マツダ デザイン本部長 前田育男 インタビュー(3/3)
- 筆者: 森口 将之
- カメラマン:オートックワン編集部
デザインがいい国は、ドイツ、イタリア、日本と言ってもらえるように…
AO:日本人のデザイナーの良い部分、悪い部分はどこですか。
M:粘り強いのは良いところなんですけど、最近弱いなあと思うのは、執念みたいなところですね。美しさを作るためには、執念を持って、手段を択ばないくらいの迫力で戦わないと、緊張感が生まれてこない。そういうストイックな部分が足らない感じがします。
たとえば韓国は、デザインでトップになると掲げていますよね。心構えが違うんですね。日本はデザインで一番になろうと余り誰も思っていませんよね。例えば、政治でデザインの振興について言及する場面は少ないと思います。それも原因のひとつだと思います。
日本はプロダクトで頑張らなきゃいけないのに、デザインを最重視しないで戦いに負け苦しんでいる。機能的な優位性だけじゃ戦えない時代です。個人的には、世界でデザインがいい国はと聞かれたときに、ドイツ、イタリア、日本と言ってもらえるように努力したいですし、できると思っているんですが。
AO:ドイツとイタリアの優れた部分はどこなのでしょう。
M:ドイツは空港を降り立った瞬間からデザインを感じますよね。国民全員がバウハウスの支配下にあるような印象を持っています。美に対する意識の高さは圧倒的です。ドイツ人はファッションセンスが抜群だとは思いません。なのにあれだけ整理された美が作れるのは、意識の問題だと思います。
イタリア人はデザインを意識していません。天性のセンスがありますから。イタリアとはこうあるべきかなど、考えていないんです。ただ美しいものは美しいと、鼻が利くんでしょう。そこはすごく強いんですよ。
彼らに追いつくには、目標を鮮明にして、デザインで世界と戦っていくんだという姿勢を持たないといけないと思います。そして、日本の美意識を研ぎ澄ます。日本にはそれだけの文化があります。多くの匠が素晴らしいアートワークを創り上げています。それを認知して貰えるよう我々が努力しないといけないですね。そのうちに「あの匠の連中が素晴らしいものを作っている」と言われるようになって、日本へのリスペクトが始まって、最終的に世界中の人が日本製を選ぶというマインドに行き着くんじゃないかと思っています。
AO:ところで前田さんがデザインをする上で、イマジネーションが膨らむ瞬間はどんな時ですか。
M:イマジネーションはいろんな場所で出てきますね。トレッキングで「きれいだな」と思った時や、レースのスタート前の緊張感とか、ダイレクトなカタチじゃないんですけど、あの気持ちをデザインにできないかと思っています。
全般的に、非日常で発想が浮かぶことが多いですね。業務の最中にはない。家では息子を叱っている瞬間に出てくるかな(笑)。静的ではなく、動的な状況で出てくるかもしれません。自分を追い込んでいる瞬間とも言えるでしょう。
ただ社員デザイナーは、そんなに外へ出て遊んでばかりはいられません。しかたなく机の前で考えていますけれど、本当はもっと外に出してあげたいところです。
AO:最後に若いカーデザインを目指す人に対して、メッセージをお願いします。
M:日本のアートスクールに講師で行ったりしますけれど、海外と比べるとレベルの差が大きいと感じます。何が違うのか?と考えますが、やはり海外の人たちのほうが本気でやっているように感じることが多いです。テイストはあまり関係ないんです。それ以前の、スピリットの問題が一番大きい。
まずは美というものが重要な価値であることを認知して、これを研ぎ澄ますという行為をやらないと、日本が滅んでしまうかもしれないという危機感を持ってほしいと思います。日本のデザインは世界で認められない存在になってきているのではないか?という危機感です。
だからデザインでなくてもいいから、ぜひ執念を持ってやり遂げるという経験をしてほしいんです。そういう意識を持った人間は強い。あとは真剣に、美とは何かを自問自答する時間を持ってほしいと思います。日本のデザインを支えるのは皆さんですから!
前田育男プロフィール
1959年生まれ。京都工芸繊維大学 工芸学部 意匠工芸学科卒。1982年にマツダ株式会社(当時 東洋工業)入社。商品企画部先行商品企画担当。以降、横浜デザインスタジオにてアドバンスデザインに従事。1999年にはデトロイトのフォードデザインスタジオへチーフデザイナーとして出向。2000年に広島デザインスタジオへ配属。RX-8や新型デミオのデザインを担当。2009年 デザイン本部長に就任。
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