アウディ S6 海外試乗レポート(3/3)

  • 筆者: 河村 康彦
  • カメラマン:アウディ・ジャパン
アウディ S6 海外試乗レポート
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あくまでも“高級”かつ“夢のようにジェントル”なV10エンジン

テストドライブの当日は、雨の中に時には小雪すらが混じるというスッキリしない天候となってしまった。

が、そうしたシーンでこそ本領を発揮するのがアウディ得意のクワトロ・システム。400psを大きく超えるパワーの持ち主ともなれば通常の2WDモデルではアクセルペダルを踏み込む右足に思わず緊張が走るというもの。が、こうしたシチュエーションでも全く危なげなく駆動力をしっかりと地面に伝えてくれたのは、もちろんこのクルマが4WDシステムを“マスト・アイテム”として採用するアウディSシリーズの一員であったからだ。

ところで、「10気筒エンジンを搭載」と耳にするとそれはちょっとピーキーで日常ユースでは少々気を遣う性格の持ち主、と受け取られてしまうかも知れない。なるほど、ランボルギーニ・ガヤルドやポルシェ・カレラGT、そしてBMWのM5/M6などと、これまで10気筒の心臓を搭載してきたモデルたちというのはそのいずれもが「ちょっと特殊な」という形容詞を与えても良いキャラクターの持ち主に限られてきた。

が今回、過去に味わったそうしたクルマたちの心臓の印象と比較をしてみると、「(同じアウディ・グループの一員である)ランボルギーニ用ユニットのテクノロジーをベースに、全く新たに開発した」というS6に搭載のこの5.2リッター・エンジンが放つパワーフィールは、「夢のようにジェントル」と言っても良いものでもあった。最大トルクの発生回転数はわずかに3,000rpm。しかも「2,300rpmですでにその90%のトルクを発揮する」というこの心臓は、なるほど例え2,000rpmを下回っても十分太いトルク感を味わわせてくれる、いかにも“高級車向き”という性格の持ち主なのだ。

確かに、アクセルペダルを深く踏み込んでエンジン回転数が上昇をして行くと、身体がシートバックへと押さえつけられるちょっとばかりのカリスマ性が味わえる加速力も発揮はしてくれる。が、それでもその回転上昇に伴うパワーの盛り上がり感は、前述したような他のV10エンジン搭載モデルのそれには明らかに及ばないもの。そう、S6は同じ“V10”という記号の持ち主ではあっても、あくまでも「高級なセダン/ワゴン」というキャラクターをアピールする事に主眼が置かれたモデルである事が分かる。これ以上、さらなるスポーツ性を望みたいというユーザーに対しては……そこでは、噂される次期RS6の登場を待って欲しいという事なのか知れない。

ところで、強心臓を手にしたS6がその足回りにもそれに相応しい強化を行っているのは言うまでもないだろう。特に、荒れた路面に差し掛かるとアバントの方により強い揺すられ感を抱かされたのは、こちらがセダン以上の重量物の積載を前提としているためか、あるいはボディ後端に大きな開口部を備えるというデザインの違いゆえであろうか。

いずれにしても、時にちょっとばかりしなやかさに欠ける乗り味を実感させられたのは事実だった。微低速時の快適性と250km/hレベルでの安定性を両立させるためには、現状ではオーソドックスな機械式を採用するシャシー・システムに電子制御の技術を加える事も有効なのではないだろうか・・・。

テストルートの関係からハードなブレーキングを繰り返すようなシーンには遭遇しなかったが、それでもやはり強化型のシステムを採用したブレーキは常に信頼に足るフィーリングを味わわせてくれた。200km/hを大きく超えるクルージング能力を実現させるために必要なのは、実はエンジンではなく強力なブレーキ・システムの方なのだ。

日常シーンからすこぶる強力な実力を発揮する心臓を手に入れ、それを支える4WDのシャシーを身につけたS6は、まさに“全天候型の高速アウトバーン・クルーザー”と言える走りのキャラクターの持ち主だった。そんなハイレベルな走りのポテンシャルをひけらかさない控え目なルックスにも、このモデルならではのファンが生まれてきそうだ。

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河村 康彦
筆者河村 康彦

1960年東京生まれ。工学院大学機械工学科卒。モーターファン(三栄書房)の編集者を経て、1985年よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動を開始し、現在に至る。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー選考委員 などを歴任。記事一覧を見る

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監修者MOTA編集部

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