが求められるので、結城紬を長年専門に製造販売している奥順でも、そうそう頻繁に売れるものではないのだという。在庫しているお店も、これを手にするお客様も、「誇り」であり「格」である。あるべきところにあるだけという話なのかもしれない。
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