ポルシェ 911タルガ 試乗レポート
- 筆者: 河村 康彦
- カメラマン:原田淳
とことんゴージャスで付加価値観に溢れた911
イタリア最古の自動車競技とも称される往年のロードレース“タルガ・フローリオ”。言うまでもなく『911タルガ』という名称はそこに由来をしたものだ。
古くからポルシェにとって最大の市場であったアメリカで高まる安全性への要求に対し、着脱式のルーフトップを採用する事でオープンエア・モータリングならではの開放感とクーペに匹敵する強靭なボディを両立させたそんなネーミングのモデルが初めて姿を見せたのは1965年のフランクフルト・モーターショーの場。以来すでに40年余。1996年にデビューのいわゆる993型からは、ガラス製のルーフトップ部分をインナースライド式としてリアウインドウ内側へと格納する新たな構造を採用。911シリーズ唯一の開閉式ガラスハッチを備える事もならではの大きな特徴となっている。
日本に上陸したばかりの最新モデル=997型では歴代モデルとしては初めて4WDシステムを標準採用。そこには、ガラスルーフを閉じた際の優れた耐候性を武器に、冬の気候が厳しい地域にも積極的な売り込みを掛けようというポルシェの戦略も読み取れる。
「タルガである事」をアピールする要素
『タルガ4/タルガ4S』というグレード名が示す通り、このモデルのベースは後輪駆動モデルに対しよりワイドなボディを採用する4輪駆動のカレラ4シリーズ。
フロントビューではそんなベースモデルとの目立った違いは認められないものの、リアビューはウインドウからルーフにかけての部分が連続したガラス面で構成されるという独特なデザインで見分けが可能だ。さらにサイドビューで目を引くのが、ルーフラインに沿ってサイドのウインドウ・グラフィックを強調するアルミニウム製モールの存在。いかにも上質な光沢を放つこのアイテムは、かなりの遠くからも「タルガである事」を明確にアピールする。
一方、インテリアのデザインはクーペと完全に同様。それでも、日中であれば「通常のサンルーフに対しておよそ2倍の面積を実現」という大きさの開口部を備えるガラスルーフから差し込む光で、圧倒的に明るいキャビンはクーペのそれとはまた異なる雰囲気を味わわせてくれる。ポルシェ車の例に漏れずインテリアのカラーやドレスアップ・アイテムも多彩に用意。このクルマの場合、「外から見られる事」を意識して好みのインテリアに仕立てて行くのもまた楽しみとなりそうだ。
“空気との触れ合い”を楽しむ魅力
センターコンソール上のスイッチを操作すると、ガラス製ルーフトップは約7秒でフルオープン状態に。もちろん、カブリオレほどの開放感を得る事は不可能だが、それでも外気の動きを直接感じる事が出来るのはクーペには真似の出来ないポイントだ。
100km/前後の速度に達しても不快な風の巻き込みは皆無だから、好みとあらば雨が降らない限り“空気との触れ合い”を楽しむにも抵抗はない。ただし、オープン時にはティンテッドガラス2枚を通す事になるルームミラー越しの後方視界が、クリア度の大きく損なわれたものとなってしまうのは残念。電動開閉式のルーフ・スクリーンがメッシュタイプのため、それを使用しても夏場の暑さが心配、という声も上がるかも知れない。
走りのテイストは基本的に同エンジンを搭載するカレラ4シリーズのそれと同様。ただし、それでもシビアに比較をすればコーナリング中にうねり路面に差し掛かった際のロール感にはやはり「多少なりとも頭部が重い感じ」があるし、ボディ剛性感もわずかながらも低下をした印象がある事もまた確かだ。
ちょっとカジュアルな気持ちで楽しんでみたい
歴史と伝統に育まれてきたピュアなスポーツカーであるポルシェ911元来の魅力に加え、見ても乗ってもさらなる“プラスα”のプレミアム感が欲しい――最新のタルガ4シリーズはそうした欲張りなポルシェ・ファンの欲求を満たすべく開発された、とことんゴージャスで付加価値観に溢れた911。オリジナルのクーペに対して“これみよがし”に手を加えたという形跡は感じさせない一方で、どこをとってもオーナーの満足感をさらにくすぐるそうしたテクニックが満載されているのがこのモデルでもある。
前述のように、理詰めで走りのポテンシャルを追ってみれば、そこでは「クーペ・ボディのカレラ4シリーズの方が上」とすぐに結論が出せるのがこのクルマ。しかし、それは敢えてサーキットに持ち込んだりワインディング・ロードをホットに走り回ったりしなければ姿を現さない程度の差でもある。ちょっとカジュアルな気持ちで911というクルマを楽しんでみたい――そもそもそうしたユーザーに向けてリリースされたのが最新のタルガ4シリーズなのだ。
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