フォード フィエスタ 試乗レポート

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ヨーロッパスモールカー市場のトップセラー、日本上陸

フィエスタは、フォーカスの下に位置する欧州フォードのベーシック・モデル。初代モデルの登場は1976年と、実はあのVWゴルフにも匹敵しようという歴史の持ち主でもある。実際、ヨーロッパ市場ではスモールカーとして押しも押されもしないトップセラーカーの一台で、その累計販売は軽々と1000万台超。現行3代目モデルのデビューは2002年のこと。そんなこのクルマの導入がここまで遅れた理由を「日本市場固有のATの設定に時間を要したため」とインポーターであるフォード・ジャパンは説明する。

ボディの全長×全幅は3915×1685。すなわち、日本車で言えばおおよそデミオと同等というのがそのサイズ。と言うよりも種を明かせば新型フィエスタは、同じフォード・グループに属するマツダのデミオと、基本骨格の根本を共にする一台なのだ。日本のフォードはこれから先、ヨーロッパ発のモデルの普及に力を注ぐと言う。そんな戦略の基盤づくりに欠かせないモデルとしても重要な役割を受け持つのが、この新型フィエスタということになる。

シンプルで実用的。ヨーロッパのコンパクトカーづくりの基本

フィエスタのルックスはご覧のようにシンプルで、かつ兄貴分であるフォーカスとの関連を強く印象づけるものだ。軽自動車を含め、国内での量販を意識した日本のコンパクトカーの場合、とかく「かわいらしさ」ばかりが全面に打ち出され気味。その点、フォーカスはそんな“甘さ”とは一線を画した雰囲気。そもそも、老若男女を問わず幅広い層に親しんでもらいたいという意識が、ヨーロッパのコンパクトカーづくりの基本にはあるはずなのだ。そんなエクステリアの雰囲気を反復するようにインテリアもまたシンプルで、いかにも実用車としての使い勝手を重視したかのようなデザイン。全般的にシートが小振りなのがちょっと惜しいが、空間としては「とりあえず大人4人に問題ナシ」という印象。ラゲッジスペースは深さが凄い。4WD仕様を設定しないため後輪駆動系を収める必要がなく、その分ラゲッジスペースを大きく取れるのも多くのヨーロッパ車のセールスポイントになる。

“質実剛健” 実用性とバランスの良さは水準以上

フィエスタの走りの雰囲気をひとことで表すならば、そこにピッタリと来る言葉は“質実剛健”。特に加速が強力というわけではないし、乗り心地が圧倒的に優れているというわけでもない。が、そうして特筆すべき抜きん出たポイントは持たない一方で様々な部分がいかにも「良く出来た実用車」のそれに相応しく、とてもバランス良くまとまっているからだ。低回転域で力強いトルクを発揮するエンジンは、4000rpmから上が少々ノイジーだがこうした実用モデルでは大いに歓迎したい特性を備えるし、それと組み合わされるATも「今さら」の4速仕様ながら日本の交通の流れの中でも違和感のないプログラムの持ち主。パワーステアリングはやや重めの設定だが路面の感触をしっかりと伝えてくれるし、コーナーリングにブレーキングが被ったシーンでもリアの落ち着き感は兄貴分のフォーカス以上に高い…という具合。剛性感がなかなか高いボディにしなやかに動く脚の組み合わせで、乗り心地もこのクラスの水準以上という印象だ。

“Made in Europe" ヨーロッパ人の合理的かつアイデンティティを

欧州フォードの開発拠点はドイツとイギリスの双方にまたがっている。輸入車に興味を示す多くの人が『○△×車』とその“産地”を国名に置き換えて受け入れる傾向の強い日本においては、これはちょっとばかり不利なポイントかも知れない。

が、EU加盟国が拡大の一途を続け、通貨統合も進むヨーロッパ圏をひとつの大きな地域と考えれば、もはや“Made in Europe"という表現の方が適切な時期が近づいているとも考えられる。実際、新型フィエスタはそのパッケージングも走りのテイストも極めてヨーロッパ臭の強い一台。そのルックスが強力な売り物になるとは思えないし走りの個性にも抜きん出た部分は感じられないが、ヨーロッパの人々の合理的な暮らしぶりに憧れを感じる人や彼の地の様々な価値観に共感を覚える人にとっては、きっとこのクルマは良き伴侶として活躍をしてくれることになるはずだ。

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河村 康彦
筆者河村 康彦

1960年東京生まれ。工学院大学機械工学科卒。モーターファン(三栄書房)の編集者を経て、1985年よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動を開始し、現在に至る。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー選考委員 などを歴任。記事一覧を見る

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