狭いし燃費や乗り心地も悪い! ネガだらけのはずのスズキ ジムニーはなぜ人気なのか
- 筆者: 岡本 幸一郎
- カメラマン:MOTA編集部
スズキ ジムニーとジムニーシエラの人気は依然として高い。だが両者は車内は狭く、燃費も悪い。さらに購入から納車までの期間も早くとも1年程度と依然として長い傾向にあるなど、購入者にとってはネガティブな要素が多数存在する。にもかかわらず、人気を維持し続けている理由はどこにあるのだろうか!?
納期は1年以上かかっている!
スズキ ジムニーとジムニーシエラ(※以下「シエラ」)の人気がえらいことになっている。2018年7月の現行型の発表時に報じられた年間(月間ではない)の国内販売目標台数は、ジムニーが1万5000台、シエラが1200台とされたが、フタを開けてみれば実際の売れ行きはぜんぜんそれどころではなかった。
発売直後から予想をはるかに超える受注と納期に時間を要することがたびたび報じられ、一時は3年待ちとも。フルカウントとなる2019年と2020年の年間販売台数は、ジムニーが3万281台と3万8056台、シエラ(自販連の統計では「ジムニーワゴン」と表記)はもっとすごくて1万827台と1万6603台で、いずれも2021年もその勢いはとどまらない。
納期については、2021年8月の時点で1年以上かかっている模様で、シエラのほうがだいぶ長く、都市部よりも地方のほうがやや長く、ツートーン仕様のほうが長くかかる傾向にあるらしい。
いずれにしても人気が高いことには違いなく、あまりのバックオーダーに対して増産体制が整えられ、いくぶん納期が短縮されたのだが、ほどなくコロナ禍による生産停止や半導体不足、リコールへの対応、工場での生産調整などにより再び納期が遅延しているようだ。
ジムニー人気最大の理由はデザイン
それにしても、なぜこれほどまでにジムニーは人気が出たのだろうか。冷静に考えると、ドアは2枚しかなくて後席や荷室は狭く、乗り心地も従来と比べるとよくなったとはいえ快適とはいえず、エンジンやハンドリングも走って楽しいわけでもないし、燃費もよくない。
その上さらにお伝えしたとおり納期が遅いのだから、ぶっちゃけネガな要素だらけだ。そんなことはなんのそのとばかりに人気を博している理由を考えてみたい。
ジムニーならではのデザイン性が魅力!
最大の要因は、やはりデザインだ。歴代ジムニーが持つ“本物感”を受け継いだ武骨さと、現代的なカジュアルな雰囲気を兼ね備えた容姿と、それを巧みに演出する充実したボディカラーの設定が効いている。理屈を抜きにして、とにかくより多くの人に、目にしただけで「欲しい!」「乗ってみたい!」と思わせる強力な力を持っているといえよう。
ジムニーは軽自動車であり敷居が低いことも大きい。スズキとしても税制等の面で有利な軽自動車のジムニーが圧倒的に売れると予想し、目標台数を設定して日本向けの生産枠を確保したわけで、数としてはやはりジムニーのほうが売れているわけだが、見込みに対して「想定外」に売れているのはシエラのほうだ。
それは実車を見比べると納得の思い。軽自動車のジムニーに興味を持ち、ジムニーを買うつもりで販売店に見に行ったものの、より見栄えするシエラに心奪われ、価格や維持費の差には目をつぶり、やっぱりシエラを買おうというはこびになった人も少なくないはずだ。
現行型の特徴として、従来型に比べて若いユーザーが増えていて、さらには女性ユーザーが増加する傾向にあることが挙げられる。暦年(1月~12月)で従来型の最終年となる2017年と、現行型で最新の2020年を比べてみると、20~30代の若年層の比率はいずれも約2割と大きな変化は見られなかったが、販売台数自体が大幅に伸びているので、若年ユーザーの「数」としては増加している。
また、女性ユーザーの比率が2017年には2割弱だったところ、2020年には3割強と倍増近くになっている。巷では「ジムニー女子」という言葉も生まれたぐらい。現行型が若者と女性を惹きつけていることは間違いない。いまどきの女子にとっては、これが「カワイイ!」のだ。
格下感のない唯一無二の軽がウケている
ジムニーは軽自動車だけど格下感もなく、シエラともども、いわゆるクルマ界のヒエラルキーに捉われないところもよい。購入する側の心理としては、普通のSUVなんてつまらないからジムニーやシエラを選んでやるという、ちょっとしたヒエラルキーへのアンチテーゼの気持ちもあるだろう。
むろん4枚ドアや広い荷室が必要な人は、最初からジムニーは俎上に乗らないだろうが、それでもリヤシートを倒せば2人なら車中泊できるぐらいのスペースができる上に、クルマを使ったアクティビティに応えるオプションも多彩に用意されている。このクルマが手元にあれば、どこへでも行けて楽しいことができそうな気分になれて、実際そうした使い方にはもってこいだ。ドライバビリティについても他と比べずこのクルマだけ乗っていれば、これで普通だと思えてネガな部分もあまり気にならないだろう、おそらく。
快適装備や先進安全装備のたぐいが一気にアップデートされたのも大歓迎。あとはリセールバリューの高さも、それを当て込んで買う人は比率としてはそう多くはないとは思うが、知っていれば購入検討者にとっては背中を押される気持ちになれることにはいうまでもなし。さらには、歴代ジムニーと同じく、おそらく現行型も当面はモデルチェンジせず、それなりに現役期間は長いだろうから、クルマが古くならないというのもありがたい。
「ジムニー」がひとつのブランドとして確立している
いろいろ考えているうちに、ジムニーはもはやひとつのブランドと化している気がしてきた。知らない人だってほとんどいないだろう。実のところ従来型だって国内と海外でそれぞれ年間約1万5000台、グローバルで約3万台が20年近くコンスタントに売れ続けていたそうだ。そこに商品性をグンと高めた現行型のような魅力的なクルマが出てきたのだから、現行型の販売台数は、それほど驚くべきものではなく、むしろ妥当といってよさそうだ。
【筆者:岡本幸一郎】
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